満天の星空に願いを。

黒蝶

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本篇・1年目前期

久しぶりのレポート、少しだけほっとした。

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記録
『今日も外へは出られなかった。
人の視線が怖くて、吐き気がする。
どうしてなのかは分からない。
分からないけれど、とにかく外へ出られないのだ。
出ただけで、一歩踏み出しただけで、誰かとすれ違っただけで...限界なのだ。
ごめんなさい、弥生。
一人にして本当にごめんなさい...』

職員室でレポートや手紙の確認をしていると、背後から声をかけられる。
「おはよう」
「...おはようございます」
初老の教師に話しかけられ、つい話しかけないでオーラを出してしまう。
けれど、残念ながら気づいていないらしい。
(鈍感なのか演技なのか...)
どのみち、ズカズカ入りこんでくるタイプという見立てだけは間違っていないらしい。
「...」
何故かしつこく後をついてくる。
それが揖屋で仕方なくて、私は一旦女子トイレに入った。
...葉月も、こういうことをされたのだろうか。
もしかすると、初初老の教師にとっては授業準備に行く為に歩いているのかもしれないけれど...残念なことに、私にとって背後をとられることは恐怖でしかない。
(怖すぎてどうしたらいいのか分からない...。もう行ったかな)
外から声は聞こえない。
...どうやらもう大丈夫そうだ。
「おはよう。大丈夫か?」
「え、あ、はい...」
「それなら行こうか」
「はい」
教頭先生の後に続いて歩いていくと、ほとんど全員が集まりかけている教室に辿り着いた。
「はい、それじゃあ答え合わせをしていきます」
レポートはばっちり終わらせてきた。
大丈夫...多分なはずだ。
一つよかったところは、見学扱いにならないということだ。
体育のレポートは本当に久しぶりで、少しだけ気が楽になった。
『弥生』
授業が和やかな雰囲気で終わった瞬間、聞き覚えのある声がしたような気がして...私は走った。
それは、絶対にいるはずのない人の声で...けれど、どうしても確かめずにはいられなかった。
「...そうだよね、違うよね」
彼女の声は、聞いているといつも落ち着いた。
けれど、彼女はもうどこにもいないのだ。
突然いなくなってしまった、大切な友人のことを思い出す。
(...今日は何か気分転換になりそうなことをしようかな)
そうでもしないと、落ちこんだまま立ち直れそうにない。
全ての授業が終わった後、家に戻りお金をとってくる。
...久しぶりに、あの場所以外に出掛けてみることにした。
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