ハーフ&ハーフ

黒蝶

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断暮篇(たちぐらしへん)

戻ってきた日常

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私の退院はそれからすぐ決まった。
毎日のように誰かが交代でお見舞いにきてくれたのはすごく嬉しくて、ただひたすら感謝しかない。
「なんだか久しぶりに帰ってきたような気がする...」
「私も同じことを考えた」
ずっと病院にほぼつきっきりで側にいてくれた木葉に対しても、ただ感謝している。
(ますます好きになっちゃった...)
不謹慎なのかもしれないけれど、同時にそんな想いも抱いた。
「今夜はもう休もうか」
「うん」
仕事のとき以外はずっと側にいてくれて、それだけで充分心が軽くなっていくのを感じた。
この気持ちは、どんなことをして返していけばいいだろう...。
そう考えているうちに眠ってしまっていたのか、今目の前には大きな翼が広げられている。
「久しぶりだね、ノワール」
ノワールはばさばさと羽を動かして、そのまま部屋をぐるりと1周した。
日常を護れたという実感が少し出てきてなんだかほっとする。
もうあの人たちに追われることはない...その事実がここまで安心できるものだなんて予想していなかった。
「木葉、起きられる?」
「おはよう...」
お昼前になって木葉を起こすと、髪がぴょこんとはねていた。
「ん...どうかした?」
「なんでもない」
そう言いつつもなんだか可愛らしく感じられて、つい頭を撫でてしまっていた。
寝惚けているから気づいていないのか、されるがままになってくれているのが微笑ましい。
(こんな毎日が続いていけばいいな)
ようやく目が覚めた木葉に突っこまれた後、ふたりでご飯を食べながら話をする。
「星、今夜ならきっと綺麗に見えるよ」
「用意してくれてたの?」
「うん。ここからならきっとよく観測できるだろうなって...」
「ありがとう」
私がやりたいと話したことをこうして叶えてもらえるのは素直に嬉しい。
一緒に過ごしているうちに夜はすぐにおとずれた。
空を見上げていると、沢山の星が輝きはじめる。
「すごく綺麗...」
「そうだね」
いつもと少し様子が違うような気がして木葉に目を向ける。
彼は笑っていたけれど、何か隠しているような気がした。
(もしかして...)
私はずっと病院にいて、クレールを飲んでいるところを1度も見ていない。
本当はずっと満たされていないものを耐えているんじゃないだろうか。
「...ねえ木葉」
「どうかした?」
「私は木葉を愛してる」
「ど、どうしたの急に...」
大切だからこそ、木葉にはひとりで我慢してほしくない。
「だから、どうしてもしてほしいことがあるんだ」
「どうしてもしてほしいこと...?」
ひと呼吸間をおいて、一息に告げた。
「お願い、私を咬んで」
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