バッドエンド

黒蝶

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「帰り道はあちらです」
「ありがとう」
厳しい態度だけど優しい夜に、思い切って訊いてみた。
「どうしていつもフードをかぶっているの?」
「……もうお帰りください。大事な神子様が村から消えたとなれば一大事でしょう?」
「夜までそんなこと言うの?……その呼び方、好きじゃない」
神子だからという理由だけで、みんなと同じ生活がおくれない。
力を使ったらそれなりに疲れるのに、治す速度が遅いと文句を言われる。
何もかも嫌になるのに、どうしてこんなものが残っているんだろう。
周りの村にもこんな風習があるなんて聞いたことはない。
(私以外にも神子っているのかな……)
「そのプロフィール帳、次会うときまでに埋めてね」
「もうここへは、」
「助けてくれてありがとう。また今度!」
すぐにいつもの部屋まで戻ると、また外が騒がしくなった。
「猫の死骸が──」
「不吉の予兆じゃ。みこの……で、」
「もうすぐ……でしょう?」
よく聞こえないけど、悪いことがおきていることだけは分かる。
……多分、私のせいになっていることも。
「神子様、少しお話してもよろしいでしょうか?」
「襖越しでかまいませんか?」
「はい。急ではありますが、祭祀を執り行うことになりました。舞の支度をお願いいたします」
「分かりました。出来次第祭場へ向かいます」
それがさっき聞こえてきた話と関係あるかは分からないけど、仕事だというなら仕方ない。
(ゆっくり寝ようと思っていたのにな……)
欠伸を噛み殺して、いつもどおり神子モードで対応する。
こうしていないとまた怒られてしまうから。
「それではこれより、鎮魂の儀を執り行います」
習ったとおりに舞ってみるけど、これで本当に効果なんてあるんだろうか。
答えはまだ出そうにない。


××××××××××××


あの子がまた来るなんて驚きだった。
それも、呪いの祓い方さえ知らないなんて……。
(そういえば、プロフィールを書いておいたって言っていましたね。無視するわけにもいきませんし、少しだけ)
花房暁美という少女は、村の外へ出ることを望んでいるようだ。
誕生日や好きな食べ物、将来の夢……僕とは縁遠い内容が書かれていた。
「……っ、ごほ!」
激しく咳きこんであることに気づく。
(やっぱりあのときのあれは……)
「やっぱり、僕を解放する気なんてはじめからなかったんですね」
うんざりした僕は、そのまま何も書かずに横になる。
あとふたつの祭壇を壊して、それから泡沫の呪いを解いて……あれ?
──僕、なんのために呪いを解くんでしょう?
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