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「お願い?」
「はい。あなたがいないと叶えられないことなんです」
穂高は宵の体を支えたまま震えている。
宵はルナと呼んでいたぬいぐるみを穂高に渡して立ちあがった。
「それじゃあ僕、もう行きますね」
「待て、別の方法を」
「穂高、僕──」
最後はなんて言ったか聞こえなかったが、穂高が突伏するのと同時に宵は外へ出た。
外から声が聞こえる。
狂ったような嗤い声と、逃げ惑う村人たち。
外へ出てその光景を見ていると、誰かに勢いよく突き飛ばされた。
「ほ、ほら!神子様がいらっしゃればなんとかなる!」
【あははは!また神子様頼りですか?この泡沫に勝てるとでも思っているんですか?】
ずっと気になっていた。
一気に焼き払えばいいのに、宵はそうしない。
(もしかして、村人たちを逃がして村だけ焼こうとしてる……?)
だらだら血を流しながら歩く姿は、誰より懸命に生きた人そのものだった。
「……っ、げほ!」
倒れそうになった体を急いで支える。
「宵!駄目だよ、無理しちゃ……」
「──そのまま動かないでください」
「え……」
最近儀式続きだったせいか、いつの間にか体から祝福の力が溢れ出ていた。
「体によくないんでしょ?すぐ抑えるから!」
「いいんです。そのままで、いてください」
「どうして……」
××××××××××××××××××××××××××××××
おばあさんの日記に書いてあったとおりだ。
祝福の力を神子様の体に残しつつじゃないと、呪いより祝福の力の方が強い。
「あなたの祝福の力、今のままで抑えられますか?」
「できるよ。できるけど……」
「なら大丈夫そうですね」
過去の神子・藤が過去の御子・菘とやろうとしたのは、祝福と災を終わらせること。
それが失敗して藤は祝福の力を失い、菘は泡沫の呪いとして封印されることになった。
「祝福も呪いも、広がりが止まって……」
「全部を消すためには、こうするしかなかったんです……」
僕は悪でいい。
そうじゃないって言ってくれる人がいるから。
「お願い。この不幸を、終わらせて……」
「終わらせる。絶対終わりにする!」
「よかった……。これでもう、いつ死んでも満足です」
全身から泡沫の呪いが抜けていくのを感じる。
それを祝福の力が包みこんで、抱きあうように消えていった。
沢山の祝福と災の魂を引き連れて、ふたつの力はどこまでも空高く昇っていくのだろう。
僕自身の陰は残ったままだけど、もう指一本動かすこともできない。
「最後まで無茶したな」
「……」
「ありがとう宵。おまえの願い、絶対叶えるから」
穂高は最後まで一緒にいてくれるらしい。
(嬉しいな……。もう声も出ないけど、ルナのことは任せられたしきっと大丈夫ですよね)
──こうして、祝福と災は終わりを告げた。
「はい。あなたがいないと叶えられないことなんです」
穂高は宵の体を支えたまま震えている。
宵はルナと呼んでいたぬいぐるみを穂高に渡して立ちあがった。
「それじゃあ僕、もう行きますね」
「待て、別の方法を」
「穂高、僕──」
最後はなんて言ったか聞こえなかったが、穂高が突伏するのと同時に宵は外へ出た。
外から声が聞こえる。
狂ったような嗤い声と、逃げ惑う村人たち。
外へ出てその光景を見ていると、誰かに勢いよく突き飛ばされた。
「ほ、ほら!神子様がいらっしゃればなんとかなる!」
【あははは!また神子様頼りですか?この泡沫に勝てるとでも思っているんですか?】
ずっと気になっていた。
一気に焼き払えばいいのに、宵はそうしない。
(もしかして、村人たちを逃がして村だけ焼こうとしてる……?)
だらだら血を流しながら歩く姿は、誰より懸命に生きた人そのものだった。
「……っ、げほ!」
倒れそうになった体を急いで支える。
「宵!駄目だよ、無理しちゃ……」
「──そのまま動かないでください」
「え……」
最近儀式続きだったせいか、いつの間にか体から祝福の力が溢れ出ていた。
「体によくないんでしょ?すぐ抑えるから!」
「いいんです。そのままで、いてください」
「どうして……」
××××××××××××××××××××××××××××××
おばあさんの日記に書いてあったとおりだ。
祝福の力を神子様の体に残しつつじゃないと、呪いより祝福の力の方が強い。
「あなたの祝福の力、今のままで抑えられますか?」
「できるよ。できるけど……」
「なら大丈夫そうですね」
過去の神子・藤が過去の御子・菘とやろうとしたのは、祝福と災を終わらせること。
それが失敗して藤は祝福の力を失い、菘は泡沫の呪いとして封印されることになった。
「祝福も呪いも、広がりが止まって……」
「全部を消すためには、こうするしかなかったんです……」
僕は悪でいい。
そうじゃないって言ってくれる人がいるから。
「お願い。この不幸を、終わらせて……」
「終わらせる。絶対終わりにする!」
「よかった……。これでもう、いつ死んでも満足です」
全身から泡沫の呪いが抜けていくのを感じる。
それを祝福の力が包みこんで、抱きあうように消えていった。
沢山の祝福と災の魂を引き連れて、ふたつの力はどこまでも空高く昇っていくのだろう。
僕自身の陰は残ったままだけど、もう指一本動かすこともできない。
「最後まで無茶したな」
「……」
「ありがとう宵。おまえの願い、絶対叶えるから」
穂高は最後まで一緒にいてくれるらしい。
(嬉しいな……。もう声も出ないけど、ルナのことは任せられたしきっと大丈夫ですよね)
──こうして、祝福と災は終わりを告げた。
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