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31話◆ヴィジュアル系魔王サマ降臨。

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「うっ!!」



ドゴォォンと激しい爆裂音と共に地面が波打つ様な強い衝撃を足元に感じた。

爆風が吹き砂塵が舞い、バトルアニメのワンシーンみたいに地面が抉れて土や岩の塊が飛礫つぶての様に宙を飛ぶ。



僕はそれらから僕と黒ヒョウのイワンを守る為にバリアを張りつつ目を凝らし、その爆心地の中心に立つ男を見た。  



空から急降下して地面を穿つ様に降り立った、全体的に黒い長髪のイケメンの姿を。



黒髪の長髪に深紅の瞳、ヴィジュアル系のお兄ちゃんが着てそうな身体のラインの分かる黒いロングコート。

で、背には漆黒の大きな翼と…頭にはご丁寧に二本の長い角を生やしてらっしゃる。



会ったこと無かったけど……さすがは全年齢対応ゲーム。

この、分かりやすい位に丁寧なヴィジュアルで分かるわ。



このイケメンは間違い無くラスボスの魔王様だ。



一応、乙女ゲームだからラスボスでも美形なんだろうか?

でも最終バトルの相手じゃん?

イケメン、顔面腫れる位にボコっても良いのか?



しかしイケメンとは言え…中身25歳、日本人の記憶持ちのわたしから見た率直な意見を言うならば、魔王と言うよりはまんまヴィジュアル系バンドのメンバーやってますな若者にしか見えん!



つか普段からこんな姿をしてますなんて言われた日には、厨二病を疑うしかない!

え、普段のお仕事はナニしてらっしゃるの?

職場にも、その恰好で?え?無職?俺はプロになるんだ?

親御さんは何も言わないの?言えないの?



「…結婚を前提にお付き合いしている彼氏だって友人に紹介された、ヒモ男のバンドマン思い出したわ…。」



あの後、友人はどうしたのだろう。

別れたのかな…まさか、楽器もろくに弾けない彼がプロになれて、結婚なんてしていたり……





て言うか、今はそれどころじゃないよね。

ゲームのスタート地点にも到達してないのに、ラスボス降臨とか。


ナニこれ。魔王を倒したらエンディング?

ヒロインでなく、モブの僕が倒すの?


何で今、急に現れたんだよ。


僕はジリジリと後退りながら、相手を測ろうとした。

戦闘が苦手でRPGに興味の薄い乙女ゲームユーザーの為に、このゲームはヒロインのレベルが35位でもクリアが出来る仕様だった。


そんなレベルで倒せてしまうんだから、魔王だって弱い筈だ。

レベルが99を越えてる僕の敵にはならないハズなのに…



何だ、この大きな威圧感は。

僕がアヴニールとして生まれ育ってから今この瞬間まで、敵に対してこんな緊張感を持った事など無かった。



━━怖い…負けるかも知れない。━━



「グルルル!ガルルル!」


イワンの威嚇が止まらない。

僕を奴から遠ざけようと、大きな身体で僕を隠す様に自身の身体を前に出す。


黒いヴィジュアル系バンドマン的な魔王様は、無言で僕をジロジロと見始めた。



……魔王って、人の言葉を理解出来るタイプだっけ?

何しろゲームをクリアしてないから分からない。



見た目は人のカタチをしてるしイケメンだけど、暴走した殺戮マシーンの様にイミフに攻撃をカマしてくる頭足りんヤツか?分からん!!



「え…っと……お兄さんは、誰でしょう?

ここは、僕のおウチが管理している森です…。

立ち去って下さると、嬉しいなぁ。」



ニコリと微笑み、無知で毒気の無い幼い少年を演じてみる。

言葉が通じなくて「ウガー!」って襲い掛かって来たら、その時は覚悟を決めてやってやるわ!





「……見た目が……随分と変わっているな。

花のような色の長い髪をした、16、17歳位の美しい少女ではなかったか?

私の半身をたおしたのは。」





ヴィジュアル系魔王様は困惑気味に呟いて、僕を見ながら思案する様に顎先をつまみ、ハテ?と首を傾げた。



僕は魔王サマの呟きに、前世のヒロインだった時の最後の戦いを思い出した。

魔王に臨むための最後の試練。

魔王の半身とも言われていた邪竜を……ヒロインだった僕は前世で倒した。



そこで僕は、魔王の半身を倒した褒美として神より与えられる、魔王を倒せる力を望まなければならなかった。

………望まなかったな。

あの時、僕にビビりの女神が言ったな…



『今です!貴女の願いを唱えるのです!

魔王を倒す力が欲しいと……』



で、僕は…



「あーッッ!!もう、ヒロインなんて、コリゴリだわ!!

こんなの、もう、やめたい!」





そっ、そうか…魔王を倒せる力とやらを望んで手に入れ、魔王を倒しに行くのが本来のシナリオなんだ。

願いが聞き届けられヒロインをやめれた未来わたしは、魔王を放置したまま僕に転生した。



あれから、もう9年近く経ってる。

もう時効では…つか、あれは今とは別の世界でしょ?

ヒロインのリコリス男爵家令嬢未来は、最初からこの世界には存在しないんだし!!

新しいヒロインのリコリス男爵家令嬢アカネならいるけど。



「まぁ、いい。

9年も待たされて退屈していた所だ。

殺し合いを楽しもうじゃないか。」



魔王サマがスルリと漆黒の剣を抜いた。

艶光する漆黒の刀身に紫水晶や真紅のルビーの様な宝石らしき魔石の装飾の付いたソレは、美しいと言うより厨二病クサイ。



「僕、そんな竜なんて倒してませんよ!

お兄さんと戦うなんて無理です!まだ子どもなのに!」



ヴィジュアル系魔王様が前に流れた長い髪を手ですくい、バサッと後ろに流した。



「ほう。私の半身が竜だと知っている上で、まだしらを切るのかワッパ。

今のお前はワッパだが、私の半身を斃したのは紛れもなくお前だ。

斃された我が半身が、自分を屠ったのはお前だと言っている。」



魔王がニィっと深紅の目を細める。

剣を持ち、僕の方に一歩一歩と近付いて来る。

魔王の放つ殺気を孕んだ威圧が、ピリピリと肌を刺激する。 

僕を守る様に魔王の前に出るイワンに押されて、僕の身体が後退った。 





「あの時…斃された私の半身の感情が私にも流れて来た…そして今なお……

命を奪ったお前を恨み、憎しみ、その身体を、魂をも蹂躙してやりたい……とな?……ん?」





え?何で最後、語尾上がった?疑問系?



僕は黒ヒョウ姿の大きなイワンの陰に隠されながら、声だけ出して魔王に何とかお帰り頂こうと交渉する。



「僕は、半身さんを倒してません!

9年前は、僕生まれたばかりですし!

それ以前の、前世ではとか言うのはやめて下さいよ!?

前世の記憶なんて、あるわけ無いんですから!

それに、まだいたいけな子どもである小さい僕が、お兄さんみたいに強い人と戦えるワケ無いでしょ!」





まくし立てる様に、それらしい言葉を並べ立てる。

今まで悪さもせずに沈黙を守っていたんだから、この先もそうしていて欲しい!



レベル35程度で倒せるワケ無いわ、こんなん!

レベル99越えの僕にこれだけ強い威圧を与えるなんて、どんだけ強いんだよ。





「私を強いと言うのか?

それが口からの出任せや、世辞ではないならばワッパも相当強いのだろうな。

私の強さは、私の半身を斃した者の『今』の強さを反映する。」





そんなゲーム仕様だったの!?

で、ゲーム仕様まんまの設定で現れたの!?

そんな強さを持ちながら悪さもせずに9年間、退屈状態で待ちながら?





何だか少し、申し訳なくなってきた。

前世で放置した魔王サマが、どういうワケか違う世界のコチラまでいらっしゃったワケで。

ラスボスとして倒される為に?エンディング?



いや、この世界はもう既に現実だから、ゲーム仕様により現れた魔王サマを倒してもエンディングとはならないよな。



人知れずに魔王がいなくなり、邪神とやらがこの世を脅かす存在となるだけだ。

じゃあ一応は聖女であるヒロインは、居なくなった魔王を倒す為に旅に出る??





「ワッパ。

私を倒せるつもりであれこれ考えているようだが、倒れるのは私ではない。

お前が私に倒されるのだ。

お前のような脅威を見過ごす訳にはいかん。

ここでお前には消えてもらおう。」





はい?僕の人生ここで終わり!?享年8歳?



魔王を倒すべきヒロインの役を捨て、僕はイレギュラーな転生を果たした。

そんな僕の存在なんて、ゲームの中には無かったもんね。

だから春の学園入学時のゲームスタート地点には、僕が居ない事になっててもおかしくないんだ…




いや、おかしいわ!!

ゲームはゲーム!ここは現実!!

僕は今アヴニールとして、この世界で生きてる!

イレギュラーモブだからって理不尽な退場措置なんて受け入れない。

僕には姉様の幸せを見届けるという夢がある。

ゲームには関係なく、僕はアヴニールとしての僕の人生を全うする!





「ほう、やっとヤル気を出したかワッパ。

玩具の様な剣を構えおって。」





蘭鉱石を使い、僕が大聖堂の地下研究所て造った剣を持って構えた。

刀身がクリスタルの様に透明で、傾けると虹の様な七色の光を放つ。

これはこれで、キレイではあるが無意味に派手で、中々にこっ恥ずかしい剣だ。





「余計なお世話なんすよ!!

そっちだって人の事言えない様なデーハーな剣持ってるじゃないすか!

黙って倒されるのもムカつくんで、こっちも全力でいかせて貰うから!

覚悟してよ!かっこいいお兄さん!!」





魔王と呼ぶのもムカつくんで、かっこいいお兄さんと呼ぶ。





そして、アヴニールとしてこの世に生まれて初めて、自分に大量のバフを掛ける。

身体能力は勿論、攻撃力も防御力も、魔法防御力も、自分が所持していて使う必要の無かったありとあらゆるバフ魔法を自身に重ねて掛けまくった。



そこらの魔物ごときの攻撃を受けても、ほぼノーダメージの僕がここまでしないと、この魔王には勝てない。

そう思わずには居られない。



「グルルル!!!グァア!!」



「イワン!!」



意外にも、一番最初に攻撃を仕掛けたのはイワンだった。

黒ヒョウの姿のままで、大きく弧を描き頭上から魔王に飛びかかる。

魔王は黒ヒョウを見上げ、深紅の瞳を大きく見開き楽しそうに微笑んだ。



「ほう!!コヤツの名前はイワンというのか!!

イワンは姫を守る騎士にでもなったつもりか?出直せ。」



魔王は飛びかかって来た黒ヒョウの顔面を左手で掴み、その頭蓋骨を砕く勢いで手の平から衝撃魔法を飛ばした。

黒ヒョウの首から上が、跡形もなく吹き飛んで消える。



「い、イワン!!イワン!!」



首の無くなった黒ヒョウは地面に足を着けると、次は姿を漆黒の大鷲に変えた。

イワンには、体積も質量も関係無い。

この世のコトワリを外れていて、身体を大きくする事も小さくする事も、軽くも重くも出来る。

何なら自身で身を割いて本体とは別に、一部を鎖としたりも出来る。

だから、身体を削られてもダメージは少ないハズ……

なのに



大鷲になったイワンは僕の盾になり、魔王の攻撃が僕に届かない様にしている。

その大鷲のイワンは疲弊しているかの様に身体の一部が、ツルッノペッとしたスライム状に戻りつつある。



「ハハハハ!!魔力を糧にしている貴様に、魔力を削いでいく私の攻撃は辛いか!!

このまま削り続けて、この世から無くしてやろう!!

お前は負けたのだからな!!」



ええッ!!イワンが無くなる!?

イワンが無くなったら、シーヤを守る事も出来なくなるじゃん!



それより、イワンは今や僕の大切な仲間だ。

イワンが僕を身を賭して守ってくれるならば、僕だってイワンを守る。

僕は剣を構えたまま大鷲のイワンの背に足を掛け、そのまま背を駆け上がった。



「イワンは負けてない!負けるのはお前だよ、魔王!!」



大鷲姿のイワンの頭上から、剣を構えた僕が舞い踊る様に現れる。

月を背にして魔王の頭上に現れた僕は、魔王の心臓に狙いを定めた剣に僕の全体重を乗せて、そのまま落下するようにして魔王の心臓を刺し貫いた。



正直な所、これ位でくたばるような奴じゃないだろう。

不意をついての一撃だったが、この後は互いの命を削る剣戟が始まるに違いない。



僕は魔王の心臓を刺し貫いた剣から手を離し、地面に降り立った。

お恥ずかしい見てくれだが僕の造った剣では最強の剣が、魔王の心臓に刺さったままだ。



地面に降りた僕は、僕の造った二番目に強い剣を出して構える。

こちらはごくごく普通のシンプルで地味な剣だ。

ただ、魔法剣なので魔法を流すとシャラララ~ンと変な効果音が出る。

使いたくないが仕方無い。つか魔法を流さない様にしよう。



「掛かって来い!!かっこいいお兄さん!!

イワンは僕の大事な仲間なんだから!倒させたりしない!」



僕は翼がツルリぬるリン状態になった大鷲姿のイワンの前に両腕を拡げて立ち、魔王からイワンを庇った。



魔王は心臓にこっ恥ずかし剣を刺したまま、前髪を掻き上げて不思議そうに首を傾げる。

悔しいが、どう見ても、そんなダメージを受けた様な感じでは無い。



「……イワンは負けてない……か。

いや、コイツは間違いなく負けたのだ。前世のお前にな。

そしてコイツは、自分を斃し屠ったお前を深く恨んで憎しみ、斃された瞬間のその感情が私の元に届いた。」





…………はい??



前世の僕が倒した?ヒロインだった僕??イワンを倒した??





「女神が最後の試練とか言っていなかったか?

私の半身である、邪竜ファフニール。

そこに居るイワンがソレだ。」





はァァァ!?何だと!!??


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