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断暮篇(たちぐらしへん)
七海のお仕事
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「中津君、ちょっといいかな?」
「はい」
終業時間間際、何故か店長に呼び出される。
もしかすると何か不備があったのか...不安に思っていると、予想外の質問がきた。
「こんな訊き方をするのはあれだけど、彼女は何をやっているのかな?」
視線の先には、沢山メモを取っている七海の姿があった。
よほど集中しているのか、こちらの状況にも気づいていないらしい。
「もしかして新聞記者さんとか...それならもっと綺麗な洋服で来ればよかったかな」
そんな冗談を口にしている店長にどう答えればいいのか迷ってしまう。
「記者ではないです。ただ...本好きとして、彼女の仕事を心から尊敬しています」
迷いなくそう告げると、店長はそうかと優しく笑った。
怪我の理由も七海の仕事についても詮索しないでいてくれたことに感謝しかない。
「...七海、おまたせ」
「え、あ、ごめん。集中して全然気づいてなかった...」
そのメモには細かくびっしりと物語の欠片が散りばめられていて、頬が緩むのを止められなかった。
「どうしたの?」
「やっぱり楽しそうだなって思っただけだよ」
向けられた笑顔に見とれていると、後ろから肩をたたかれる。
「木葉」
「柊、お疲れ様。どうかしたの?」
「...仲がいいのはいいことだけど、もう少し場所を考えた方がいい」
周りを見てみると、他の従業員たちから微笑ましいという視線がおくられている。
...全然気づいていなかった。
「し、失礼しました...」
頭を下げる七海につられて僕も一礼する。
店長に和やかな目で見つめられ、だんだん恥ずかしさが増していくような気がした。
お疲れ様でしたと声をかけ、そのまま夜道を歩く。
「どうして突然見学に来たの?」
「えっと...」
「柊、いきなり訊かれたら七海が戸惑うよ」
ちょっとした段差につまずきそうになった七海を支えると、ほっとしたような表情でじっと見つめられる。
「ありがとう。すごく参考になったよ」
「それならいいんだけど...」
「僕は邪魔になるから失礼するよ。...木葉、また明後日」
柊とも途中の道でわかれて、そのままふたりで真っ直ぐ歩いていく。
月光が背中を照らすなか、ずっと疑問に思っていたことを口にする。
「七海はいつもああやってメモを取ってるの?」
「うん。参考になりそうなこととか、どういう物語にするかとか...本当に単純なんだけどね」
ひとつのものに愛情を注げる、それが七海の強さなのだろう。
物語を創ることは容易ではない。
それを毎日必死で紡いでいる姿を、やはり僕は心から尊敬する。
「帰ったら何か飲もう」
「いいね。どんなものがいい?」
「...コンビニで買おう」
「新しいの出てるかな?」
七海の仕事はかなり頭を使うはずだ。
何か甘いものはないか...そんなことを考えながらこみあげてくる欲求を誤魔化した。
「はい」
終業時間間際、何故か店長に呼び出される。
もしかすると何か不備があったのか...不安に思っていると、予想外の質問がきた。
「こんな訊き方をするのはあれだけど、彼女は何をやっているのかな?」
視線の先には、沢山メモを取っている七海の姿があった。
よほど集中しているのか、こちらの状況にも気づいていないらしい。
「もしかして新聞記者さんとか...それならもっと綺麗な洋服で来ればよかったかな」
そんな冗談を口にしている店長にどう答えればいいのか迷ってしまう。
「記者ではないです。ただ...本好きとして、彼女の仕事を心から尊敬しています」
迷いなくそう告げると、店長はそうかと優しく笑った。
怪我の理由も七海の仕事についても詮索しないでいてくれたことに感謝しかない。
「...七海、おまたせ」
「え、あ、ごめん。集中して全然気づいてなかった...」
そのメモには細かくびっしりと物語の欠片が散りばめられていて、頬が緩むのを止められなかった。
「どうしたの?」
「やっぱり楽しそうだなって思っただけだよ」
向けられた笑顔に見とれていると、後ろから肩をたたかれる。
「木葉」
「柊、お疲れ様。どうかしたの?」
「...仲がいいのはいいことだけど、もう少し場所を考えた方がいい」
周りを見てみると、他の従業員たちから微笑ましいという視線がおくられている。
...全然気づいていなかった。
「し、失礼しました...」
頭を下げる七海につられて僕も一礼する。
店長に和やかな目で見つめられ、だんだん恥ずかしさが増していくような気がした。
お疲れ様でしたと声をかけ、そのまま夜道を歩く。
「どうして突然見学に来たの?」
「えっと...」
「柊、いきなり訊かれたら七海が戸惑うよ」
ちょっとした段差につまずきそうになった七海を支えると、ほっとしたような表情でじっと見つめられる。
「ありがとう。すごく参考になったよ」
「それならいいんだけど...」
「僕は邪魔になるから失礼するよ。...木葉、また明後日」
柊とも途中の道でわかれて、そのままふたりで真っ直ぐ歩いていく。
月光が背中を照らすなか、ずっと疑問に思っていたことを口にする。
「七海はいつもああやってメモを取ってるの?」
「うん。参考になりそうなこととか、どういう物語にするかとか...本当に単純なんだけどね」
ひとつのものに愛情を注げる、それが七海の強さなのだろう。
物語を創ることは容易ではない。
それを毎日必死で紡いでいる姿を、やはり僕は心から尊敬する。
「帰ったら何か飲もう」
「いいね。どんなものがいい?」
「...コンビニで買おう」
「新しいの出てるかな?」
七海の仕事はかなり頭を使うはずだ。
何か甘いものはないか...そんなことを考えながらこみあげてくる欲求を誤魔化した。
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