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断暮篇(たちぐらしへん)
木葉のお仕事
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「...木葉」
「どうかしたの?」
「今日、木葉のお仕事先に見学に行ってもいい?」
私は決して木葉を縛りつけたいわけじゃない。
ただ、今回紡ぐ物語の為にどうしても情報が必要なのだ。
「店長に連絡してみる。もし断られたらごめんね」
「ううん。...無理を言っているのは私だから」
その結果、業務に支障をきたさない程度ならと許可がおりた。
木葉から聞いてはいたけれど、本当に心が広い店長さんらしい。
(こんなふうに突然言われたら断られるのが普通なのに、すごくありがたい)
「それじゃあ行こうか」
「うん」
いつもより早めの時間に声をかけてくれる。
遅刻をしないようにというのと私を気遣ってのことだろうと思うと、申し訳ない反面嬉しいとも感じてしまう。
(...にやにやしないようにしないと)
そうして辿り着いたのは、いつも外から見ていた場所。
「店長、ちょっと彼女をお願いします」
「中津君、今日もよろしくね」
「こんばんは。お世話になります」
「こちらこそ、見学してみたいなんて言ってもらえて光栄だよ」
流石に取材させてほしいなんて言える立場ではないので、本当の理由は伏せておく。
目の前に積まれている箱からは大量の本がのぞいていて、その多さに圧倒されてしまう。
「こっちへどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
みんな黙々とやっていくのかと勝手に想像していると、何やら楽しそうに話しながら手を進める社員さんたちの姿が目に入った。
店長さんは特に注意することもなく見守っている。
「...ここには、金銭面で苦労しながら大学に通っている子たちもよく来てくれていてね」
突然話しかけられて驚いていると、店長さんはにこやかに笑って続けた。
「他の場所では、きっと黙ってやりなさいとか早くしなさいとか言われているんだろうと思うんだ。
...でも私は、効率よりも彼等に楽しく働いてほしい。もっとも、みんなちゃんとペースがあるからなんだけど」
「素敵な考え方だと思います」
隣に座っているおじいさんは、ただありがとうと言ってくれた。
「ただ、君のボーイフレンドとお友だちは格段速くてとても助かっているよ」
「木葉が...」
目を向けてみると、回りがもう空き箱で溢れはじめている。
その近くには、見知った顔もあった。
(柊さんと一緒に作業しているんだ...)
みんな大変そうに見えるけれど、それでも笑顔があるのが救いだ。
それは今日だけで作れるようなものではなく、本当に本が好きでやっているのが分かる。
「見たところ怪我をしているようだが、大丈夫かい?」
「お気遣いありがとうございます。ただ、本好きとしてもっと見ていたいんです。
...邪魔になるようなら、」
「いや、そんなことはないよ。寧ろありがたい」
木葉たちに魅いっているうちに、あっという間に時間は過ぎていく。
こうして本が手元に届くのだと思うと、なんだか感激した。
「どうかしたの?」
「今日、木葉のお仕事先に見学に行ってもいい?」
私は決して木葉を縛りつけたいわけじゃない。
ただ、今回紡ぐ物語の為にどうしても情報が必要なのだ。
「店長に連絡してみる。もし断られたらごめんね」
「ううん。...無理を言っているのは私だから」
その結果、業務に支障をきたさない程度ならと許可がおりた。
木葉から聞いてはいたけれど、本当に心が広い店長さんらしい。
(こんなふうに突然言われたら断られるのが普通なのに、すごくありがたい)
「それじゃあ行こうか」
「うん」
いつもより早めの時間に声をかけてくれる。
遅刻をしないようにというのと私を気遣ってのことだろうと思うと、申し訳ない反面嬉しいとも感じてしまう。
(...にやにやしないようにしないと)
そうして辿り着いたのは、いつも外から見ていた場所。
「店長、ちょっと彼女をお願いします」
「中津君、今日もよろしくね」
「こんばんは。お世話になります」
「こちらこそ、見学してみたいなんて言ってもらえて光栄だよ」
流石に取材させてほしいなんて言える立場ではないので、本当の理由は伏せておく。
目の前に積まれている箱からは大量の本がのぞいていて、その多さに圧倒されてしまう。
「こっちへどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
みんな黙々とやっていくのかと勝手に想像していると、何やら楽しそうに話しながら手を進める社員さんたちの姿が目に入った。
店長さんは特に注意することもなく見守っている。
「...ここには、金銭面で苦労しながら大学に通っている子たちもよく来てくれていてね」
突然話しかけられて驚いていると、店長さんはにこやかに笑って続けた。
「他の場所では、きっと黙ってやりなさいとか早くしなさいとか言われているんだろうと思うんだ。
...でも私は、効率よりも彼等に楽しく働いてほしい。もっとも、みんなちゃんとペースがあるからなんだけど」
「素敵な考え方だと思います」
隣に座っているおじいさんは、ただありがとうと言ってくれた。
「ただ、君のボーイフレンドとお友だちは格段速くてとても助かっているよ」
「木葉が...」
目を向けてみると、回りがもう空き箱で溢れはじめている。
その近くには、見知った顔もあった。
(柊さんと一緒に作業しているんだ...)
みんな大変そうに見えるけれど、それでも笑顔があるのが救いだ。
それは今日だけで作れるようなものではなく、本当に本が好きでやっているのが分かる。
「見たところ怪我をしているようだが、大丈夫かい?」
「お気遣いありがとうございます。ただ、本好きとしてもっと見ていたいんです。
...邪魔になるようなら、」
「いや、そんなことはないよ。寧ろありがたい」
木葉たちに魅いっているうちに、あっという間に時間は過ぎていく。
こうして本が手元に届くのだと思うと、なんだか感激した。
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