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遡暮篇(のぼりぐらしへん)
治まらぬ渇き
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その日の夜、僕はまた腕を切った。
今日くらいは流石にゆっくりしてほしい。
「木葉、ご飯できたよ」
「わざわざ作ってくれたの?ごめん、僕がやろうと思ってたのに...」
「気にしないで。私がやりたかっただけから」
七海は優しくそう笑ってくれるものの、少し無理をしたような形跡が見られる。
それが本当に申し訳なくて、もっと自発的に動かなければと反省した。
「足の包帯、先に換えようか」
「ごめん。...やっぱり杖がないと動けないのは慣れない」
僕にも似たような経験があるから分からなくもない。
ただ、その度に痛みがぶり返したりして完治から遠退いてしまうことになる。
「...はい、終わったよ」
「ありがとう」
その一言だけで、渇きが酷くなっていくのを感じる。
「いただきます」
向かい合って両手をあわせ、そのまま夕飯を食べ進める。
お茶を何杯も飲んで誤魔化してみようとしたが、残念なことに気を紛らわせるくらいにしかならなかった。
「木葉」
「どうかしたの?」
「...咬んで」
七海は何故か縋るような瞳で僕をじっと見つめる。
...ここまでくればやはり誤魔化すことはできそうにない。
「ごめん」
「ううん。でも最近、あんまり体調よくなかったから美味しくないかもしれない...こちらこそごめんね」
こんなときでも彼女は僕のことを気遣ってくれている。
それが尚更申し訳なかった。
悪いのは僕なのに、罵詈雑言のひとつも言わずにただ咬んでほしいと優しく微笑みかけてくれる。
「...それじゃあ、ご飯の後でいい?」
「勿論」
今だけはふたりで人間らしいことをしたかった。
僕が生粋の人間なら、こんなことにだけはならなかっただろう。
食べている間もずっと申し訳なさでいっぱいだった。
なんとかおさまってほしいのに、寧ろ渇きは僕を嘲笑うかのように酷くなっていく。
「...ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
七海は少し短くなった髪をかきあげ、綺麗な首筋をさらす。
これから傷つけてしまうのだと思うと自己嫌悪で動けなくなりそうだ。
「...お願い、咬んで」
その一言で理性なんてどこかへいってしまった。
目の前の白い肌に思いきり牙を突き立てると、七海は痛がるどころか目をとろんとさせて僕の首に腕を回す。
「私は大丈夫。もっと呑んで」
「どうしてそんなに優しくしてくれるの?」
「木葉が泣きそうな表情をしていたから。...困ってるように見えたからかな。
咬まれても痛みってあんまり感じないんだ。本当に大丈夫だから、咬んで」
その言葉を合図に、今度は少し左側を咬む。
その甘さに耐えきれず、結局何度も傷つけてしまう。
それでも七海はただ笑っていた。
...まるで、全てを受け入れてくれるように。
今日くらいは流石にゆっくりしてほしい。
「木葉、ご飯できたよ」
「わざわざ作ってくれたの?ごめん、僕がやろうと思ってたのに...」
「気にしないで。私がやりたかっただけから」
七海は優しくそう笑ってくれるものの、少し無理をしたような形跡が見られる。
それが本当に申し訳なくて、もっと自発的に動かなければと反省した。
「足の包帯、先に換えようか」
「ごめん。...やっぱり杖がないと動けないのは慣れない」
僕にも似たような経験があるから分からなくもない。
ただ、その度に痛みがぶり返したりして完治から遠退いてしまうことになる。
「...はい、終わったよ」
「ありがとう」
その一言だけで、渇きが酷くなっていくのを感じる。
「いただきます」
向かい合って両手をあわせ、そのまま夕飯を食べ進める。
お茶を何杯も飲んで誤魔化してみようとしたが、残念なことに気を紛らわせるくらいにしかならなかった。
「木葉」
「どうかしたの?」
「...咬んで」
七海は何故か縋るような瞳で僕をじっと見つめる。
...ここまでくればやはり誤魔化すことはできそうにない。
「ごめん」
「ううん。でも最近、あんまり体調よくなかったから美味しくないかもしれない...こちらこそごめんね」
こんなときでも彼女は僕のことを気遣ってくれている。
それが尚更申し訳なかった。
悪いのは僕なのに、罵詈雑言のひとつも言わずにただ咬んでほしいと優しく微笑みかけてくれる。
「...それじゃあ、ご飯の後でいい?」
「勿論」
今だけはふたりで人間らしいことをしたかった。
僕が生粋の人間なら、こんなことにだけはならなかっただろう。
食べている間もずっと申し訳なさでいっぱいだった。
なんとかおさまってほしいのに、寧ろ渇きは僕を嘲笑うかのように酷くなっていく。
「...ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
七海は少し短くなった髪をかきあげ、綺麗な首筋をさらす。
これから傷つけてしまうのだと思うと自己嫌悪で動けなくなりそうだ。
「...お願い、咬んで」
その一言で理性なんてどこかへいってしまった。
目の前の白い肌に思いきり牙を突き立てると、七海は痛がるどころか目をとろんとさせて僕の首に腕を回す。
「私は大丈夫。もっと呑んで」
「どうしてそんなに優しくしてくれるの?」
「木葉が泣きそうな表情をしていたから。...困ってるように見えたからかな。
咬まれても痛みってあんまり感じないんだ。本当に大丈夫だから、咬んで」
その言葉を合図に、今度は少し左側を咬む。
その甘さに耐えきれず、結局何度も傷つけてしまう。
それでも七海はただ笑っていた。
...まるで、全てを受け入れてくれるように。
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