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46・熱でハイになった後に急にダウンする俺、再び。

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真弓がバイクで自宅の近くまで俺を送ってくれたので、バスで帰るよりも随分と早く家の前に着いた。

自宅の玄関の灯りを見た俺は、このまま真弓とバイバイして家の中に入る事をためらってしまった。

だって今日会えるはずじゃ無かった真弓にせっかく会えたのに、たった数分しか一緒にいられないなんて。

コンビニの前でしか話も出来てない。
もっと話したいし真弓の声を聞きたいし、もっと真弓の顔を見ていたいし。

真弓とバイバイしたら真弓チャージが少ないままで、もう今日という一日が終わってしまう。
何だか、それがとてつもなく寂しいと言うか勿体無いと言うか……とにかくイヤだ。

何より、夕方の電話での俺の様子から何かを感じてくれたから、真弓はわざわざこうして俺に会いに来てくれたんだ。
俺の事を心配…してくれてるんだよね?
そんな真弓の善意に、もう少し甘えていたい。


「真弓、もう少しだけ…あと5分だけ話していたい。」


バイクから下りた俺は脱いだヘルメットを両手で持ったまま、バイクに跨がる真弓を見上げた。
真弓はフルフェイスヘルメットのシールドを開いて軽く頷き、エンジンを停めてバイクから下りてくれた。


「いいぞ。」


俺からヘルメットを受け取った真弓はシートに俺のヘルメットを置き、何かあったのかとは俺に訊ねないで、俺が自分のタイミングで自発的に話すのを待ってる感じだ。

だから俺が話したくないと思えば何かあったのかなんて追及はして来ないんだろう。
それは真弓の優しさなんだろうけど、俺としては少し寂しい気がする。
真弓の方から、もっと俺に興味を持って欲しいと言うか…。
大人の真弓は俺の事を心配してはくれたけど、子どもの俺に何があったかまでは、どうでもいい事なのかなとか思ってしまう。


「………今日さ、クラスの奴に好きだって告白されたんだ。」


だからかな…
真弓の感情が僅かでも揺れる瞬間が見たくて、こんな何かを匂わす様な言い方をしてしまった。


「………そうか、俺の恋のライバルが出現したか。」


真剣な顔で真弓を見上げる俺を、視線を合わせるように見下ろす真弓は少し間を空けてから小声で言った。
真弓の表情には何の変化も無くて、そんな真弓を見た俺の方が大きく感情が揺れ動いた。


「ライバルなんかじゃないよ!」


一瞬、大きな声が出かかって、自分達が夜の住宅街にいる事を思い出した俺は慌てて声を小さくする。


「真弓以外、誰も好きになったりしないのに!
告白されたって真弓のライバルになんかならないって!
………何で、分かってくれないんだよ……」


俺は真弓の袖を掴んで訴え、熱がこもり真っ赤に上気させた顔を俯かせた。
真弓は、袖を掴む俺の手に自分の手を重ねてポンポンと叩き、少し首を傾けて俺に聞いてきた。


「その告白がランが気落ちしていた理由か?
そこから、どうやって俺がホモかって話になったのか分からんが……別に告白されたからって、お前の気持ちを疑ったりしちゃいないぞ。
それにランを好きな子がいるってーから、ライバルと言っただけで深い意味は無いが。」


そうなんだけど!って気持ちと、ライバルに負けたとか言って俺を押し付ける様にして真弓が俺から離れてく口実になったんじゃないかって焦りと不安が胸の中でドロッと気持ち悪く渦巻く。


「………告白したのはクラスの男子。
自分はホモだから俺を好きなんだって……。」


「男子かよ。ん?ホモだからランが好き?
その男子とやらは、ランが男…いや、俺を好きだって何で知ってんだ?」


「縁側で…俺が真弓のオデコにチューしたの見てたらしい……」


真弓が「おいおいマジか」と独り言みたいに呟いた。
土曜日のデートの日、縁側で寝ていた真弓のオデコにキスをしたのを、まさか拳に見られていたとは思わなかった。
金森にもクラスの奴らに後をつけられたりするかもだから、気をつけろって言われていたのに…。

噂話が好きな拳が面白半分にみんなに言いふらしたら腹が立つのは勿論なんだけど……
それを『2人だけの秘密』だと俺を脅迫するみたいな言い方をされたのが、より凄く腹が立っている。


「………で、その子が自分もゲイただからってランに告白?
なんだか不自然だな、それは。」


「アイツは俺が本当にホモか確認するために自分もホモだって言ったんだ。
ホモなら男に告白されたら喜ぶんじゃないかって。
で、それを2人だけの秘密にしようって言った。
最近、俺がアイツを無視ばっかしてるからバラされたくなきゃ仲良くろって言いたいんだろ。
秘密とか言っても、どうせまたペラペラ周りに話すんだよ。
そういう奴なんだよ……こないだのキスの噂話にしてもさ……」


俺が不機嫌そうにボソボソと早口で言った説明を聞いた真弓が「あっ」って顔をした。
真弓の頭の中に、こないだ俺が殴ろうとしていた拳の顔が浮かんだ様だ。


「あー、あの子か。
ランのツレのヤンチャそうな子が、人の気を引きたくて嘘つくって言ってた。」


俺は無言で大きく頷いた。
真弓は先日、拳を殴ろうとして真弓に叱られた俺を金森が庇った事を覚えていたみたいだ。
あの時の金森のフォローが、今、凄く俺の助けになってる。


「うーん…嘘付き呼ばわりされてる彼が、ランの事を言いふらしても周りは信じないかも知れないな。
それが真実であるにも関わらず、だ。
だからランは、バラされるとか心配しなくてもイイんじゃないか?
それより、その子は大丈夫かよ…友達無くすぞ。」


拳の心配なんかしなくてもイイ!
俺はむくれた顔をして真弓をジトっと見た。


「バラされたって俺が真弓を好きだなんて事、俺が認めなけりゃ誰も信じないよ。
それより告白したのが普通の女子だったら、真弓は俺をフってた?その子とくっつくのを期待したりした?」


真弓ににじり寄る俺は、自分で言って悲しくなる事ばかり口にした。
この恋心が誰にも認められないとか、相手が女子だったら普通だから、そちらと付き合う様に誘導したかとか。
ネガティブな想像を自分で口にしながら気分が滅入ってくる。


「は?………いや、そんな事はネェけど。あ?
もしかして、そんな可能性を心配して落ち込んでたのか?」


そうとも、違うとも言わずに俺は真弓をジッと見続けた。
拳に変な告白をされてから真弓にフられるかも知れない色んな可能性を思い付いて、しんどかった。
真弓がホモじゃなかったら男の俺を好きになってくれないとか、告白した相手に俺を押し付けて離れてくだとか。


「だって真弓は俺を心配してくれるけど、拳の事も心配したりして!俺だけを見てくれないじゃん!
俺が真弓をどんだけ好きかって、分かってくれてないじゃん!」


「なんだ、やけに噛み付くな。声デケぇし。
さっきも言ったが、俺はお前の暴挙を許してるんだぞ。
お前のお手並み拝見って言ったろうが。
俺からランをフって離れたりはしねぇって。」


真弓は、思わず大きな声を出しかけた俺の口を手の平で押さえた。
俺は真弓の手の平から顔をずらして、真弓をキッと睨んだ。


「俺がフったら、簡単に離れるって事だもんね!
真弓は俺を、離れたくないほど好きになってはいないもんね!
俺は、いつも真弓と一緒に居たいし、抱き締め合ったりしたいし、俺ばっか真弓の事が、好き過ぎて………
ホント、しんどい!!!!」


まくし立てる様に文句を言った俺は、真弓のみぞおちに顔を押し付ける様にして真弓に抱き着いた。
唐突に文句を言い出した俺に一瞬呆然としていた真弓が、いきなり抱き着いた俺の背中に慌てて腕を回した。


「あつッ!ラン、お前……熱があるぞ!
ちょ…お前、高熱でハイテンションになるタイプか!」


「ハァハァ……しんどいぃ~真弓が俺と会わなくなるとか考えたら、ツライぃ~生きていけないぃ~」


「お前、もう黙ってろ!
御剣さん!ラン君が………!!」


真弓は俺を横向きに抱きかかえて、俺んチの玄関に向かった。

真弓に抱き上げられて、嬉しいとか考える余裕も無くて…ただ熱くて息苦しくて意識がふわふわとした感じだった。
チャイムを鳴らすと玄関のドアが開いて俺の両親が出て来た。
俺を見て慌てた様子のお父さんが何度も「走、大丈夫か」と呼びかけていた。 
驚いた風なお母さんは、「プリンセス走、再びね?」と呟いているのを見た。

ホントに、お母さんときたらもう……プリンセスは俺じゃない。


プリンセスは真弓の方だから!











俺は深夜の11時に自分のベッドの中で目を覚ました。
真弓の腕に抱きかかえて貰ったままで、お母さんに心の中でツッコんだ所で記憶が途絶えている。

パジャマに着替えさせられていた俺の額には冷却ジェルが貼ってあり、俺の勉強机の上に常温のスポーツ飲料が置いてあった。


「……ノドいた……風邪ひいた……?」


ベッドから下りてスポーツ飲料を一口だけ飲み、トイレに行こうと部屋を出て階段を下りた。
リビングの灯りは消えていたけど、そんな中でお父さんが無音状態で特撮を見ていた。
顔面だけ青白く光って何か不気味ってゆーか……

お父さんが俺に気付き、青白い顔をゆっくりとこちらに向けた。
こっわっ。


「走、起きたのかい?大丈夫?」


「大丈夫…じゃないかも。ノド痛いしフラフラするし。
でもトイレ行きたくて…あと、お腹すいた。」


「食欲があるのなら良かった。雑炊作るから待ってて。
さっき熱を測ったら38度あったから驚いたよ。
明日は学校を休んで、熱が下がらないようなら病院に行くように。」


お父さんはナメコとワカメの和風ダシの雑炊を作ってくれて、ダイニングテーブルに着いた俺の前に風邪薬と一緒に置いた。
深夜の雑炊……すっげー美味しい。


「熱が下がったら学校行ってもいいの?」


「ダメだよ、明日は休みなさい。」


明日、学校行かないと……俺が今日の事でショックを受けて仮病使ったみたいに拳に思われそうで嫌なんだよな。
アイツに弱味を見せたくない。


「34度まで熱が下がったら、学校行ってもいい?」


「それは学校よりも病院に行って貰わないとね。」


お父さんは優しくニコリと微笑んでくれたけど、結局登校の許可を出してくれなかった。
明日は学校、お休み決定かぁ………


「少し楽になってきたのに。
分かったよ……」


雑炊を食べ終えて薬を飲んだ俺は、自室に戻ろうと立ち上がった。
特撮の続きを見るつもりなのか、お父さんはリビングのソファーに戻り、ボソっと呟いた。


「バスで帰るのは辛かったろうから、走を迎えに行ってくれた神鷹君に感謝しなきゃだな。 
……神鷹君に走の風邪がうつってなければ良いのだけど。」


!!!そ、そうだ!俺、真弓に迎えに来てもらった!
しかも顔を近付けて、変な事いっぱい言った気がする!
半分くらい覚えてないけど変な事を言いまくった上に風邪をうつすとか最低じゃん!


「お、おやすみッ!寝る!」


俺は急いで自室に向かい、慌ててスマホを握り締めた。

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