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隠暮篇(かくれぐらしへん)
不穏な気配
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「渡瀬さん、大丈夫ですか?」
「いやあ、少し寝不足でして...」
「お子さんと何かあったんですか?」
「そうではなくて、実は最近...」
渡瀬さんと話している間、ずっと感じていたものがある。
どこからか注がれていた視線...それも、悪意を悪意と気づいていない人間からの。
思考を巡らせていると突然肩をたたかれて、思わずその場から飛び退いてしまう。
「七海?大丈夫?」
「ごめんなさい、少し考え事をしてて...」
心配そうに私の顔を覗きこむ木葉にそう答えて、目的の品物を探すことに集中する。
新作のお菓子のコーナーを一緒に見ながら、私はある疑問を抱いた。
「...ねえ、木葉」
「どうしたの?」
「ごめん、やっぱりなんでもない」
ヴァンパイアとしての素質も兼ね備えている木葉が、あれに気づいていないわけがない。
目星がついているから黙っているのか、私を不安にさせない為に敢えて言わないでくれているだけなのか。
「...大丈夫だから」
何が大丈夫なのかは訊かずに、そのまま首を縦にふる。
こちらの胸が締めつけられるような表情を目にすると、どうしてもそこから先に踏みこむことができなかった。
(夕飯は木葉が好きなものにしよう)
「今日は何を食べたい?」
「私が作る。...体を動かしたい気分だから」
「僕も手伝うよ」
「食器を並べるのとか片づけをやってもらおうかな」
「それって手伝いになってるのかな...」
そんな会話をしながら特に問題もなく買い物を終わらせて、私は少し気を抜いてしまっていた。
「荷物は僕が持つよ」
「ありがとう」
さっきのは気のせいだったのかもしれない、もしかしたら別の人を見ていたのかもしれない...そうであったらどんなに良かっただろう。
「...七海、ちょっとここにいてくれる?」
「それってどういう、」
訊き終わる前に、かなりの速さで人間が突っこんできた。
──手に包丁を握りしめて。
「もう、物騒だな...」
木葉はそれを軽々と片手で受け止めて、そのまま相手に手刀をおろす。
倒された女性は何か呻いていたけれど、やがてそのまま動かなくなった。
「怪我はない?」
「私は大丈夫だけど、木葉は...」
それは一瞬のことだった。私たちは完璧に油断していたのだ。
...相手が気絶したと思いこんで。
「危ない!」
「え...?」
なんとか木葉が傷つかないように庇うことができた。
頬が熱い。どくどくと脈を打つような痛みがはしるのを確認する。
痛む部分を押さえながら木葉の方を見てみるけれど、怪我はしていないようだった。
「無事でよかった...」
「なんで、どうして僕のことを庇ったりしたの!?」
「傷ついてほしくなかったから」
それに、はじめから狙いは私だった。
私を刺したその女は、悔しそうにその場を後にする。
「...ごめん」
「謝らなくていいから、早く家に帰ろう?」
周りのざわつく声を聞きながら、木葉の腕の中でそっと目を閉じた。
痛みがというよりは疲労がピークに達したらしい。
木葉の足音を聞きながら、ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「いやあ、少し寝不足でして...」
「お子さんと何かあったんですか?」
「そうではなくて、実は最近...」
渡瀬さんと話している間、ずっと感じていたものがある。
どこからか注がれていた視線...それも、悪意を悪意と気づいていない人間からの。
思考を巡らせていると突然肩をたたかれて、思わずその場から飛び退いてしまう。
「七海?大丈夫?」
「ごめんなさい、少し考え事をしてて...」
心配そうに私の顔を覗きこむ木葉にそう答えて、目的の品物を探すことに集中する。
新作のお菓子のコーナーを一緒に見ながら、私はある疑問を抱いた。
「...ねえ、木葉」
「どうしたの?」
「ごめん、やっぱりなんでもない」
ヴァンパイアとしての素質も兼ね備えている木葉が、あれに気づいていないわけがない。
目星がついているから黙っているのか、私を不安にさせない為に敢えて言わないでくれているだけなのか。
「...大丈夫だから」
何が大丈夫なのかは訊かずに、そのまま首を縦にふる。
こちらの胸が締めつけられるような表情を目にすると、どうしてもそこから先に踏みこむことができなかった。
(夕飯は木葉が好きなものにしよう)
「今日は何を食べたい?」
「私が作る。...体を動かしたい気分だから」
「僕も手伝うよ」
「食器を並べるのとか片づけをやってもらおうかな」
「それって手伝いになってるのかな...」
そんな会話をしながら特に問題もなく買い物を終わらせて、私は少し気を抜いてしまっていた。
「荷物は僕が持つよ」
「ありがとう」
さっきのは気のせいだったのかもしれない、もしかしたら別の人を見ていたのかもしれない...そうであったらどんなに良かっただろう。
「...七海、ちょっとここにいてくれる?」
「それってどういう、」
訊き終わる前に、かなりの速さで人間が突っこんできた。
──手に包丁を握りしめて。
「もう、物騒だな...」
木葉はそれを軽々と片手で受け止めて、そのまま相手に手刀をおろす。
倒された女性は何か呻いていたけれど、やがてそのまま動かなくなった。
「怪我はない?」
「私は大丈夫だけど、木葉は...」
それは一瞬のことだった。私たちは完璧に油断していたのだ。
...相手が気絶したと思いこんで。
「危ない!」
「え...?」
なんとか木葉が傷つかないように庇うことができた。
頬が熱い。どくどくと脈を打つような痛みがはしるのを確認する。
痛む部分を押さえながら木葉の方を見てみるけれど、怪我はしていないようだった。
「無事でよかった...」
「なんで、どうして僕のことを庇ったりしたの!?」
「傷ついてほしくなかったから」
それに、はじめから狙いは私だった。
私を刺したその女は、悔しそうにその場を後にする。
「...ごめん」
「謝らなくていいから、早く家に帰ろう?」
周りのざわつく声を聞きながら、木葉の腕の中でそっと目を閉じた。
痛みがというよりは疲労がピークに達したらしい。
木葉の足音を聞きながら、ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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