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追暮篇(おいぐらしへん)
届いたもの
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「...いってきます」
まだ眠っている背中に声をかけて、メモ書きだけを残す。
《渡瀬さんと打ち合せしてきます》
そんな味気ないものだったけれど、細かくは書かずにそのままいつもの場所に向かった。
「すみません、今回はこんな朝早くになってしまって...」
「大丈夫です。もしかして、原稿に問題がありましたか?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、別の賞に応募してみるのはどうかと思いまして、今日は色々な広告を印刷してきました」
渡瀬さんは、時々こうして色々なものを見せてくれる。
自分で探す分だけでは限界があるので、正直に言うといつも助かっていた。
「...これとか私に向くでしょうか?」
「いいかもしれませんね。確かに野崎さんが書きやすいジャンルかもしれません」
ジャンル不要と言いつつ、異世界転生や転移が禁止と書かれているもの...最近多くなってきたけれど、これならなんとか書けそうだ。
(字数は4万字以上...)
それならきっと、いつもの仕事に+αでやってもそこまでの負担にはならないはずだ。
「ありがとうございます。...やってみます」
「無理をしない程度で構いませんので、一緒にやっていきましょう」
「...はい」
渡瀬さんに一礼して、そのままお店を後にする。
あまり長居して木葉に心配をかけたくない。
「...痛っ」
頬に当たる風が痛いのは、自分で整えたガーゼがずれてきているからかもしれない。
そう思うと、早く帰って休みたい気持ちが大きかった。
「ただいま...」
起こさないようにと思っていたのに、玄関に入った瞬間いいにおいがした。
もしかすると、ご飯を作ってくれていたのだろうか。
「お、おかえり...おはよう」
「おはよう。今日は早いね」
「ノワールに起こされたから、ついでに色々作っておいたんだ」
私が用意するものなんかよりもずっと豪華なそれは、木葉がひとりで暮らしてきた歴史を感じてしまうものだった。
(いくら半分だけとはいえ、ずっとヴァンパイアだからってひとりで頑張ってきた証なんだな...)
「七海、冷めちゃうよ」
「用意してくれてありがとう。いただきます」
「いただきます」
そういえば、ノワールが帰ってきたということは手紙が美桜さんのところに届いたということだろうか。
「僕、今夜は仕事だから行ってくるね」
「...うん。いってらっしゃい」
「そんなに寂しがらなくても、ノワールがいるから大丈夫だよ。
それに...返事を書かないといけないから」
「返事?」
木葉はいつもどおりに笑って、1枚の封筒を手渡してくれた。
「美桜さんから手紙だよ。筆まめな人なんだね」
まだ眠っている背中に声をかけて、メモ書きだけを残す。
《渡瀬さんと打ち合せしてきます》
そんな味気ないものだったけれど、細かくは書かずにそのままいつもの場所に向かった。
「すみません、今回はこんな朝早くになってしまって...」
「大丈夫です。もしかして、原稿に問題がありましたか?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、別の賞に応募してみるのはどうかと思いまして、今日は色々な広告を印刷してきました」
渡瀬さんは、時々こうして色々なものを見せてくれる。
自分で探す分だけでは限界があるので、正直に言うといつも助かっていた。
「...これとか私に向くでしょうか?」
「いいかもしれませんね。確かに野崎さんが書きやすいジャンルかもしれません」
ジャンル不要と言いつつ、異世界転生や転移が禁止と書かれているもの...最近多くなってきたけれど、これならなんとか書けそうだ。
(字数は4万字以上...)
それならきっと、いつもの仕事に+αでやってもそこまでの負担にはならないはずだ。
「ありがとうございます。...やってみます」
「無理をしない程度で構いませんので、一緒にやっていきましょう」
「...はい」
渡瀬さんに一礼して、そのままお店を後にする。
あまり長居して木葉に心配をかけたくない。
「...痛っ」
頬に当たる風が痛いのは、自分で整えたガーゼがずれてきているからかもしれない。
そう思うと、早く帰って休みたい気持ちが大きかった。
「ただいま...」
起こさないようにと思っていたのに、玄関に入った瞬間いいにおいがした。
もしかすると、ご飯を作ってくれていたのだろうか。
「お、おかえり...おはよう」
「おはよう。今日は早いね」
「ノワールに起こされたから、ついでに色々作っておいたんだ」
私が用意するものなんかよりもずっと豪華なそれは、木葉がひとりで暮らしてきた歴史を感じてしまうものだった。
(いくら半分だけとはいえ、ずっとヴァンパイアだからってひとりで頑張ってきた証なんだな...)
「七海、冷めちゃうよ」
「用意してくれてありがとう。いただきます」
「いただきます」
そういえば、ノワールが帰ってきたということは手紙が美桜さんのところに届いたということだろうか。
「僕、今夜は仕事だから行ってくるね」
「...うん。いってらっしゃい」
「そんなに寂しがらなくても、ノワールがいるから大丈夫だよ。
それに...返事を書かないといけないから」
「返事?」
木葉はいつもどおりに笑って、1枚の封筒を手渡してくれた。
「美桜さんから手紙だよ。筆まめな人なんだね」
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