ハーフ&ハーフ

黒蝶

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隠暮篇(かくれぐらしへん)

唯一

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「や、やったこと、ないから...」
「いいからいいから」
車椅子でも入れる設計になっているプリクラの機械を前に、恥ずかしがるシェリと押し問答していた。
「みんな包帯してるし、お揃いってことにしちゃえばちょっとは撮りやすいんじゃない?」
「わ...分かり、ました」
みんなというのはどういうことだろうと考えていると、木葉は一気に袖を捲る。
(...どうして今まで気づかなかったんだろう)
それは、かなり無茶をしながら一緒にいてくれている証だった。
あまりの申し訳なさに黙りこんでいると、木葉にそっと耳打ちされる。
「僕は大丈夫だから気にしないで」
全部お見通しなのを少し悔しく思いながら、負けじと彼のことをじっと見つめる。
(もっと考えていることが分かるようになれればいいのに)
なんとかシェリを説得して、3人で並んで写真を撮っていく。
ぱしゃぱしゃとシャッター音が鳴り響くなか、なんとかポーズを変えてみせる。
それから落書きをして楽しんで、気づいたときには空が茜色に染まろうとしていた。
「あの、ラッシュさ、から...」
「押していこうか?」
「1人でも、大丈夫、」
「...疲れてるでしょ?」
それくらいは見ていればすぐ分かった。
「えっと、あの、」
「それじゃあ僕が押していくよ」
「ありがとう、ございます」
色々な場所に行きすぎたかなと反省しながら、シェリの綺麗な笑顔がいつまでも心に残っていた。
「ありがとう、ございました」
「またね」
小さく手をふるシェリに手をふりかえしながら、じっと木葉を見つめる。
その表情には翳りがなく、吸血欲求に耐えている様子はない。
「七海」
「どうしたの?」
「僕のお願い、叶えてくれる?」
「私にできることなら」
「それじゃあ、これから僕とデートしてくれますか?」
胸がいっぱいになって言葉が詰まりそうになる。
はいとだけ答えて差し出された手を取ると、いつもより軽やかに木葉は歩き出した。
シェリもそうだったけれど、私の周りには笑顔が素敵な人たちで溢れている。
私に何が返せるのかなんて分からないけれど、これからもずっと側にいたい。
唯一の友人に、唯一の恋人...私には大切なものが沢山できた。
失う怖さも知っている分もう二度と離してしまわないように気をつけよう、そう思う。
「ここでご飯を食べていかない?」
「そうしよう」
「これで安心してご飯を食べられるね」
「...ありがとう」
周りにバカップルと思われてもいい。
寧ろそう思われるくらいの付き合い方をしていこう。
耳元で光るイヤーカフにそんな願いをこめながら、ふたり一緒にお店に入った。
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