満天の星空に願いを。

黒蝶

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本篇・1年目後期

マフラーに願いを。弥生side

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今日はきっと、葉月はこられない...そう思っていたのに、病院であることをすっかり忘れていたらしい。
(葉月らしい)
そっと首筋に手をあてる。
そこには、いつもはなかったものがついている。
「...温かい」
それは、包みに入っていたマフラー。
できるだけ普段使いできそうな色にしたと書かれていたメモと一緒に入っていて、友人の気遣い度を知ることができた。
(タオルまで入ってるなんて...私ももっと実用的なものにするべきだったかな)
「...あ」
らしくもなく、声がもれる。
葉がダンスをしながら舞い降りて、その姿を見て思いついたのだ。
(主人公は、自然が大好きな女の子。その子は恋をするけれど、その相手は...)
そういえば、と思う。
恋心とは一体なんだろう。
どうなれば、人を好きになったことになるのだろう。
...どうなれば、それを恋と呼ぶのだろう。
人の恋は応援したくなる。
けれど、私が誰かにそんな想いを抱いたことは...一度もない。
「わっ...」
ぱらぱらとノートの頁が動いていく。
そのとき、手元のスマートフォンが震えた。
《今、帰りの列車です。今だけこれをつけてるよ!無くしたくなくて、ここにくるまでは外してた》
そこには、手首の写真が送付されていた。
...きらきらと輝く何かと一緒に。
(これって、私があげた...)
今の今まで気づいていなかったけれど、ちゃんと喜んでくれたんだと理解する。
《私も今、マフラー巻いてるよ》
頑張って写真を撮ってみるけれど、なかなか上手くできない。
なんとか送ることができたときには、辺りが闇に包まれた頃だった。
(月明かりがほとんどない...これじゃあ読むのも書くのも無理そうだな)
いちご大福を食べながら、無言で持ってきたものを片づける、
そのとき、再びスマートフォンが鳴った。
《よかった、気に入ってもらえて...本当に嬉しい!》
《私のことを考えて選んでくれたんだっていう事実だけで、充分嬉しいよ。ありがとう》
『あの子頭いいらしいよ!』
『あいつが?そんなわけないじゃん』
『いや、だって、ランキング...』
中学の頃、そこまでで踵をかえしたことがある。
『あの子って本当に馬鹿だよね』
『なんでこの学校入れたんだろう』
『ほんとにね』
あの場所では、テスト前によく道具を隠されて...そこからは思い出したくない。
(色眼鏡で見られないのって、こんなに自由なんだ)
次に葉月と会えるのが楽しみで、マフラーをそっと撫でる。
やっぱりぬくもりがあって、そのことにひどく安心してしまうのだった。
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