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隠暮篇(かくれぐらしへん)
翳り
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「...ごめん」
木葉はいつも申し訳なさそうにする。
そんな必要なんてないのに、酷く傷ついた表情をするのだ。
私は血液を吸われるという行為に対して全く抵抗がない。
...自分でも不思議なのだけれど、全く怖くないのだ。
「気にしないで。...変だと思うけど、恋人の生きる糧になれるのは純粋に嬉しいから」
「七海...」
「それに、木葉に頼ってもらえるのもすごく嬉しいんだ」
普段からずっと木葉に頼りっぱなしになっている今、役に立てるチャンスは早々ない。
分担している料理の準備と掃除、そして洗濯...本当にこれくらいしかないのだ。
目の前で暗い顔をしている恋人に抱きついて、そのまま話を続ける。
「それに、毎回どきどきする。木葉が吸うのは私の血だけなんだと思うと、ちょっとだけ安心するんだ」
「安心?」
「これもおかしな話なんだろうけど、やっぱり嬉しさが勝っちゃって...今一緒にいるんだなって感じる」
木葉はいつだって痛くないように気をつけてくれるけれど、もっと痛くされても構わないと思っている。
これが独占欲というものだろうか。
「もし僕が七海を傷つけたらどうしようって、いつもそう思うんだ。
そしたらもう会えなくなっちゃうんじゃないかって、いつも不安になる」
抱きしめる力が強くなるけれど、腕が震えているのが分かる。
(そんなふうに思う必要なんてないのに...)
どうすれば不安を取り除けるだろう。
「ごめん、もう1回だけもらってもいい?」
「勿論。木葉にならいくらでもあげる」
瞳が翳っているのが見えて、私はただ抱きしめることしかできない。
首筋に牙が沈みこんでいくのを感じながら、背中にまわした腕の力を強めた。
「お願い、このまま離さないで...」
「は...煽ら、ないで」
まただ。体が熱を持つのを感じる。
それはきっと、相手が木葉だからだ。
彼以外の人にこんなことをするなんて考えられない。
「痛くない?」
「大、丈夫...」
夜が明けたら、明るい未来の話をしよう。
そうすればきっと、瞳の翳りも消し去ることができるはずだ。
「七海の血は甘いね...」
「そうなの?」
「いつも甘くて、我を忘れそうになる...」
半泣きの木葉を抱きしめなおして、首筋から離された唇にそっとキスをする。
「年越し蕎麦、一緒に食べようね」
「うん」
「それで毎年、ふたりで色々な楽しいことをしよう」
「...うん」
「私は、木葉と一緒にいられればそれだけでいいから」
「ありがとう...」
木葉が不安に思っているなら、それを全て消し去りたい。
...それが恋人の私だけにできる、唯一のことだと思うから。
「これから先も、愛してる」
「...僕も七海しか愛せないよ」
瞳の翳りはいつの間にか消えていて、贈られた優しい口づけは少しの鉄の味と甘さが混ざっていた。
木葉はいつも申し訳なさそうにする。
そんな必要なんてないのに、酷く傷ついた表情をするのだ。
私は血液を吸われるという行為に対して全く抵抗がない。
...自分でも不思議なのだけれど、全く怖くないのだ。
「気にしないで。...変だと思うけど、恋人の生きる糧になれるのは純粋に嬉しいから」
「七海...」
「それに、木葉に頼ってもらえるのもすごく嬉しいんだ」
普段からずっと木葉に頼りっぱなしになっている今、役に立てるチャンスは早々ない。
分担している料理の準備と掃除、そして洗濯...本当にこれくらいしかないのだ。
目の前で暗い顔をしている恋人に抱きついて、そのまま話を続ける。
「それに、毎回どきどきする。木葉が吸うのは私の血だけなんだと思うと、ちょっとだけ安心するんだ」
「安心?」
「これもおかしな話なんだろうけど、やっぱり嬉しさが勝っちゃって...今一緒にいるんだなって感じる」
木葉はいつだって痛くないように気をつけてくれるけれど、もっと痛くされても構わないと思っている。
これが独占欲というものだろうか。
「もし僕が七海を傷つけたらどうしようって、いつもそう思うんだ。
そしたらもう会えなくなっちゃうんじゃないかって、いつも不安になる」
抱きしめる力が強くなるけれど、腕が震えているのが分かる。
(そんなふうに思う必要なんてないのに...)
どうすれば不安を取り除けるだろう。
「ごめん、もう1回だけもらってもいい?」
「勿論。木葉にならいくらでもあげる」
瞳が翳っているのが見えて、私はただ抱きしめることしかできない。
首筋に牙が沈みこんでいくのを感じながら、背中にまわした腕の力を強めた。
「お願い、このまま離さないで...」
「は...煽ら、ないで」
まただ。体が熱を持つのを感じる。
それはきっと、相手が木葉だからだ。
彼以外の人にこんなことをするなんて考えられない。
「痛くない?」
「大、丈夫...」
夜が明けたら、明るい未来の話をしよう。
そうすればきっと、瞳の翳りも消し去ることができるはずだ。
「七海の血は甘いね...」
「そうなの?」
「いつも甘くて、我を忘れそうになる...」
半泣きの木葉を抱きしめなおして、首筋から離された唇にそっとキスをする。
「年越し蕎麦、一緒に食べようね」
「うん」
「それで毎年、ふたりで色々な楽しいことをしよう」
「...うん」
「私は、木葉と一緒にいられればそれだけでいいから」
「ありがとう...」
木葉が不安に思っているなら、それを全て消し去りたい。
...それが恋人の私だけにできる、唯一のことだと思うから。
「これから先も、愛してる」
「...僕も七海しか愛せないよ」
瞳の翳りはいつの間にか消えていて、贈られた優しい口づけは少しの鉄の味と甘さが混ざっていた。
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