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日常篇
彼の苦手なもの
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彼が家にくるのは、だいたい深夜0時直前だ。
「こんばんは」
「今日は少し早かったね」
「そうかも...?」
木葉は首を傾げながら、遠慮がちに家に入ってくる。
そういうところは、出会った頃から変わらない。
もっとずかずか入りこんでくれていいと話したけれど、木葉はいつも申し訳なさそうにしている。
「今日はバイトだったの?」
「うん。だからちょっとだけ疲れちゃって...」
どう見ても少しという感じではない。
それに、木葉のバイトというのは本屋さんでの仕事だ。
自分のことが人に知られてはいけないなか、そういったものを相手にして疲れないはずがない。
それでもへらっと笑う彼は、どこかくたびれた様子で...早く何か食べさせたいと思った。
「あんまりいいものは作れなかったけど...食べる?」
「わあ、ありがとう!」
ヴァンパイアとのハーフというだけで、木葉にとって人が食べるものもきちんと栄養になるらしい。
基本的にはそれだけで暮らしていけるのだ。
...そう、基本的には。
「今夜はこれで足りそう?」
「大丈夫。...いつもごめんね」
「気にしないで。私が側にいてほしいって思ってるだけだから」
その後はふたりで楽しく話しながら、もう遅いから泊まっていくように声をかける。
「部屋はいつものところを使って?」
「ありがとう」
この2ヶ月で随分物が増えたのは、きっと気のせいではない。
空き部屋だったところには、木葉の着替えや本、寝具...必要最低限のものが揃っている。
「おやすみ」
「七海」
「どうかしたの?」
「ご飯、いつも作ってくれてありがとう」
そのときの笑顔は少し明るくて、なんだか少し安心した。
──のだけれど。
「木葉、朝だよ」
扉をノックしても開く気配は全くない。
少し苦笑しながら部屋に一歩踏みこむと、やっぱり彼はぐったりとしていた。
「大丈夫?起きられそうにないならご飯とか必要なもの全部持ってくるけど...」
「大丈夫だよ。いつものこと、だし...」
〈ヴァンパイアは朝に弱い〉というのはあながち嘘ではないらしい。
毎日くる訳ではないけれど、木葉が家に泊まったときはとても具合が悪そうに見える。
本人曰く、昔から朝には弱く起きられなかったのだとか。
「会社、行かなくていいの...?」
「今日は休みだよ」
「そうなんだ...」
ただ話すのも辛そうで、私はただその様子を窺うことしかできないのが歯痒い。
「...もうちょっと、こっちきて?」
「こう?」
近づくと、唇に何かが当たった。
「んっ!?」
「...うん、元気になった」
キスされる度少しだけ触れる牙に相変わらず驚いてしまうけれど、木葉が近くにいてくれると思うとなんだかほっとする。
彼はすっと起きあがると、今日も私の顔を見て言うのだ。
「七海...ありがとう」
「ご、ご、ご飯にしよう!先に行ってるから、着替えたらきて...」
火照ってしまう頬を隠しながら、キッチンへと向かう。
その後ろで、くすっと笑う声がした。
「こんばんは」
「今日は少し早かったね」
「そうかも...?」
木葉は首を傾げながら、遠慮がちに家に入ってくる。
そういうところは、出会った頃から変わらない。
もっとずかずか入りこんでくれていいと話したけれど、木葉はいつも申し訳なさそうにしている。
「今日はバイトだったの?」
「うん。だからちょっとだけ疲れちゃって...」
どう見ても少しという感じではない。
それに、木葉のバイトというのは本屋さんでの仕事だ。
自分のことが人に知られてはいけないなか、そういったものを相手にして疲れないはずがない。
それでもへらっと笑う彼は、どこかくたびれた様子で...早く何か食べさせたいと思った。
「あんまりいいものは作れなかったけど...食べる?」
「わあ、ありがとう!」
ヴァンパイアとのハーフというだけで、木葉にとって人が食べるものもきちんと栄養になるらしい。
基本的にはそれだけで暮らしていけるのだ。
...そう、基本的には。
「今夜はこれで足りそう?」
「大丈夫。...いつもごめんね」
「気にしないで。私が側にいてほしいって思ってるだけだから」
その後はふたりで楽しく話しながら、もう遅いから泊まっていくように声をかける。
「部屋はいつものところを使って?」
「ありがとう」
この2ヶ月で随分物が増えたのは、きっと気のせいではない。
空き部屋だったところには、木葉の着替えや本、寝具...必要最低限のものが揃っている。
「おやすみ」
「七海」
「どうかしたの?」
「ご飯、いつも作ってくれてありがとう」
そのときの笑顔は少し明るくて、なんだか少し安心した。
──のだけれど。
「木葉、朝だよ」
扉をノックしても開く気配は全くない。
少し苦笑しながら部屋に一歩踏みこむと、やっぱり彼はぐったりとしていた。
「大丈夫?起きられそうにないならご飯とか必要なもの全部持ってくるけど...」
「大丈夫だよ。いつものこと、だし...」
〈ヴァンパイアは朝に弱い〉というのはあながち嘘ではないらしい。
毎日くる訳ではないけれど、木葉が家に泊まったときはとても具合が悪そうに見える。
本人曰く、昔から朝には弱く起きられなかったのだとか。
「会社、行かなくていいの...?」
「今日は休みだよ」
「そうなんだ...」
ただ話すのも辛そうで、私はただその様子を窺うことしかできないのが歯痒い。
「...もうちょっと、こっちきて?」
「こう?」
近づくと、唇に何かが当たった。
「んっ!?」
「...うん、元気になった」
キスされる度少しだけ触れる牙に相変わらず驚いてしまうけれど、木葉が近くにいてくれると思うとなんだかほっとする。
彼はすっと起きあがると、今日も私の顔を見て言うのだ。
「七海...ありがとう」
「ご、ご、ご飯にしよう!先に行ってるから、着替えたらきて...」
火照ってしまう頬を隠しながら、キッチンへと向かう。
その後ろで、くすっと笑う声がした。
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