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断暮篇(たちぐらしへん)
消えない不安
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「帰ったらまずお風呂沸かさないとね」
「それから...その傷、私に手当てあせて」
「それじゃあお願いしようかな」
私だけではなく木葉まで狙ってきたというところは、怖かったの一言に尽きる。
ヴァンパイアとのハーフとはいえ、大量に出血すれば当然命にも関わってくるはずだ。
(やっぱり私は、まだまだ周りが見えていないみたい...)
「七海、こっち来て」
「え?」
はっと気づいたときには、あと1歩で水たまりに突っこんでいく寸前だった。
「ごめんね。ありがとう」
「...今日はいつもよりちょっと贅沢しよう。何か食べたいものはない?」
「最近駅の近くにできた、少しお値段高めの高級食材がふんだんに使われてるお弁当、かな」
「広告を見て僕も気になってたんだ。焼き肉弁当とか海鮮丼とか、種類も色々あるみたいだったよ」
木葉が気を遣ってくれていることはすぐに分かった。
いつもなら大丈夫だからと伝えられるけれど、今日はそう言っても説得力がないだろう。
歩調もあわせてもらって、護ってもらってばかりで...何もかもが申し訳なかった。
「それじゃあいくよ」
「お、お手柔らかに...」
木葉の傷を生理食塩水につける。
だんだん表情が歪んでいくのを見ているだけで、私まで痛むような気がした。
「消毒するね」
「うん...お願いします」
まさかこんなふうに誰かを手当てする日がくるなんて思っていなかった。
いつ役に立つのだろうと思ったこともあったけれど、今この瞬間はちゃんとできるようになっておいてよかったと思う。
「...はい、これで手当て終わり」
「ありがとう。七海は器用だね」
「そんなことないと思うんだけど...」
普段どおり話をしていくけれど、木葉からはいつも以上の優しさを感じている。
「...お風呂、先に入って」
「それじゃあそうさせてもらうね。お弁当屋さんには今から連絡しておくから」
「...うん」
今の私は、ちゃんと笑えていただろうか。
笑顔を向けたつもりだったけれど、全く自信がない。
これからもこんなことが続いていくのだろうか。
周りを巻きこむかもしれないし、もう誰ともいない方がいいのではないか...そんなことを考えてしまうのだ。
(ふたりで頑張ろうって木葉はいつも言ってくれるけど、今回は私ばかりが迷惑をかけてる。
...もっとできることを探さないと)
「またひとりで抱えこもうとしてるでしょ、七海」
「もう出てたんだね」
質問には答えずに、思ったままを口にする。
木葉の表情は哀しみに染まっていて、体が固まってしまいそうになった。
「...不安なのは分かるけど、僕のことを遠ざけようとしないでほしいな」
抱きしめてくれた腕は温かくて泣いてしまいそうになる。
どうして彼の言葉は、いつも私の心を溶かしてくれるのだろう。
「それから...その傷、私に手当てあせて」
「それじゃあお願いしようかな」
私だけではなく木葉まで狙ってきたというところは、怖かったの一言に尽きる。
ヴァンパイアとのハーフとはいえ、大量に出血すれば当然命にも関わってくるはずだ。
(やっぱり私は、まだまだ周りが見えていないみたい...)
「七海、こっち来て」
「え?」
はっと気づいたときには、あと1歩で水たまりに突っこんでいく寸前だった。
「ごめんね。ありがとう」
「...今日はいつもよりちょっと贅沢しよう。何か食べたいものはない?」
「最近駅の近くにできた、少しお値段高めの高級食材がふんだんに使われてるお弁当、かな」
「広告を見て僕も気になってたんだ。焼き肉弁当とか海鮮丼とか、種類も色々あるみたいだったよ」
木葉が気を遣ってくれていることはすぐに分かった。
いつもなら大丈夫だからと伝えられるけれど、今日はそう言っても説得力がないだろう。
歩調もあわせてもらって、護ってもらってばかりで...何もかもが申し訳なかった。
「それじゃあいくよ」
「お、お手柔らかに...」
木葉の傷を生理食塩水につける。
だんだん表情が歪んでいくのを見ているだけで、私まで痛むような気がした。
「消毒するね」
「うん...お願いします」
まさかこんなふうに誰かを手当てする日がくるなんて思っていなかった。
いつ役に立つのだろうと思ったこともあったけれど、今この瞬間はちゃんとできるようになっておいてよかったと思う。
「...はい、これで手当て終わり」
「ありがとう。七海は器用だね」
「そんなことないと思うんだけど...」
普段どおり話をしていくけれど、木葉からはいつも以上の優しさを感じている。
「...お風呂、先に入って」
「それじゃあそうさせてもらうね。お弁当屋さんには今から連絡しておくから」
「...うん」
今の私は、ちゃんと笑えていただろうか。
笑顔を向けたつもりだったけれど、全く自信がない。
これからもこんなことが続いていくのだろうか。
周りを巻きこむかもしれないし、もう誰ともいない方がいいのではないか...そんなことを考えてしまうのだ。
(ふたりで頑張ろうって木葉はいつも言ってくれるけど、今回は私ばかりが迷惑をかけてる。
...もっとできることを探さないと)
「またひとりで抱えこもうとしてるでしょ、七海」
「もう出てたんだね」
質問には答えずに、思ったままを口にする。
木葉の表情は哀しみに染まっていて、体が固まってしまいそうになった。
「...不安なのは分かるけど、僕のことを遠ざけようとしないでほしいな」
抱きしめてくれた腕は温かくて泣いてしまいそうになる。
どうして彼の言葉は、いつも私の心を溶かしてくれるのだろう。
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