満天の星空に願いを。

黒蝶

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本篇・春休み

鞄に願いを。葉月side

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「よかった、あの人たちいない...」
私の口からはそんな言葉が漏れ出していて、部屋にあるお気に入りのぬいぐるみに話しかける。
「...どうして人は、他人に優しくできないんだろうね」
『みんな違ってみんないい』なんて絶対に嘘だ。
もしそれが本当ならここまで意見が合わない人たちに毎日のように否定されるはずがないから。
多様性が認められるなら、差別はおこらないはずだから。
(ダメだ、何を考えようとしてもマイナスな方にいってしまう...)
そういえば、今日が通院日だということをすっかり忘れていた。
「...行かないと」
病院は相変わらず混雑していて、座る場所さえなかった。
(近くで待っていれば分かる...よね?)
自動販売機でスポーツ飲料を買い、その場でゆっくり休む。
そうこうしているうちに、順番がまわってきた。
「葉月さん、どうかな体調は?」
「あまりよくなくて...」
診察は普通に終わったけれど、なんとなくそのまま戻るのは嫌で、色んなお店に行ってみることにした。
「いらっしゃい。こちらただいまタイムセールをおこなっております」
何かいいものがあればと思っていると、一つの鞄が目に入る。
「これは...」
(可愛い!)
そっと財布を開けて、持ち合わせを確認する。
セールのお陰で余裕で大丈夫そうだった。
「すみません、これください。タグを切ってもらえるとありがたいのですが...」
店員さんは丁寧な人で、すぐに使える状態にしてくれた。
「ありがとうございます!」
「いえ、これも仕事ですから」
更に駅に向かって歩いていると、美味しそうな香りがした。
(ここ、入ったことがないお店だな...)
試しにと思い、オムライスを注文する。
《戻ったらあの人たちはいなかった。
ちょっと安心しちゃった。
今日は病院で、その帰りに色々寄ってるところ!新しいお店を見つけたよ》
「おまたせしました」
丁度弥生へメッセージを送り終わったところに、料理がやってくる。
(たしか、もう少し遅い時間の列車があるし...それに乗って帰ろうかな)
そうして、いつもより三時間遅い列車の中、またお菓子を食べながら流れる夜景を見つめる。
《お疲れ様。私もそのお店行ってみたいな》
弥生からのいつもどおりの返信に、少しほっとする。
このまま時もゆっくりながれてくれないかと思うほど、家が近づくことに不安をおぼえた。
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