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遡暮篇(のぼりぐらしへん)
知らなかった物語
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「...海穂のことを知るなら、これを読むのが1番いいと思う」
そう言って差し出されたのは、1冊のノートだった。
少し身構えながら内容を読んでみるけれど、どれも温かいものばかりだ。
《今日から日記をつけようと思います。何を書こうかな...》
「その頁は、あの子が小中学生くらいの頃のもの」
「そんなに早くから...」
漢字がいっぱいで、そんなことには全く気づけなかった。
人の日記なんて本当は読んではいけないのかもしれない。
けれど、それでも何があったのか知りたいと思った。
《今日は神様に会いました。家から出してもらえない私の、たったひとりの友だちです。
お稲荷さんを一緒に食べて、また明日と約束しました。どんなことを話そうかな...》
《今日は美桜さんと遊びました。鞠やお手玉って意外と難しい...。
次に会う日までに練習しておこう》
それから先も微笑ましい内容が並んでいて、読んでいるだけで楽しくなる。
夢中で読んでいたから気づいていなかったけれど、美桜さんが飲み物を用意してくれていた。
「ごめんね、集中して全然気づいてなくて...」
「気にしなくていい。ただ、読むのが辛くなったらやめていい」
美桜さんが何か作っているのを手伝っている木葉を見つめてから、もう1度日記帳に視線をやる。
...どうして彼女があんなことを言ったのか、ここから少しずつ分かってきた。
《今日はとうとう帰る場所がなくなりました。視える力が神子より強いから、駄目だったみたい。
...独りで頑張らないといけないと思っていたら、美桜さんがついてきてくれました。ごめんなさい》
それから何度もごめんなさいという言葉が綴られているのを読んでいると、だんだん息が苦しくなってきた。
(...一旦落ち着こう)
それから私が生まれるまでの記録を飛ばし飛ばしで読み進めていき、自分がどう思われていたかを知ることになる。
《この子が幸せになるようにと、七海という名前をつけた。
もうあの人は帰ってこないのだから、私がしっかりしないといけない。...私のせいで辛い思いをさせないように頑張るから、美桜さんと3人で一緒に生きよう。沢山楽しい想い出を作ろうね》
【一緒に生きよう】...その言葉が目に留まった瞬間、瞳から涙が零れ落ちる。
私の母は苦労してきた人だった。
そして、誰よりも人の幸せを願う人だったのだ。
手を止めていると、木葉に優しく抱きしめられる。
こみあげてくる思いと零れる涙を止めることができなかった。
そう言って差し出されたのは、1冊のノートだった。
少し身構えながら内容を読んでみるけれど、どれも温かいものばかりだ。
《今日から日記をつけようと思います。何を書こうかな...》
「その頁は、あの子が小中学生くらいの頃のもの」
「そんなに早くから...」
漢字がいっぱいで、そんなことには全く気づけなかった。
人の日記なんて本当は読んではいけないのかもしれない。
けれど、それでも何があったのか知りたいと思った。
《今日は神様に会いました。家から出してもらえない私の、たったひとりの友だちです。
お稲荷さんを一緒に食べて、また明日と約束しました。どんなことを話そうかな...》
《今日は美桜さんと遊びました。鞠やお手玉って意外と難しい...。
次に会う日までに練習しておこう》
それから先も微笑ましい内容が並んでいて、読んでいるだけで楽しくなる。
夢中で読んでいたから気づいていなかったけれど、美桜さんが飲み物を用意してくれていた。
「ごめんね、集中して全然気づいてなくて...」
「気にしなくていい。ただ、読むのが辛くなったらやめていい」
美桜さんが何か作っているのを手伝っている木葉を見つめてから、もう1度日記帳に視線をやる。
...どうして彼女があんなことを言ったのか、ここから少しずつ分かってきた。
《今日はとうとう帰る場所がなくなりました。視える力が神子より強いから、駄目だったみたい。
...独りで頑張らないといけないと思っていたら、美桜さんがついてきてくれました。ごめんなさい》
それから何度もごめんなさいという言葉が綴られているのを読んでいると、だんだん息が苦しくなってきた。
(...一旦落ち着こう)
それから私が生まれるまでの記録を飛ばし飛ばしで読み進めていき、自分がどう思われていたかを知ることになる。
《この子が幸せになるようにと、七海という名前をつけた。
もうあの人は帰ってこないのだから、私がしっかりしないといけない。...私のせいで辛い思いをさせないように頑張るから、美桜さんと3人で一緒に生きよう。沢山楽しい想い出を作ろうね》
【一緒に生きよう】...その言葉が目に留まった瞬間、瞳から涙が零れ落ちる。
私の母は苦労してきた人だった。
そして、誰よりも人の幸せを願う人だったのだ。
手を止めていると、木葉に優しく抱きしめられる。
こみあげてくる思いと零れる涙を止めることができなかった。
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