満天の星空に願いを。

黒蝶

文字の大きさ
上 下
24 / 150
本篇・1年目後期

御守りに願いを。葉月side

しおりを挟む
弥生の背中が見えて、私は声をかけた。
「やよ、」
「葉月ちゃん!」
...またきた、この人たち。
正直、こういうなれなれしい人は苦手だ。
だけれど、なかなか上手くかわすことができない。
(あなたたちが嫌なんです、とは言えないし...)
遠ざかっていく弥生の背中を見ながら、どんどん心の距離ができていくような気がして不安になる。
「...お願い、私に力をちょうだい」
ポケットの中に入っている御守りをぎゅっと握りしめる。
早く回避したくて、弥生と話がしたいと思った。
「弥生...!」
「葉月、どうかした?」
ぼんやりとした表情をうかべたまま、弥生はいつものように笑ってくれなかった。
(怒ってるというよりは、なんだか不安そう...?)
「何かあった?」
「体育、別に私と組まなくてもいいんだよ」
「私は弥生がいい」
「...他に仲がいい人たちがいるでしょ?それなら、そっちに行ってもいいんだよ。だけど、葉月は本当は...」
そこで話が途切れる。
よく見てみると、ぞろぞろと知らない人たちがやってきていた。
「今夜、いつもの場所で待ってるから」
弥生はそう言うと、校門の方へ行ってしまった。
今日は一緒に帰るはずだったのに、少しだけ泣きそうになる。
(私がはっきり言えなかったのがいけないんだから...)
だけどあのとき、弥生は何を言いかけたのだろうか。
『葉月、本当は...』
どうして不安そうな表情をしていたのかも気になる。
そして夜。いつもより早めに行くと、もう既に弥生がきていた。
「今日は早かったね」
「弥生、あのね、」
「分かってる。...さっきの話の続きをしようか」
私は弥生の隣にこしかける。
「葉月」
そこから少し間を置いて、言葉が続けられた。
「...もしかして、無理してない?」
「え?」
予想外の言葉に、そんな間抜けな声しか出なかった。
「あの人たちと話しているときの葉月は、なんだか無理をしているような気がして...」
「どうして分かったの?」
「笑顔がぎこちなかったり、話してるテンションが低かったり...声のトーンが落ちてたり」
まさかそんな細かいところまで聞かれているとは思っていなかった。
少し言いづらそうにしている弥生に、私はせいいっぱいの言葉をかけた。
「弥生、私は弥生といるときが一番楽しいんだよ」
「葉月...」
「だから、体育のペアやめようとか言わないで?」
「...うん、ごめん」
視線が絡んで、二人で笑いあう。
この大切な場所で、今日一番の笑顔が見られたような気がした。
しおりを挟む

処理中です...