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ルンルンとルンルンなお墓参り。

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ヴィルムバッハ伯爵邸の朝は早い。


早朝6時にはもう、かつては邸の裏庭であった鍛錬場にムサイ男共が集まっており、ドスの効いた掛け声と木剣の剣戟の音が邸中に鳴り響き始める。


「うるさっ。これでは、ゆっくり寝てらんないわよね。」


ミーシャは大きな溜め息と共にベッドから降りてガウンを羽織り、眼鏡を掛け顔を洗う水を求めて炊事場に向かった。

炊事場の近くには勝手口があり、すぐ外に井戸がある。

伯爵家でありながら住み込みの使用人を一人も置いてないらしいヴィルムバッハの邸では寝室に洗顔用の水を持って来る侍女もおらず、昼に通いの使用人達が来るまでは着替えも食事も何事も自分でしなくてはならない。

庶民向きの暮らしに慣れているミーシャには全然平気なのだが、お城に居るお嬢様方には耐えられないかも知れない。



「おわ、し、失礼しましたー!
やっぱり起きてしまいますよねーそりゃー。
お嬢さんが邸に居る間くらい朝の鍛錬を休めばって将軍に言ったんですけどー。」


勝手口を出てすぐの井戸の前に立っていたルンルンが、いきなり勝手口の扉を開け現れたミーシャに驚き、慌てた様に背を向けると申し訳なさげな声を出した。

ミーシャは寝起きのボンヤリ顔を男性に見られたからと言って動じる事はなく、クテっと首を傾ける。


「早起きは慣れてますから構いませんわよ。
寝起きの女性を見るのは失礼との気遣いも不要ですから、話しにくいのでこちらを向いて下さい。
あ、ルンルンさんにお願いがあるのですけど。
昨夜書いた手紙を少しでも早くキリアン皇帝陛下に届けたいのです。
王都方面に向かう方が居たら、お渡ししてくれません?」


ミーシャはガウンの内側に手を入れ、胸元から生暖かくなった封筒を取り出してルンルンの方へ差し出した。

目の前に差し出された封筒を受け取ったルンルンが、控え目にミーシャの方を向きつつ感心した声を上げる。


「え、持ち歩いてたんですか?準備がいいですねー。
うわ、ナマあったかー。
……分かりました、俺の方で一番早く届けてくれる人に預けときますよ。」


「お願い致しますわ。
私、お昼前には両親の墓所に向かいたいのですけど、ルンルンさんはそれでも大丈夫ですか?」


「はい、俺の方は全く大丈夫です。
お嬢さんは、変わったご令嬢ですねー。」


「はい。よく言われます。」


令嬢らしくないとは、ミーシャは耳にタコが出来るほど言われている。
普通の女性らしくないも聞き飽きた。

だが、ミーシャは貴族令嬢らしい振る舞いが出来ない訳では無い。
必要性を感じないから素のままでいただけだ。

今ここで自分が貴族の令嬢らしい振る舞いをし、ルンルンにそのような対応を求めていたら、それだけで何段階かの無駄な対応を重ねさせたろうと考える。


━━━━うーん面倒くさいし、すべて時間の無駄。
ずっと目を逸らされてると円滑なやり取りが出来ないし、ガウン姿や寝起きの姿を見られた位で死にゃしないし。━━━━


「そうですか、はははは。
さすがは変人の将軍のお孫さんだー。
……では、9時辺りに朝の鍛錬が終わりますのでー。
お迎えに上がりますねー。」


「…別に私は変人てワケじゃな………変人なのかしら?」


預けた手紙を持ってその場を去って行くルンルンの背中をミーシャが見送る。

ミーシャからすれば、ルンルンも随分と変わり者の青年である様に見える。
貴族社会に関わった事が無い平民の出とは聞いたが、緩い印象を与えながらも実は隙が無く、軽口を叩き不遜らしき態度を見せながらも、貴族社会での対応をわきまえている様な言葉を発したりする。


「確かに田舎ではあるけど、この邸には貴族出身の人達もいるのだし。考え過ぎかしら。
まぁ彼が1番変わってるのは名前なんだけど。」


ルンルン。恐らく本当の名前ではない。
ただの平民の子にわざわざ偽名を与える理由は何なのだろうと思いつつ、ミーシャはその場で顔を洗い、身支度をする為に部屋に戻った。





けたたましく、むさ苦しい声が鍛錬の場から聞こえなくなり暫く経った頃に、着替えを済ませたルンルンがミーシャの部屋を訪ねて来た。

既に身支度を終えていたミーシャは、王都の邸から連れて来た二人の従者の代わりにルンルンを伴って墓所に向かう。

途中で一緒に旅をした二人の従者の姿を見掛けたが相当しごかれたらしく、水飲み場の近くで力尽きた様に地面にぶっ倒れていた。


ミーシャがルンルン1人のみを連れて領内を出歩く事に将軍は何も言わない。

それは将軍がルンルンの実力を認めているのか、領内では貴族令嬢に悪さをするような賊が出ないという事なのか…。

この田舎町の男性陣のほぼ半数以上が将軍の鍛錬を受けたと言うのだから後者かも知れない。





ヴィルムバッハ伯爵邸から一時間ほど歩いた小高い丘の上に、ヴィルムバッハ家のゆかりの者達が眠りにつく墓所がある。

ミーシャの両親の名はヴィルムバッハではないが、将軍の厚意により墓石を建てる事を許された。


「お嬢さんのご両親は、こちらに眠っておられるんですね。」


「ええ、そう思っております。
でも墓石の下には何も無いのですよ。
私の邸は、ヴィルムバッハ邸よりも小さかったのですけど邸が全焼してしまい、瓦礫に埋もれて両親の亡き骸を探す事が困難だったのです。」


ミーシャは墓石の前に花を添え、祈る様に指を組んで目を閉じた。


「ルンルンさんのご両親は、ご健在ですの。」


「俺の両親も死んでますね。死体も見つからなかった。
俺ねー戦争孤児なんです。」


ルンルンの告白にミーシャが首を傾けた。

20代半ば位のルンルンの年齢で、この大陸内で戦争孤児と言われれば思いつくのが、若かりし日のガインとヴィルムバッハ将軍が父子共に軍神、戦神と呼ばれた戦争。

あの戦争しか思いつかない。


「それも俺ってー、ベルゼルト皇国を中心にした大陸連合軍を敵に回した国の出身なんですよ。
ベルゼルトの皇妃様でしたっけ?その人が中心になって俺の国は蹂躙され尽くしました。」


「戦闘狂セレスティーヌ第一皇妃様ですね。」


普段はしおらしく、たおやかな淑女として、大きな猫を被っていたらしいが、3度の飯より剣を振るう事が好き!な女だったと。
それがキリアン皇帝陛下の母親の本当の姿だと。
ミーシャはそんな話をガインから聞いている。


「戦争なんて、どんな正当性を謳った所で、その犠牲となる国民には災厄でしかありませんわよね。
………ベルゼルトを恨んでます?」


「えー?まさかー!いや、そりゃ当時は恨みましたけど…。
非はコチラの国にあったのだと理解してますし…
敵国の者だと知ってて俺を保護してくれたのはベルゼルトの将軍ですよー?
今となっては恨んだりしてませんってー。

でも…そうですねー…」


小高い丘の上を吹く優しい風にホワホワとした邪気の無い表情を撫でさせていたルンルンが表情を変え、冷たい眼差しを遠くに向け、口元には笑みを浮かべた。


「うちの国に輿入れ直前でベルゼルトの第二皇妃に乗り換えて、まんまと命拾いしたカリーナ様。
今はご子息の第二皇子が生死不明なままで行方不明。
リスクィートの氷の姫君は今一体、どんな顔をなさって、どんな表情をしてらっしゃるのか……
俺ねぇベルゼルトは恨んでないけどリスクィートはめちゃくちゃ憎んでますからね。」


━━……ルンルンてば闇が深い気がするわぁ……
この人、小説のネタにしたら面白そう━━


思わずミーシャがニンマリと微笑み、それを見たルンルンの表情が逆にサッと潮が引く様に元に戻った。


「そこ、笑うトコですかー?
引かれるかと思ったんですけどー。」


「私的には面白いネタなんで……つい。ふふ…」











キリアンは自室にある執務用の机の上に届いた2つの手紙を開いて並べた。

2枚の手紙は人足を使って運ばれた物では無い。

これら2枚の手紙は人が道を歩き道を走って運ぶよりも遥かに早くキリアンの手元に着いた。


「1枚はミーシャからだな。
ヴィルムバッハは平和で何事も無く━━と書かれている。
もう1枚はリスクィートに潜入中の叔父セドリックからの報告だ。
こちらは、瀕死の状態だったケンヴィーが亡くなったとある。
…………さてガイン、これらのもたらす意味が分かる?」


キリアンの自室にて、テーブルの上に酒や肴を並べていたガインが「はぁ?」と頓狂な表情を見せる。


「分かるかよ。
と言うか、親父の所に避難させたミーシャに何の報告をさせてんだ。
それに……ケンヴィー皇子殿下が亡くなったと…。」


行方不明であったケンヴィー皇子が見つかったとの報告から、結局それが真実か確かめる術は無かった。

だがケンヴィー皇子がリスクィートにおり、実母であるカリーナ皇妃が会ったのであれば…
信憑性は高くなる気がする。


「うん、近い内にリスクィートから多額の賠償請求と言う名の宣戦布告を受けるかも知れない。
あちらは息子を奪われたカリーナ義母上を旗印として担ぎ上げるつもりだろうな。」


「かも知れんが!納得いくか!?
真偽の確認も出来ないままで、いきなり国を明け渡せって言われてもよ!
そりゃ…受けて立つしかねぇだろうが…カリーナ様と戦いたくはねぇな……。」


「叔父からの報告は、リスクィートに居たケンヴィーが死亡したとだけ書かれていた。
そこに、今1番近くに居る義母上の事は一切書かれていない。」


「……???だから、何だよ……」


ガインが酒を並べているテーブルに近付いたキリアンがガインの隣に立ち、そっと腰から下に滑り落ちる様にガインの臀部を撫でさすった。

いきなりスルンと尻を撫でられたガインが、手にした酒瓶をゴンとテーブルに落とす。


「なっ、ナニしやがるんだ!
床に落としたら、あぶねぇだろうが!」 


「今から2人で大事な会議をしよう。
これから始まるかも知れない戦に関する、ガインが頭に入れて置くべきかも知れない、重大かも知れない、真剣かも知れない話だ。」


「はぁあ!?かも知れないが多過ぎるわ!
尻を撫で回すのと何の関係が……ンあ!」


ガインの背側から腰を撫で下ろしてトラウザーズの中に潜り込んだキリアンの手は、ガインの双丘の膨らみを直に撫で回し、指先が谷間を滑り落ちる。


「ここ最近、互いにピリピリと空気が張り詰めていて中々愛し合えなかったじゃない?
一旦、心身共に落ち着かなきゃ良い考えも浮かばないと思うんだ。」


「こんなんで落ち着くかい!
今、そんな気分じゃな………あっ…!おまっ…!」


テーブルに両手をついたガインのトラウザーズが膝下まで下げられ、丸出しになった双丘がムニと左右に割り開かれた。

慌てて振り返ったガインだったが真後ろにキリアンの姿は無く━━

すーっと視線を下げると、ガインの背後でしゃがんだキリアンが居た。


「暫らくぶりで緊張しているみたい。
俺が優しく、ほぐしてあげるからね。」


割り開かれた谷間をヌルッとキリアンの舌先が這う。
あまりにも急な展開に、焦ったガインがキリアンの頭に手を置いて離そうとした。


「や、やめろ!!陛下に尻を舐めさせるとか!
何か…こんなの何かがイカン!!」


「陛下?今、俺を陛下と呼ぶの?
……………夫ではなく?陛下?
今から夫婦として愛し合うのに?」


キリアンの声にあからさまに不満が滲み出した。

ガインが声を発せないままで「いや、お前…今から会議するって言ったじゃん…それ、陛下と隊長としてじゃ…」と口をパクパクさせたが、こうなってはもうキリアンの耳には届かない。


「久しぶりで忘れているのかな。
ガインには、自分が俺の妻である事を再認識して貰わねばならないようだ。
この、処女みたいに可愛く固く閉じた蜜孔も俺がいつもの様にやらしく花開かせてあげる。」


ムニュと開かれた谷間の奥、キュッと結ばれた窪みにクニュとキリアンの舌先が当てられた。



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