ハーフ&ハーフ

黒蝶

文字の大きさ
上 下
142 / 258
追暮篇(おいぐらしへん)

心の芯が強い人

しおりを挟む
そっと目を開けると、ふたりの話し声が聞こえた。
その話はとても苦々しいもので、つい聞き入ってしまう。
「人間が憎いとは思わなかったの?」
「勿論あいつを殺したやつは憎いし、あいつに対しては申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
けど、いい人間もいるだろ?お嬢さんみたいな...少なくとも、俺はそう信じてる」
「確かに最悪な人間は多いけど、そのなかにいい人も交ざってると思う」
「おまえらしい見解だな」
ふたりの言葉に涙が溢れてしまいそうになる。
生きている人間の方が時に何よりも残酷で...どんな言葉をかけていいか分からない。
「...七海」
木葉はずっと起きていたのか、寂しそうな表情をしている。
いつの間にか閉められたカーテンを開けるべきか...そんなことを考えていると、先に彼が動いた。
「今の話、もうちょっと詳しく知りたいな」
「悪い、ふたりがいるのをすっかり忘れてた。...で、お嬢さんはなんで泣いてるんだ?」
「ラッシュさんたちの話を途中から聞いちゃったからだよ。...ラッシュさんはアイリーンって人のことが本当に好きなんだね」
一旦車が停まって、ラッシュさんに見つめられる。
いつもどおり笑ってくれるけれど、なんだか無理をしているというのはすぐに理解した。
「ラッシュさん、そのアイリーンっていう人のことをずっと待ってるんでしょ?」
「...生まれ変わっても見つけてやるって約束したからな。だから、お嬢さん...そんなに悲しまなくても俺は平気だよ」
その声はとても優しかったけれど、どうしても訊いてみたいことがあった。
「大切に想っていた人がいなくなってしまうのは、怖くなかったんですか...?哀しいはずなのに、どうして強く振る舞えるの...?」
「俺は至って普通のことしかしてないぞ?約束は護る。...あのときできなかった分までな。
他人から見てどんなに馬鹿馬鹿しくても、俺はそう決めたんだ」
この人は強い。
何十年、もしかすると何百年とかかるかもしれない...最悪一生こない機会をずっと待っている。
私ならそんな日々を耐えられるだろうか。
...きっと寂しさで後を追いたくなるに違いない。
「俺だって泣くし、やっぱり寂しいって感じることもあるけど...それでも、いつかあいつに会ったらミシン返してやらないといけないからよ。
前向いていくしかないって思うんだ」
「ラッシュさんがかっこいいこと言ってる...」
「別にかっこつけたりしてるつもりはねえよ」
「あのときより男前になった?」
「そんなことないと思うけどな...」
俯いてしまった私に寄り添うように、木葉はずっと頭を撫でてくれた。
その手のぬくもりに甘えさせてもらいながら、ラッシュさんの話の続きを聞くことにする。
「それに、俺は独りじゃなかったからやってこられたんだ。...まあ、先にどうやって出会ったのかから話すべきか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...