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第一章【悪役令嬢ディアーナに転生】
29#零れ落ちる命。
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一人、自室に籠ったレオンハルトは窓の方を向きベッドに腰掛け、手にした回復薬の入った小瓶を眺めていた。
入江でジャンセンに言われた事を考え続ける。
━━━父…創造主は、俺に見切りをつけたって事か……?
新しい修復人を生み出し、俺が居なくなるのを待っているのか…━━━
新しい修復人と、聖女…
頭の中で、ジャンセンとディアーナが寄り添う場面を想像してしまう。
心臓が潰れそうになる。
自分以外の誰かの物になる位なら、いっそその命を奪ってしまいたいとも思う。
出来る訳も無いのに。
レオンハルトはシャツを脱ぎ、ジャンセンから受け取った薬を飲み干した。
背後にスティーヴンが居た事に気付かずに。
「レオンハルト殿…。」
スティーヴンの声にベッドから立ち上がり振り返る。
スティーヴンが目にしたレオンハルトの身体は、ガラスで出来ているかのように透明感を帯び、胸元から下に向け激しいひび割れが走っていた。
そして亀裂の激しい箇所から、光の粒子のような欠片が落ちてゆく。
「何ですか、その身体は…!」
あまりの痛々しさに声をあげたスティーヴンは、自分で自分の口を押さえる。
「そんな身体で、戦っていたんですか?旅をしていたんですか?!
…!く、薬…!ジャンセンが持っていた薬なら…!」
いつ完全に割れるか分からない、ひびの入ったグラスに命と言う名の水を入れ、滲み出る雫を無理矢理手の平で留めようとしているような、危ういレオンハルトの身体に混乱したスティーヴンが薬の事を思い出し口にするが、レオンハルトは緩く首を横に振った。
「それを、飲んでこれが限度なんだ…俺の身体を治せるのは聖女だけだからな…。」
レオンハルトが愛し、レオンハルトを愛する者。
それが聖女の条件だと、旅に出る前に聞いた事を思い出す。
「だったら、さっさと恋人でも何でも作れば良かったんじゃないんですか!?
あなたを好きになってくれる女性なんて、いくらでも居るでしょう!?」
━━私は何に対して怒りをあらわにしているのだろう?━━
スティーヴンは自身に苛立つように唇を噛み締める。
「オフィーリアになって、ふざけてる暇があったら、さっさと貴方の聖女になってくれる女性を探せば良かったんだ!」
レオンハルトはスティーヴンを見て、薄く笑う。
「それは無理だ。俺が愛しているのはディアーナだけ。
彼女以外はあり得ない。
…彼女の魂がこの世に生まれた瞬間から…だから彼女しか俺を治せない。」
「……魂……?…何年…前の話ですか?
…ディアーナ嬢が生まれた16年前とかじゃないですよね…?」
何を聞いてるんだ、とスティーヴンは自身に思う。
でも確認せずにはいられなかった。
レオンハルトは静かに答える。
「千年たった頃から数えていない…。」
「あなたは…馬鹿ですか…?」
千年以上もディアーナだけを想い続けていると言う。
そんな一途で苦しい想いを隠し、なぜ茶化すようにしか本人に愛していると言えない、本音を語らない。
どうしようもない馬鹿だ。
▼
▼
▼
▼
翌日の朝
レオンハルトはスティーヴンを伴って教会に来ていた。
不測の事態に備えてディアーナは連れて来ていない。
ジャンセンに任せてある。
教会の会議室で、鍾乳洞の氷室での出来事をウィリアを始め、町の長達に報告した。
ウィリアは自身の母が魔物になった悲しみに泣き崩れ、町の長達は、事が終息していない事を知ると、不安と恐怖に震える。
「た、倒してくれるんだろう!?化け物を!」
誰かの声があがる。
「倒すつもりではいるが…現れない限りはなぁ。
…まぁ町の皆に、なるべく海に近付かないようにと…あと、ウィリアも気をつけてくれ。じゃ!」
レオンハルトは、騒ぎ立てた町の長達を無視してさっさと教会を出た。
━━━かつては巫女として崇拝していた女を化け物と呼ぶのか…しかも娘の前で…なあんか、イラッとする━━━
レオンハルトの思考がそのまま顔に出ていたようで、スティーヴンも引き留めはしなかった。
帰路についている中、スティーヴンがレオンハルトに話しかけた。
「…レオンハルト殿…差し出がましい事だと分かっているのですが、今日ここにディアーナ嬢を連れて来たくなかったからとは言え、ジャンセンに彼女を任せて来るのは…私は反対でした。」
先日のジャンセンとの事を思い返すだけで、スティーヴンは背筋がゾクリと粟立つ。
ハッキリと自分を殺すと言い切った、人外の何か。
レオンハルトと同じ神の御子だとしても、もう恐ろしさしか感じない。
「何だ王子サマは、アイツが何者か分かってんのか?」
「正確には分かってませんが、レオンハルト殿と同じ世界を知る者だと思ってます。
…父に仕えているのが信じられませんよ。」
レオンハルトが、ふ、と何かに気付いた顔をする。
「王さんには仕えてないと思うぞ?
と、言うか王都から来た影、シャンクに着く頃にはジャンセンと入れ替わっていたしな。」
「ええっ!?」
驚きを隠せないスティーヴンに苦笑しながら手の平を左右に振るレオンハルト。
「だいたい、あんな化け物を人間が飼い慣らせる訳がない。」
「レオンハルト殿が化け物と言ってしまうのですか」
あなたも同じでしょう、とでも言いたげにスティーヴンに顔を見られたレオンハルトは、ポツリと呟いた。
「……化け物だろ?今の俺より強いし…
彼女を…欲しがっている…。」
「そう言えばレオンハルト殿、この前ディアーナ嬢と口付けをしていましたよね?
あの時、ディアーナ嬢がレオンハルト殿に何か流れたとか、不思議な事を言ってましたが。」
思い出したようにスティーヴンが言った言葉に、レオンハルトは忘れていた可能性と、嫌な想像をしてしまう。
━━━傷付いた身体を完全に回復させるには、聖女として目覚めたディアーナと身体を重ねる必要があるが……
僅かな回復だけなら、聖女に目覚めていないディアーナを抱くだけでも……━━━━
入江でジャンセンに言われた事を考え続ける。
━━━父…創造主は、俺に見切りをつけたって事か……?
新しい修復人を生み出し、俺が居なくなるのを待っているのか…━━━
新しい修復人と、聖女…
頭の中で、ジャンセンとディアーナが寄り添う場面を想像してしまう。
心臓が潰れそうになる。
自分以外の誰かの物になる位なら、いっそその命を奪ってしまいたいとも思う。
出来る訳も無いのに。
レオンハルトはシャツを脱ぎ、ジャンセンから受け取った薬を飲み干した。
背後にスティーヴンが居た事に気付かずに。
「レオンハルト殿…。」
スティーヴンの声にベッドから立ち上がり振り返る。
スティーヴンが目にしたレオンハルトの身体は、ガラスで出来ているかのように透明感を帯び、胸元から下に向け激しいひび割れが走っていた。
そして亀裂の激しい箇所から、光の粒子のような欠片が落ちてゆく。
「何ですか、その身体は…!」
あまりの痛々しさに声をあげたスティーヴンは、自分で自分の口を押さえる。
「そんな身体で、戦っていたんですか?旅をしていたんですか?!
…!く、薬…!ジャンセンが持っていた薬なら…!」
いつ完全に割れるか分からない、ひびの入ったグラスに命と言う名の水を入れ、滲み出る雫を無理矢理手の平で留めようとしているような、危ういレオンハルトの身体に混乱したスティーヴンが薬の事を思い出し口にするが、レオンハルトは緩く首を横に振った。
「それを、飲んでこれが限度なんだ…俺の身体を治せるのは聖女だけだからな…。」
レオンハルトが愛し、レオンハルトを愛する者。
それが聖女の条件だと、旅に出る前に聞いた事を思い出す。
「だったら、さっさと恋人でも何でも作れば良かったんじゃないんですか!?
あなたを好きになってくれる女性なんて、いくらでも居るでしょう!?」
━━私は何に対して怒りをあらわにしているのだろう?━━
スティーヴンは自身に苛立つように唇を噛み締める。
「オフィーリアになって、ふざけてる暇があったら、さっさと貴方の聖女になってくれる女性を探せば良かったんだ!」
レオンハルトはスティーヴンを見て、薄く笑う。
「それは無理だ。俺が愛しているのはディアーナだけ。
彼女以外はあり得ない。
…彼女の魂がこの世に生まれた瞬間から…だから彼女しか俺を治せない。」
「……魂……?…何年…前の話ですか?
…ディアーナ嬢が生まれた16年前とかじゃないですよね…?」
何を聞いてるんだ、とスティーヴンは自身に思う。
でも確認せずにはいられなかった。
レオンハルトは静かに答える。
「千年たった頃から数えていない…。」
「あなたは…馬鹿ですか…?」
千年以上もディアーナだけを想い続けていると言う。
そんな一途で苦しい想いを隠し、なぜ茶化すようにしか本人に愛していると言えない、本音を語らない。
どうしようもない馬鹿だ。
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翌日の朝
レオンハルトはスティーヴンを伴って教会に来ていた。
不測の事態に備えてディアーナは連れて来ていない。
ジャンセンに任せてある。
教会の会議室で、鍾乳洞の氷室での出来事をウィリアを始め、町の長達に報告した。
ウィリアは自身の母が魔物になった悲しみに泣き崩れ、町の長達は、事が終息していない事を知ると、不安と恐怖に震える。
「た、倒してくれるんだろう!?化け物を!」
誰かの声があがる。
「倒すつもりではいるが…現れない限りはなぁ。
…まぁ町の皆に、なるべく海に近付かないようにと…あと、ウィリアも気をつけてくれ。じゃ!」
レオンハルトは、騒ぎ立てた町の長達を無視してさっさと教会を出た。
━━━かつては巫女として崇拝していた女を化け物と呼ぶのか…しかも娘の前で…なあんか、イラッとする━━━
レオンハルトの思考がそのまま顔に出ていたようで、スティーヴンも引き留めはしなかった。
帰路についている中、スティーヴンがレオンハルトに話しかけた。
「…レオンハルト殿…差し出がましい事だと分かっているのですが、今日ここにディアーナ嬢を連れて来たくなかったからとは言え、ジャンセンに彼女を任せて来るのは…私は反対でした。」
先日のジャンセンとの事を思い返すだけで、スティーヴンは背筋がゾクリと粟立つ。
ハッキリと自分を殺すと言い切った、人外の何か。
レオンハルトと同じ神の御子だとしても、もう恐ろしさしか感じない。
「何だ王子サマは、アイツが何者か分かってんのか?」
「正確には分かってませんが、レオンハルト殿と同じ世界を知る者だと思ってます。
…父に仕えているのが信じられませんよ。」
レオンハルトが、ふ、と何かに気付いた顔をする。
「王さんには仕えてないと思うぞ?
と、言うか王都から来た影、シャンクに着く頃にはジャンセンと入れ替わっていたしな。」
「ええっ!?」
驚きを隠せないスティーヴンに苦笑しながら手の平を左右に振るレオンハルト。
「だいたい、あんな化け物を人間が飼い慣らせる訳がない。」
「レオンハルト殿が化け物と言ってしまうのですか」
あなたも同じでしょう、とでも言いたげにスティーヴンに顔を見られたレオンハルトは、ポツリと呟いた。
「……化け物だろ?今の俺より強いし…
彼女を…欲しがっている…。」
「そう言えばレオンハルト殿、この前ディアーナ嬢と口付けをしていましたよね?
あの時、ディアーナ嬢がレオンハルト殿に何か流れたとか、不思議な事を言ってましたが。」
思い出したようにスティーヴンが言った言葉に、レオンハルトは忘れていた可能性と、嫌な想像をしてしまう。
━━━傷付いた身体を完全に回復させるには、聖女として目覚めたディアーナと身体を重ねる必要があるが……
僅かな回復だけなら、聖女に目覚めていないディアーナを抱くだけでも……━━━━
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