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キスマーク。

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数本の瓶の洋酒と缶ビールをまとめて買ったら荷物が多くなり、それなりに重くなった。

酒瓶は俺がマイバッグに入れて持つ事にしたのだが、歩く度に瓶がカチャカチャ音を立て擦れ合い、その振動でバッグの肩掛けの紐部分がタンクトップを着た俺のむき出しの右肩に食い込む。

ランは缶ビールをたくさん入れたリュックを背負ってくれているが、それも相当重いだろ。
何だか悪い気がする。

今回のまとめ買いは、その都度コンビニに行くよりは安くついたので、お得と言えばまぁ得をしてるのだろうが…何てゆーか…。


「真弓が1人で買いに行っていたら大変だったよな。
お酒のストックが無くなったら、また一緒に買いに行くから。」


「あー…買いだめしとく方が得だと分かっちゃいるんだが……
飲みたいって思い付いたタイミングで目と鼻の先のコンビニ行く方が楽だったりするんだよな。」


「そんな事言って、1人でバイクで買いに行ったりするんじゃないだろうな。
あそこに1人で行くのは無し!」


ランの中で、ドラッグストアまで行って帰る行程がデートだとルールを決めたらしい。
だから1人で行くのは禁止だと言う。
最近のランは大人びてきたが、こういう所は子どもっぽいんだよな。


俺の隣にいたランが俺の前に移動し、立ち塞がる様にして不満げな顔で俺を睨んだ。
真正面から俺を見るランの顔が不意に視界に入り、思わず俺は目線を横に逸らす。


「あ、目を逸らしたな。
やっぱり1人で買いに行く気なんだろ。」


違う……目を逸らしたのは図星を言い当てられバツが悪いからとかじゃない。

さっき避妊具を見た時に、昨夜の記憶と混ぜ合わせる様にして、ランとの行為をさわりだけとは言え、頭に想像してしまったから……
要は、俺とそういう行為をするランの顔を頭に描いてしまったから……
今、ランの顔をマトモに見るのが恥ずかしい。


「…か、顔が近い。
近場のコンビニで充分っつーただろ。
わざわざバイク出してまで1人では行かないって。」


「なら、いいんだけど。」


スイッと俺の視界からランが外れた。

再び俺の隣に並んで距離を詰め、下がった俺の左手の甲に偶然を装うようにコツンと自分の右手の甲を当てて来た。

こんな小さなスキンシップでも、俺の心臓が鼓動より大きくトクンと音を鳴らす。

コツンと当てられた甲はすぐ離れたが、代わりにランの人差し指が俺の人差し指に引っ掛けられた。

指先一本でランと繋がってる変な状態だが、振り払うのも意識し過ぎた大袈裟なものに思えて、指先くらい…と俺はランがしたいようにさせる事にした。


ランの人差し指は俺の人差し指の関節に引っ掛けられていたが、その指先がツウッと移動して手の平側から人差し指と中指の股に引っ掛けられた。

指の股を人差し指で数回擦りながら、ランは俺の人差し指の爪を親指で撫で始める。

並んで歩きながら、俺の左手人差し指一本の爪の先から付け根までをランに嬲られているような変な感覚。


「お前っっ…!やめろ!」


指先の動かし方がいちいちエロくさい!!

たかが指一本だがさすがに我慢出来なくなり、俺は左手を大きく動かしてランの右手を振り払った。


「あー…家に着いちゃった…もう真弓とサヨナラか…」


俺に右手を振り払われたランはスタスタと先を歩き、俺の家の鍵を開けて戸を開いた。

まるで何事も無かったかの様なランの態度に少なからずイラッとしてしまう。


━━そうかよ、俺が意識し過ぎだって言うんだよな。
たかが指一本オモチャにされた位で、みっともなく狼狽えたりしちまって。━━


ムスッとした表情をして玄関に入り、酒瓶の入ったマイバッグを肩から下に下ろす。
右肩には食い込んだマイバッグの持ち手部分の痕が出来ていた。
右肩を撫で擦り「イッテぇ…」と呟きながら靴を脱いで玄関から家に上がり、茶の間に向かおうとした所で俺の前にランが立ち塞がった。


「食い込んで痕が付いてるじゃん、そんな重かったなら言ってくれたら俺も持ったのに。」


「お前のリュックだって相当重かったろ。
つーか、持ち手が細いバッグ使ったからこんなんになっただけで気にする様な事じゃねえよ。」


痛々しく見えるらしい痕にランの指が触れる。

さっき、俺の人差し指に絡ませられたランの指を思い出して気恥かしくなり、目を伏せて少し身を引いた。


「だからさぁ…さっきから何で、そんな色気のある顔を見せんだよ…。
ずっと気付かないフリして我慢してたのに…
俺もう帰らなきゃならないのに、真弓は残酷だ。」


廊下の壁に背を付く様に身体を押しやられ、壁ドン状態にされた。


「色気のある顔!?してねぇよ!そんな……んッッ」


すかさず唇が重ねられ、俺の唇の隙間を割ってランの舌先が腔内に侵入って来る。
ランの舌先は俺の内側をまさぐる様に激しくうねり、歯列をなぞって舌の上で躍った。

電流の様なゾクゾクした感触が尾骶骨から背筋を駆け上がり、腰と膝から力が抜けてその場にうずくまりそうになる。


「…してる…。誘われてるのかと思う位。
その肩だって…俺に慰めて欲しいんじゃないかと…。
その上で、俺が真弓との約束を守って我慢出来るか試されてるのかと。」


僅かに唇を離し、互いの呼気を吸う位置でランが囁いた。

チュッチュと俺の唇を啄み、俺の顎先に口付けをしてから、ランは俺の右肩に付いた紐の痕に唇を置いた。

乗せる様に置かれたランの唇は柔らかく温かく、ジンジンと痛む皮膚に心地が良かった。


「んなワケねェっっ……ンぅ……」


意識せずに甘ったるい声が漏れてしまい、俺は慌てて口をつぐんだ。


「真弓…すげー可愛い。
真弓が好きだ…愛してる…真弓を抱きたくて堪らない…。
今すぐにでも真弓の全てを俺のものにしたい。」


肩に当てられたランの唇が、チュクッと俺の肌に強く吸い付いた。


「っっぁだっ!」


噛まれた様なチクリとした痛みに、思わず色気もクソも無い変な声が漏れてしまった。

ランが唇を離すと、俺の鎖骨の端に赤い花びらの様な痕が出来ていた。
いわゆるキスマークってヤツが…………


「けど…今日は、これで我慢する。
真弓が俺のだってシルシ。」


━━はぁ?
キスマークを指先でなぞったまま茫然としている俺の頬に、ランがチュッチュとキスを落としてから俺から離れた。

玄関を上がってすぐの廊下で立ち尽くす俺の前で、ランがバタバタと帰り支度を始めた。

台所に行って土産のアップルパイを手にし、制服を詰めたバッグを肩に担いで廊下で呆けている俺の前に戻って来た。


「明後日、学校終わったら此処に来るから一緒に飯食おう。
俺が夕飯作るから待ってて。」


ランはキスマークに指を当てたまま、まだ呆けている俺の唇に、舌先を入れずに唇だけを重ねて押し付けるキスをして顔を離した。

俺の頬に手の平を当て、指先に俺の髪を巻く様に絡ませてからスルリと髪を解いて指を離す。

目を細めて愛おしむ様に俺を見詰めるランから目を逸らせない。


「また明後日な、真弓。」


クスッと笑ってランが靴を履き、俺に手を振って家から出て行った。

ランの気配が俺の家から無くなってからやっと、俺は封印が解けたかの様に動く事が出来た。


「っっぷはっ……!息まで止まるかと思った…!
マジか…キスマークって……マジか!!」


俺は洗面所に行って鏡に映る自分の姿を確認した。

俺の肩にはマイバッグの持ち手の紐の痕がまだ残っていたがそれは薄くなりつつあり、じき消えるだろう。

それよりもランの唇の痕がくっきりと赤く鎖骨に残ってしまっている。

これは…すぐ消えないだろうし、タンクトップ姿ではかなり目立つ。


「キスマークなんてモン、付けた事も付けられた事もネェよ……。
んだよ、この『俺のだってシルシ』ってのは…」


今までの恋愛で、付き合った彼女の事を『自分のもの』と強く思った事は無かった。
『彼女』になった人を『彼女』という立場で扱う。
大事にするし優しくもする、頼られれば応えてあげる。

だが俺は相手を独占したいと強く思ったりした事はなく、だから心にもない「愛してる」なんて言葉を自発的に口にした事も無かった。


━━お互いに恋はしているのかも知れない。
でも愛し合ってるとは思えない。━━


今まで付き合った女性全員に、そんな感じの言葉を別れの理由として言われた。

「分かった」と軽く別れを受け入れた自分は、淡白な性格なんだな位にしか思ってなかったが…。


「今思えば、俺はセックスも淡白だったんだろうな。
互いに乱れた、なんて記憶が無い。」


鏡に映る自分を見ながら鎖骨に残った赤い唇の痕に指先を当てると、ランが俺の肌に唇を当てた瞬間を思い出した。

顔が肌に近付いた時に感じたランの息遣いもフワッと香ったランの匂いも、柔らかく温かな唇の感触も触れた手も指先も全てが一つに繋がり……
俺を愛してると言う「ラン」を思い出す。
それだけで芯に火が灯る様に身体の内側が熱くなる。

こんな感覚は初めてで、自分をどう保って良いか分からなくなる。

俺は洗面所にへたり込んでしまった。



「やべーなぁ……」

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