215 / 258
断暮篇(たちぐらしへん)
小回り道
しおりを挟む
監視するつもりはないが、あまり七海から離れるのは不安だ。
「...ノワール」
初めてカフェを見たときから、なんとなく既視感はあった。
もしかしたら、昔来たことがあったかもしれないと...。
どうやらその勘は間違っていなかったようだ。
「...懐かしいね」
肩に乗せたままのノワールに話しかけながら、細道を少しずつ前に進んでいく。
──それはまだ、僕にヴァンパイアの血が流れているとばれてしまったばかりの頃。
『...明日から学校どうしようかな』
本当は大学からの推薦の話がきていた。
まだ2年生なので考えさせてくださいとは話しておいたものの、受けなくて本当によかったと思っている。
翌日は結局学校へ行ったものの、すれ違っただけで悲鳴をあげられてしまう始末だった。
「...辞めちゃおうかな」
そこで僕は、働きながらでも通える学校を探すことにした。
そのとき人の目を避けて通るのに丁度よかったのが偶然見つけたこの道だ。
この先には、今でも仕事先としてお世話になっている小さな書店がある。
『あの、僕...4月から1年通信制高校に通うつもりなんです。それでも雇ってもらえますか?』
店主はただ笑って、自分がこられそうな時間帯に体験においでと言ってくれた。
元々通っていた学校は夜間で、高卒認定も受けながら3年で卒業できるようにはしていたのだ。
朝起きられないから、通信制に通いきれる自信もあまりない。
それでも頑張れたのは、この小道があったからだ。
『...ごめんノワール、ちょっと疲れちゃった』
雨の日もその狭い道に座りこんで、死ぬ気で参考書に目を通したこともある。
『こんにちは』
『お疲れ。...中津君、もしよかったら高校を卒業したら正社員としてやってみないかい?』
『いいんですか?』
そんな思い出がつまった道がまだ残っているとは思わなかった。
近くには大福が美味しいお店があって、いつも買っていたのを思い出す。
「...あった」
あんなおしゃれなカフェは見たことがなかったから分からなかったものの、やはりここには僕の色を失っていた世界の全てが存在していた。
久しぶりに大福が食べたくなって暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませ...あら?もしかして、ずっと通ってくださってた学生さん?」
「こんにちは。お久しぶりです。今はもう学生じゃないんですけど、この近くの本屋で働いています」
「そうなの...。それじゃあ、弥生ちゃんと同い年くらいなのね」
「弥生ちゃん?」
「毎日のように通ってくれてた、すごくいい子でね...今はうちの従業員なの」
「そうなんですね。あ、大福ふたつください」
同時期に卒業した生徒に同じ名前の子がいたような気がしたが、気のせいだろうか。
この日は確認せず、大福をもってまたきますとだけ伝えた。
...七海と一緒に食べられるのが楽しみだ。
「...ノワール」
初めてカフェを見たときから、なんとなく既視感はあった。
もしかしたら、昔来たことがあったかもしれないと...。
どうやらその勘は間違っていなかったようだ。
「...懐かしいね」
肩に乗せたままのノワールに話しかけながら、細道を少しずつ前に進んでいく。
──それはまだ、僕にヴァンパイアの血が流れているとばれてしまったばかりの頃。
『...明日から学校どうしようかな』
本当は大学からの推薦の話がきていた。
まだ2年生なので考えさせてくださいとは話しておいたものの、受けなくて本当によかったと思っている。
翌日は結局学校へ行ったものの、すれ違っただけで悲鳴をあげられてしまう始末だった。
「...辞めちゃおうかな」
そこで僕は、働きながらでも通える学校を探すことにした。
そのとき人の目を避けて通るのに丁度よかったのが偶然見つけたこの道だ。
この先には、今でも仕事先としてお世話になっている小さな書店がある。
『あの、僕...4月から1年通信制高校に通うつもりなんです。それでも雇ってもらえますか?』
店主はただ笑って、自分がこられそうな時間帯に体験においでと言ってくれた。
元々通っていた学校は夜間で、高卒認定も受けながら3年で卒業できるようにはしていたのだ。
朝起きられないから、通信制に通いきれる自信もあまりない。
それでも頑張れたのは、この小道があったからだ。
『...ごめんノワール、ちょっと疲れちゃった』
雨の日もその狭い道に座りこんで、死ぬ気で参考書に目を通したこともある。
『こんにちは』
『お疲れ。...中津君、もしよかったら高校を卒業したら正社員としてやってみないかい?』
『いいんですか?』
そんな思い出がつまった道がまだ残っているとは思わなかった。
近くには大福が美味しいお店があって、いつも買っていたのを思い出す。
「...あった」
あんなおしゃれなカフェは見たことがなかったから分からなかったものの、やはりここには僕の色を失っていた世界の全てが存在していた。
久しぶりに大福が食べたくなって暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませ...あら?もしかして、ずっと通ってくださってた学生さん?」
「こんにちは。お久しぶりです。今はもう学生じゃないんですけど、この近くの本屋で働いています」
「そうなの...。それじゃあ、弥生ちゃんと同い年くらいなのね」
「弥生ちゃん?」
「毎日のように通ってくれてた、すごくいい子でね...今はうちの従業員なの」
「そうなんですね。あ、大福ふたつください」
同時期に卒業した生徒に同じ名前の子がいたような気がしたが、気のせいだろうか。
この日は確認せず、大福をもってまたきますとだけ伝えた。
...七海と一緒に食べられるのが楽しみだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる