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断暮篇(たちぐらしへん)
目覚め
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七海が負った怪我は、予想以上に酷いものだった。
長い夜が明け朝陽が降り注ぐなか、僕の瞼はどんどん重くなっていく。
「私たちは起きているから、あなたは少し休みなさい。ずっと起きているのも辛いでしょ?」
「...ごめん」
「俺たちのことは気にせず休息をとれ。おまえだって怪我をしているんだから、ちゃんと治さないとな」
未だ眠ったままの七海の手を握ったまま、そっと目を閉じる。
本当はずっと起きて側にいたいが、残念なことにそれはどうしても叶わなかった。
「こ、こんにちは...」
「ノワールと、シェリ?」
次に目を開けたとき、すぐ側にいたのは七海の友人と1羽の烏だった。
何故ふたりがここにいるのか分からず、少しだけ頭が混乱する。
そんな様子を見ていたからか、シェリが慌てて説明をはじめた。
「えっと...おふたりは、お仕事で、私は、お休みで、」
えっと、と繰り返す彼女を見ているといつもどおりでなんだかほっとした。
「つまり、母とラッシュさんは後処理に出掛けたんだね?」
朝陽なんて敵だ、昼間の高温で焼けてしまいそうだと話していたふたりが動いてくれたのは僕の為だと分かっている。
こくりと頷くシェリは俯きがちに呟いた。
「...起きない、です」
「そんなにすぐは起きないんじゃないかな」
「でも、手、離さない、から...」
そういえばと自分の手の方に目を向ける。
僕の左手は、弱々しい力であったもののしっかり握り返されていた。
「気づいてなかった...。ありがとうシェリ。ノワールのこと、任せてもいい?」
「分かり、ました」
「今日は仕事もないし、あとは僕が看てるから大丈夫だよ」
シェリは何か言いたげな表情をしていたが、やがて静かに部屋を出る。
彼女に続くノワールの後ろ姿を見送り、ベッドの側に座りなおした。
「七海...」
すぐには起きないんじゃないかなんて口では言っておきながら、実は不安で仕方がない。
もしこのまま目が覚めなかったら、そのままぬくもりが失われていったら...ついそんな悪いことばかりに目がいってしまう。
「七海はやっと自由になったんだよ。もうあの家の人たちが追ってくることは絶対にない」
あの人たちなりの正義があったとしても、七海が望んでいないのなら大人しく引き渡すわけにはいかない。
だからといってこんなふうに怪我をさせるつもりなんかなかったのにと、ただただ後悔しかなかった。
「もう逃げ隠れするような生活をしたり、怖い思いをするようなことも絶対にさせない。
だから...お願い、起きて。ふたりで話がしたいんだ」
どんな言葉でもいいから、どんなに拙くてもいいから声が聞きたい。
突っ伏して零れる涙を隠していると、少し遠くから小さく声が届く。
その声は、間違いなく僕を呼んでいた。
──木葉
長い夜が明け朝陽が降り注ぐなか、僕の瞼はどんどん重くなっていく。
「私たちは起きているから、あなたは少し休みなさい。ずっと起きているのも辛いでしょ?」
「...ごめん」
「俺たちのことは気にせず休息をとれ。おまえだって怪我をしているんだから、ちゃんと治さないとな」
未だ眠ったままの七海の手を握ったまま、そっと目を閉じる。
本当はずっと起きて側にいたいが、残念なことにそれはどうしても叶わなかった。
「こ、こんにちは...」
「ノワールと、シェリ?」
次に目を開けたとき、すぐ側にいたのは七海の友人と1羽の烏だった。
何故ふたりがここにいるのか分からず、少しだけ頭が混乱する。
そんな様子を見ていたからか、シェリが慌てて説明をはじめた。
「えっと...おふたりは、お仕事で、私は、お休みで、」
えっと、と繰り返す彼女を見ているといつもどおりでなんだかほっとした。
「つまり、母とラッシュさんは後処理に出掛けたんだね?」
朝陽なんて敵だ、昼間の高温で焼けてしまいそうだと話していたふたりが動いてくれたのは僕の為だと分かっている。
こくりと頷くシェリは俯きがちに呟いた。
「...起きない、です」
「そんなにすぐは起きないんじゃないかな」
「でも、手、離さない、から...」
そういえばと自分の手の方に目を向ける。
僕の左手は、弱々しい力であったもののしっかり握り返されていた。
「気づいてなかった...。ありがとうシェリ。ノワールのこと、任せてもいい?」
「分かり、ました」
「今日は仕事もないし、あとは僕が看てるから大丈夫だよ」
シェリは何か言いたげな表情をしていたが、やがて静かに部屋を出る。
彼女に続くノワールの後ろ姿を見送り、ベッドの側に座りなおした。
「七海...」
すぐには起きないんじゃないかなんて口では言っておきながら、実は不安で仕方がない。
もしこのまま目が覚めなかったら、そのままぬくもりが失われていったら...ついそんな悪いことばかりに目がいってしまう。
「七海はやっと自由になったんだよ。もうあの家の人たちが追ってくることは絶対にない」
あの人たちなりの正義があったとしても、七海が望んでいないのなら大人しく引き渡すわけにはいかない。
だからといってこんなふうに怪我をさせるつもりなんかなかったのにと、ただただ後悔しかなかった。
「もう逃げ隠れするような生活をしたり、怖い思いをするようなことも絶対にさせない。
だから...お願い、起きて。ふたりで話がしたいんだ」
どんな言葉でもいいから、どんなに拙くてもいいから声が聞きたい。
突っ伏して零れる涙を隠していると、少し遠くから小さく声が届く。
その声は、間違いなく僕を呼んでいた。
──木葉
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