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隠暮篇(かくれぐらしへん)
副反応
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「ここ、片づきすぎててほとんどやることがなかったね...」
「確かに。掃除し足りないような気がする」
この状況でそんな言葉を発するのは、きっと七海くらいだろう。
「どうして笑ってるの?」
「ごめん。掃除し足りないなんて言われるの、予想してなくて...」
ツボにはいってしまったのか、なかなかおさまってくれない。
七海はずっと笑い続ける僕の様子を不思議そうに見つめている。
ひとしきり笑ってようやく落ち着いてきた頃、ラッシュさんが扉を開けた。
「お嬢さんには悪いが、ちょっとこいつを借りるぞ」
「あ、はい...」
採寸なんかしなくても僕の服のサイズなんて分かっているはずだ。
...つまり、七海の前ではできない話がある?
「七海。もし退屈ならこれでも読んで」
「いいの?」
「うん。僕はもう読み終わっちゃったから、ゆっくりしててね」
七海は少し不思議そうな表情をしていたが、ありがとうとだけ言って椅子に腰掛ける。
そんな姿を見て、そのまま部屋を出てラッシュさんの後に続く。
「...ラッシュさん、何かあったの?」
「何かあったのはおまえさんのほうじゃないのか?」
「どういうこと?」
「クレールをかなり飲んでるだろ?...あとどのくらい残ってる」
彼には誤魔化しが通用しない。
それを分かっているからこそ、正直に話すしかなかった。
「いつもより減りが早いんだ。それから、喉が異常に渇く日が増えてるような気がする」
「...お嬢さんからは、」
「そんなにはもらってないよ。...大事な人を傷つけたくないんだ」
即答したものの、もう独りではどうしようもなくなりつつあるのも事実だ。
解決策を求めてラッシュさんに訊いてみる。
「...ラッシュさん」
「どうした」
「愛してるの中に血がほしい感情が混ざるのは、やっぱり異常かな?
僕、最近おかしいんだ。七海を傷つけたくないのに、もっと欲しいって思ってしまう。
もしも、もしもこのままだったら、」
「...木葉」
いつもより威厳ある声で呼び止められる。
息が苦しい。そんな僕の背中を、ラッシュさんは何も言わずにさすってくれた。
「ごめん...もう大丈夫だよ」
「俺も同じような状態に陥ったことがある」
「え...?」
「人間に危害を加えようって奴はいなくても、人間と恋をしたいなんて変わった魔族は少ない。
だから、俺もケイトも同じような経験をしたときに話せる相手がいなかったんだ」
ラッシュさんや母は純血種だ。
渇きの苦しみは僕の比ではなかったはずなのに、どうして今まで気づけなかったのだろう。
「それは間違いなく副反応が強く現れてる。
それに関しては独りで抱えないのが1番だ。...まあ、おまえさんたちなら大丈夫な気もするけどな」
「そうだね。...ありがとう」
「それじゃあ服仕上げるからそこから動くな」
「ええ...」
まだまだ不安要素は多い。
だが、何もしなければきっと後悔する。
それに、僕は独りじゃない。
...このあと大量の服を着せられるであろうことを想像しても、それがラッシュさんなりの優しさなのだと分かっている。
「...ありがとう」
これから副反応がどうなっていくのか分からない。
だが、彼がくれた言葉と彼女の笑顔があればどんなことにも耐えられるような気がした。
「確かに。掃除し足りないような気がする」
この状況でそんな言葉を発するのは、きっと七海くらいだろう。
「どうして笑ってるの?」
「ごめん。掃除し足りないなんて言われるの、予想してなくて...」
ツボにはいってしまったのか、なかなかおさまってくれない。
七海はずっと笑い続ける僕の様子を不思議そうに見つめている。
ひとしきり笑ってようやく落ち着いてきた頃、ラッシュさんが扉を開けた。
「お嬢さんには悪いが、ちょっとこいつを借りるぞ」
「あ、はい...」
採寸なんかしなくても僕の服のサイズなんて分かっているはずだ。
...つまり、七海の前ではできない話がある?
「七海。もし退屈ならこれでも読んで」
「いいの?」
「うん。僕はもう読み終わっちゃったから、ゆっくりしててね」
七海は少し不思議そうな表情をしていたが、ありがとうとだけ言って椅子に腰掛ける。
そんな姿を見て、そのまま部屋を出てラッシュさんの後に続く。
「...ラッシュさん、何かあったの?」
「何かあったのはおまえさんのほうじゃないのか?」
「どういうこと?」
「クレールをかなり飲んでるだろ?...あとどのくらい残ってる」
彼には誤魔化しが通用しない。
それを分かっているからこそ、正直に話すしかなかった。
「いつもより減りが早いんだ。それから、喉が異常に渇く日が増えてるような気がする」
「...お嬢さんからは、」
「そんなにはもらってないよ。...大事な人を傷つけたくないんだ」
即答したものの、もう独りではどうしようもなくなりつつあるのも事実だ。
解決策を求めてラッシュさんに訊いてみる。
「...ラッシュさん」
「どうした」
「愛してるの中に血がほしい感情が混ざるのは、やっぱり異常かな?
僕、最近おかしいんだ。七海を傷つけたくないのに、もっと欲しいって思ってしまう。
もしも、もしもこのままだったら、」
「...木葉」
いつもより威厳ある声で呼び止められる。
息が苦しい。そんな僕の背中を、ラッシュさんは何も言わずにさすってくれた。
「ごめん...もう大丈夫だよ」
「俺も同じような状態に陥ったことがある」
「え...?」
「人間に危害を加えようって奴はいなくても、人間と恋をしたいなんて変わった魔族は少ない。
だから、俺もケイトも同じような経験をしたときに話せる相手がいなかったんだ」
ラッシュさんや母は純血種だ。
渇きの苦しみは僕の比ではなかったはずなのに、どうして今まで気づけなかったのだろう。
「それは間違いなく副反応が強く現れてる。
それに関しては独りで抱えないのが1番だ。...まあ、おまえさんたちなら大丈夫な気もするけどな」
「そうだね。...ありがとう」
「それじゃあ服仕上げるからそこから動くな」
「ええ...」
まだまだ不安要素は多い。
だが、何もしなければきっと後悔する。
それに、僕は独りじゃない。
...このあと大量の服を着せられるであろうことを想像しても、それがラッシュさんなりの優しさなのだと分かっている。
「...ありがとう」
これから副反応がどうなっていくのか分からない。
だが、彼がくれた言葉と彼女の笑顔があればどんなことにも耐えられるような気がした。
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