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日常篇
夕食づくりとお客様
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あれから数日、私とシェリは連絡を取り合っていた。
《今日はグラタンを焦がしてしまいました》
(なんだか微笑ましいな...)
今日は夕方から木葉が来るはずだ。
そろそろ血液を摂取しておかないと、きっとまた倒れてしまうだろうから。
言ってくれればもっと沢山あげるのに、彼はいつも我慢しているように見える。
何か理由があるのだろうと思うと未だに踏みこめていない。
「...夕飯、グラタンにしようかな」
材料を買いに出掛けると、そこには見覚えのある姿があった。
「あの...」
「...君は、野崎七海?」
「はい。あなたは木葉と一緒に働いているお友だちですよね?」
「そうだよ。君はここに何か用事?僕は病院に持っていくお見舞いの品を買いに来たんだけど...」
どうやら何を持っていけばいいのか迷っているらしい。
(この人も人間じゃない...)
以前から思っていたことではあるけれど、訊いてしまってもいいのか分からなかった。
...分からないまま過ごしているというのが正しいのかもしれない。
「君に時間があるなら手を借りたい」
「病院へのお見舞いなら、こういう果物の詰め合わせが一般的だと思います。
ただし、相手に食べられないものがある場合は漫画や本の方がいい場合もありますが...」
「分かった、ありがとう。それじゃあまた後で」
「はい」
...ん?また後で?
どういうことか訊こうとしたときには彼の姿はなく、代わりに冷たい風が吹いてきた。
(早く買い物を済ませないと間に合わなくなる)
陽が沈む頃、木葉は少しだけ疲れた様子でやってきた。
「大丈夫?」
「うん。少し休めばよくなるから...気にしないで」
出来立てのグラタンを彼の前に置くと、ぱっと勢いよく起きあがる。
「これ、食べていいの?」
「私もこれから食べる」
ふたりで両手を合わせ、少量を口に運ぶ。
...焼き加減は大丈夫だったようだ。
「どう?」
「すごく美味しい!いつもごめんね」
「私が好きでやってるだけだから、謝らないでほしい」
「それじゃあ...ありがとう」
誰かとご飯を食べるのがこんなにも楽しいことだなんて、私にとっては衝撃的な出来事だったのをよく覚えている。
普通の人たちにとっては当たり前のことなのだろうけれど、私にはそれが尊いものなのだ。
ゆっくり味わっていると、玄関がノックされる音がした。
「...?」
「誰か呼んでたの?」
「ううん、誰も。...ちょっと見てくる」
扉を開けるとそこには残酷な光景が広がっていた。
赤、朱、紅...グラデーションができるほどの出血。
「七、海...助、けて」
お昼頃に連絡を取ったときは元気だった。
今日はグラタンを焦がしてしまったと言いつつ、頑張って作り直すと話していたのに。
何故こんなことになっているのか、理解できない。
「シェリ...!」
《今日はグラタンを焦がしてしまいました》
(なんだか微笑ましいな...)
今日は夕方から木葉が来るはずだ。
そろそろ血液を摂取しておかないと、きっとまた倒れてしまうだろうから。
言ってくれればもっと沢山あげるのに、彼はいつも我慢しているように見える。
何か理由があるのだろうと思うと未だに踏みこめていない。
「...夕飯、グラタンにしようかな」
材料を買いに出掛けると、そこには見覚えのある姿があった。
「あの...」
「...君は、野崎七海?」
「はい。あなたは木葉と一緒に働いているお友だちですよね?」
「そうだよ。君はここに何か用事?僕は病院に持っていくお見舞いの品を買いに来たんだけど...」
どうやら何を持っていけばいいのか迷っているらしい。
(この人も人間じゃない...)
以前から思っていたことではあるけれど、訊いてしまってもいいのか分からなかった。
...分からないまま過ごしているというのが正しいのかもしれない。
「君に時間があるなら手を借りたい」
「病院へのお見舞いなら、こういう果物の詰め合わせが一般的だと思います。
ただし、相手に食べられないものがある場合は漫画や本の方がいい場合もありますが...」
「分かった、ありがとう。それじゃあまた後で」
「はい」
...ん?また後で?
どういうことか訊こうとしたときには彼の姿はなく、代わりに冷たい風が吹いてきた。
(早く買い物を済ませないと間に合わなくなる)
陽が沈む頃、木葉は少しだけ疲れた様子でやってきた。
「大丈夫?」
「うん。少し休めばよくなるから...気にしないで」
出来立てのグラタンを彼の前に置くと、ぱっと勢いよく起きあがる。
「これ、食べていいの?」
「私もこれから食べる」
ふたりで両手を合わせ、少量を口に運ぶ。
...焼き加減は大丈夫だったようだ。
「どう?」
「すごく美味しい!いつもごめんね」
「私が好きでやってるだけだから、謝らないでほしい」
「それじゃあ...ありがとう」
誰かとご飯を食べるのがこんなにも楽しいことだなんて、私にとっては衝撃的な出来事だったのをよく覚えている。
普通の人たちにとっては当たり前のことなのだろうけれど、私にはそれが尊いものなのだ。
ゆっくり味わっていると、玄関がノックされる音がした。
「...?」
「誰か呼んでたの?」
「ううん、誰も。...ちょっと見てくる」
扉を開けるとそこには残酷な光景が広がっていた。
赤、朱、紅...グラデーションができるほどの出血。
「七、海...助、けて」
お昼頃に連絡を取ったときは元気だった。
今日はグラタンを焦がしてしまったと言いつつ、頑張って作り直すと話していたのに。
何故こんなことになっているのか、理解できない。
「シェリ...!」
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