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隠暮篇(かくれぐらしへん)
知らないもの
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「ここの豚カツ、どうしていつもこんなにさくさくなんだろう...」
七海は本当に美味しそうに食べていて満足そうだ。
いつものことながら、それを微笑ましいと思っている自分がいる。
こういうのを、世間ではバカップルと呼ぶのかもしれない。
「木葉、もしかしてあんまりお腹すいてなかった?」
「ううん、七海の食べてる姿が可愛いなって思ってただけ」
「か、可愛くはないと思うけど...」
だんだん声が小さくなっていく七海を、本当は今すぐ抱きしめたい。
だが、彼女はかなり疲れているだろう。
僕に血を吸われた分と顔と心につけられた傷によって、本当なら泣きたいくらいに傷ついているはずだ。
それに、人前でそんなことをすればきっと嫌われてしまう。
「木葉、やっぱり食欲がないんじゃ...」
「本当に違うから心配しないで」
さくさくとしたてんぷらを食べながら、ちらっと七海を盗み見る。
そのとき僕の瞳にうつったのは、ここ数日で1番いい彼女の笑顔だった。
「もうすぐ今年も終わりだね」
「そうだね...」
「出会ってからあっという間だった気がする」
「確かにそんな気がするね」
「年越しはどうやって過ごそうか?」
...どうやって過ごすのか?
頭の中を『?』が舞い続けている。
何か特別なことをするのだろうか。
「...ごめん」
「どうして謝るの?」
「年なんていつも気づいたら越えてたから、その...」
「それじゃあ、年越し蕎麦とか食べたことないの?」
「何それ、そういうのがあるの?」
七海は少し驚いた様子だったが、納得したように頷いた。
「ヴァンパイアの人たちって夜型だから、てっきり盛大にお祝いしているんだと思ってたけど...そっか、そうだよね」
「どういうこと?」
「ずっと夜活動しているわけだから、わざわざ夜に年が明けたなんて言わないんじゃないかなって思ったんだ。
それに、大体の人たちは朝陽が出る前に寝ちゃうんだよね?だったらきっと、お祝い事みたいになったりはしないんだろうなって...失礼なことばっかり言ってごめん」
「ううん、事実だから。それに...人って言い方をしてくれて嬉しかった」
七海はいつも傷つけないように考えながら発言してくれている。
きっと今回も、イメージで話したから傷つけたのではないかと不安に思っているのだろう。
だが、力が弱い魔族や従者たちでは朝起きることができない。
それに、起きる度に夜では年が明けたかどうかなんて分からないだろう。
「1度だけパーティーをしたことはあったけど、後片づけが物凄く大変だったんだ。
僕や母たちは起きていられたけど、大半の人たちが寝ちゃったから」
「なんだか想像できる...」
「でしょ?でも、蕎麦を食べたことはないな...」
「それじゃあ今年は一緒に食べよう」
独りだった頃はできないと答えていたものをやってみようと思えるのは、側に七海がいてくれるおかげだ。
ただ頷いて答えると、彼女はまた嬉しそうに笑った。
たとえどんなことがあろうと護り抜いてみせよう...地面が白く染まる夜、ひとりそう誓う。
耳元のお揃いのイヤーカフが光っていた。
七海は本当に美味しそうに食べていて満足そうだ。
いつものことながら、それを微笑ましいと思っている自分がいる。
こういうのを、世間ではバカップルと呼ぶのかもしれない。
「木葉、もしかしてあんまりお腹すいてなかった?」
「ううん、七海の食べてる姿が可愛いなって思ってただけ」
「か、可愛くはないと思うけど...」
だんだん声が小さくなっていく七海を、本当は今すぐ抱きしめたい。
だが、彼女はかなり疲れているだろう。
僕に血を吸われた分と顔と心につけられた傷によって、本当なら泣きたいくらいに傷ついているはずだ。
それに、人前でそんなことをすればきっと嫌われてしまう。
「木葉、やっぱり食欲がないんじゃ...」
「本当に違うから心配しないで」
さくさくとしたてんぷらを食べながら、ちらっと七海を盗み見る。
そのとき僕の瞳にうつったのは、ここ数日で1番いい彼女の笑顔だった。
「もうすぐ今年も終わりだね」
「そうだね...」
「出会ってからあっという間だった気がする」
「確かにそんな気がするね」
「年越しはどうやって過ごそうか?」
...どうやって過ごすのか?
頭の中を『?』が舞い続けている。
何か特別なことをするのだろうか。
「...ごめん」
「どうして謝るの?」
「年なんていつも気づいたら越えてたから、その...」
「それじゃあ、年越し蕎麦とか食べたことないの?」
「何それ、そういうのがあるの?」
七海は少し驚いた様子だったが、納得したように頷いた。
「ヴァンパイアの人たちって夜型だから、てっきり盛大にお祝いしているんだと思ってたけど...そっか、そうだよね」
「どういうこと?」
「ずっと夜活動しているわけだから、わざわざ夜に年が明けたなんて言わないんじゃないかなって思ったんだ。
それに、大体の人たちは朝陽が出る前に寝ちゃうんだよね?だったらきっと、お祝い事みたいになったりはしないんだろうなって...失礼なことばっかり言ってごめん」
「ううん、事実だから。それに...人って言い方をしてくれて嬉しかった」
七海はいつも傷つけないように考えながら発言してくれている。
きっと今回も、イメージで話したから傷つけたのではないかと不安に思っているのだろう。
だが、力が弱い魔族や従者たちでは朝起きることができない。
それに、起きる度に夜では年が明けたかどうかなんて分からないだろう。
「1度だけパーティーをしたことはあったけど、後片づけが物凄く大変だったんだ。
僕や母たちは起きていられたけど、大半の人たちが寝ちゃったから」
「なんだか想像できる...」
「でしょ?でも、蕎麦を食べたことはないな...」
「それじゃあ今年は一緒に食べよう」
独りだった頃はできないと答えていたものをやってみようと思えるのは、側に七海がいてくれるおかげだ。
ただ頷いて答えると、彼女はまた嬉しそうに笑った。
たとえどんなことがあろうと護り抜いてみせよう...地面が白く染まる夜、ひとりそう誓う。
耳元のお揃いのイヤーカフが光っていた。
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