ハーフ&ハーフ

黒蝶

文字の大きさ
上 下
97 / 258
隠暮篇(かくれぐらしへん)

あてられるということ

しおりを挟む
目の前にいるのは、1人の少女。
彼女は泣いているのに、暴力を振るう男。
少女はずっと泣きながら謝り続ける。
その声はどこかで聞いたことがあるような気がするけれど、頭がぼうっとしていてあまり考えられない。
少女の涙を拭いたいのに、手が届かないどこほか近づくことさえできなかった。
呆然と立ち尽くすしかなかったなか、突然硝子のようなものが飛んでくる。
(避けきれない)
思わずぎゅっと目を閉じる。
──次に目を開いたとき広がった景色は、見覚えがある天井だった。
「...!」
「起きた...?」
「木葉、ごめんね」
「お願い、もう謝らないで」
何故か木葉の瞳に翳りが差しているような気がして、そっと手を伸ばす。
頬に触れると、その体はぴくっと震えた。
「木葉のせいじゃないよ」
「でも、僕がもっと気をつけていればここまで酷くはならなかったかもしれないのに...」
今にも泣き出しそうな声でそんなことを話す姿に、愛しさと申し訳なさが募っていく。
「吐き気はない?」
「大丈夫だよ」
「...それじゃあ、夢を見たりしなかった?」
「少し不思議な夢だったけど、それも大丈夫だったよ」
今考えてみると、あれは人間だった存在の記憶だったのかもしれない。
...恐らくシェリだったのだろう。
多くの存在にあてられるというのは決していいものではない。
辛いことを思い出したり、具合が悪くなってしまったり...日常生活に支障が出ることもある。
けれど私は、悪いことばかりだとは思っていない。
「...何か飲む?」
「木葉は疲れてないの?」
「七海がいてくれるから、それだけでいい」
体を起こすとブランケットが掛けられていたのが目に入って、その直後に抱きしめられる。
「大丈夫そうでよかった...」
「心配させてごめんね」
次からはもう少し気をつけよう、そんなことを考えていて気づいたことがある。
(服が変わってる?)
「あの、木葉。...もしかして、着替えさせてくれた?」
「ごめん!雨が降ってきて濡れちゃったから、体を拭かせてもらいました」
だんだん声が小さくなっていく木葉の頭に手をのせる。
不思議そうな表情をしている彼に、私は言葉をかき集めて想いを伝えた。
「大変な思いをさせちゃってごめん。それから...助けてくれてありがとう。
木葉はやっぱり優しいね」
「僕が、優しい...?」
「うん。木葉はすごく優しいよ」
いつも言葉にして伝えているけれど、本人はぴんときていないらしい。
だったら何度だって伝えよう。
あなたほど優しい人を知らないって、あなたは化け物なんかじゃないって。
(それから、これが1番伝えたいこと)
「私はいつだって木葉のことを愛してる」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...