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隠暮篇(かくれぐらしへん)
お菓子よりも甘いもの
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家に帰り着くなり七海に袖を捲られる。
そのまま消毒液やガーゼ、包帯を持ってきててきぱきと処置を施してくれた。
「...はい、手当て終わり」
「何から何まで本当にごめん」
「次からこんなに我慢しないで」
むすっとした表情まで可愛らしい、なんて今の状況では言えない。
お互い着替えをすませた頃には、月が空にのぼりきっていて柔らかい明かりが部屋を照らしていた。
「...ごめん」
「謝らないで。それから...噛んで。我慢しないでほしい。
体調が悪いわけでもないし、私は大丈夫だから」
その言葉にまたごめんと言いそうになったが、敢えて別の言葉に変えた。
「ありがとう...」
瞬間、衝動が抑えられなくなる。
無意識の欲望のまま、目の前の白い首筋に思いきり噛みついてしまった。
「んっ...」
背中に腕がまわされて、そのまま抱きしめかえす。
あまり貰うのも申し訳なくて、まだ呑みたい欲望をなんとか抑え傷口についている紅を舐めとる。
「それ、くすぐったい...」
「勢いよく噛んじゃったし、痛かったよね...」
「木葉が元気になってくれたらそれだけでいいの」
「ごめん。...ありがとう」
そのまま抱きしめ、何度も唇を重ねる。
鉄の味がするはずなのに、七海は僕を離さないでいてくれてそれが申し訳なかった。
「...はい、ホットハニーティー」
「ありがとう」
蜂蜜にその他諸々を合わせて淹れるそれを、七海はとても安心しきった様子で飲んでいる。
怖がらせてはしまわないかと毎回思うが、僕にできることは少ない。
「美味しい...」
「それならよかった」
「ねえ、木葉。答えたくなかったら答えなくていいから...ひとつ訊いてもいい?」
「僕に答えられることなら」
七海はカップを置き、遠慮がちに尋ねてきた。
「その...私の血ってどんな味がするの?」
あまりに唐突な質問に、ただ固まることしかできない。
そんな僕の様子を見たからか、七海は焦ったように話しはじめた。
「私には鉄の味しかしないけど、そんなに不味いものをずっと呑まないといけないなら大変だなと思って...」
その言葉にひとしきり笑った後、正直に答えた。
「人間はそうなんだって他の人たちからも教えてもらったんだけど、僕にとっては甘い果実みたいな味がするんだ。
人間と同じようでちょっと体の造りが違うからだってラッシュさんたちから教えてもらったことがあるけど、僕もそこまで詳しくない...」
「美味しいならよかった」
「...七海の血は蜜みたいにすごく甘くて、時々我を忘れそうになる」
「不味くないならいいの。...教えてくれてありがとう」
捕食されるのが怖いと感じるのが普通なはずなのに、七海はいつも予想と違う答えをくれる。
それが堪らなくいとおしくて、そっと頬に手を添えた。
「...傷、だいぶ痛まなくなったみたいでよかった」
「木葉、その、もしよかったら一緒にお菓子を、」
「それなら...もう1度ここをちょうだい」
柔らかい唇に触れると、七海の身体がびくっと震えた。
そして、小さい声でいいよと告げられてそのまま唇が重なる。
何よりも甘い、安心できるもの...。
ラッシュさんのお店での不穏なもののことも忘れて、今だけはこの幸せな時間に溺れていたい。
「お菓子、食べようか」
「それじゃあ今度は私がお茶を淹れるね」
やはりこうしてふたりで過ごせるのが1番いい。
そんなことを考えながら、お菓子の準備をすませるのだった。
そのまま消毒液やガーゼ、包帯を持ってきててきぱきと処置を施してくれた。
「...はい、手当て終わり」
「何から何まで本当にごめん」
「次からこんなに我慢しないで」
むすっとした表情まで可愛らしい、なんて今の状況では言えない。
お互い着替えをすませた頃には、月が空にのぼりきっていて柔らかい明かりが部屋を照らしていた。
「...ごめん」
「謝らないで。それから...噛んで。我慢しないでほしい。
体調が悪いわけでもないし、私は大丈夫だから」
その言葉にまたごめんと言いそうになったが、敢えて別の言葉に変えた。
「ありがとう...」
瞬間、衝動が抑えられなくなる。
無意識の欲望のまま、目の前の白い首筋に思いきり噛みついてしまった。
「んっ...」
背中に腕がまわされて、そのまま抱きしめかえす。
あまり貰うのも申し訳なくて、まだ呑みたい欲望をなんとか抑え傷口についている紅を舐めとる。
「それ、くすぐったい...」
「勢いよく噛んじゃったし、痛かったよね...」
「木葉が元気になってくれたらそれだけでいいの」
「ごめん。...ありがとう」
そのまま抱きしめ、何度も唇を重ねる。
鉄の味がするはずなのに、七海は僕を離さないでいてくれてそれが申し訳なかった。
「...はい、ホットハニーティー」
「ありがとう」
蜂蜜にその他諸々を合わせて淹れるそれを、七海はとても安心しきった様子で飲んでいる。
怖がらせてはしまわないかと毎回思うが、僕にできることは少ない。
「美味しい...」
「それならよかった」
「ねえ、木葉。答えたくなかったら答えなくていいから...ひとつ訊いてもいい?」
「僕に答えられることなら」
七海はカップを置き、遠慮がちに尋ねてきた。
「その...私の血ってどんな味がするの?」
あまりに唐突な質問に、ただ固まることしかできない。
そんな僕の様子を見たからか、七海は焦ったように話しはじめた。
「私には鉄の味しかしないけど、そんなに不味いものをずっと呑まないといけないなら大変だなと思って...」
その言葉にひとしきり笑った後、正直に答えた。
「人間はそうなんだって他の人たちからも教えてもらったんだけど、僕にとっては甘い果実みたいな味がするんだ。
人間と同じようでちょっと体の造りが違うからだってラッシュさんたちから教えてもらったことがあるけど、僕もそこまで詳しくない...」
「美味しいならよかった」
「...七海の血は蜜みたいにすごく甘くて、時々我を忘れそうになる」
「不味くないならいいの。...教えてくれてありがとう」
捕食されるのが怖いと感じるのが普通なはずなのに、七海はいつも予想と違う答えをくれる。
それが堪らなくいとおしくて、そっと頬に手を添えた。
「...傷、だいぶ痛まなくなったみたいでよかった」
「木葉、その、もしよかったら一緒にお菓子を、」
「それなら...もう1度ここをちょうだい」
柔らかい唇に触れると、七海の身体がびくっと震えた。
そして、小さい声でいいよと告げられてそのまま唇が重なる。
何よりも甘い、安心できるもの...。
ラッシュさんのお店での不穏なもののことも忘れて、今だけはこの幸せな時間に溺れていたい。
「お菓子、食べようか」
「それじゃあ今度は私がお茶を淹れるね」
やはりこうしてふたりで過ごせるのが1番いい。
そんなことを考えながら、お菓子の準備をすませるのだった。
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