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近所のスーパーに買い物デート。

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翌朝俺が目を開けたら、布団の隣にランは居なかった。
身体を起こして布団の上に胡座をかいて座り、ポリポリと頭を掻く。

浴衣がはだけ過ぎて、ほぼパンツ一丁状態の自分の身体を見下ろし、寝起きでぼんやりした頭のままで何となく身体を確認していく。

どスケベなランに、何かやらかされた形跡が無いかと胸の辺りや腹部を見てみるが、キスマークひとつ無かった。


「なんだ…何もしなかったのかよ…」


溜め息混じりに思わず溢した残念そうな呟きに、ブワッと焦って一気に目が覚めた。


「違う違う!ほっとしただけだ!
ちゃんと約束を守ってくれてんだからな!」


気を取り直す様にはだけた浴衣を直し、茶の間に向かった。
ちゃぶ台の上には食パンが置かれ、朝食の準備がされていた。


「おはよう真弓。ちょうど起こしに行くトコだった。
今、ハムエッグが出来た所だ。
朝食の前に顔を洗ってきなよ。」


ハムエッグとプチトマトが乗った皿を持ったランが台所から茶の間に来て、俺の後ろから声を掛ける。


「食パンなんか、どうした?」


「朝、ランニングのついでにコンビニで買って来た。
プチトマトとハムも。」


「毎朝必ず数キロ走っていると聞いていたが、日曜日も走ってんのか。
日曜位はゆっくり寝てりゃいいのに。」


顔を洗いに洗面所に向かおうと茶の間から出た俺の背に、ランがピタリとくっついた。

完全に油断していた俺は背中に張り付いたランに大袈裟な程にビクッと身体を震わせて反応し、背筋をピンっと伸ばす。


「ハハッそんなに警戒しなくても…。

夜通し真弓とイチャイチャして朝を迎えた時は、まったりと布団の中に居るつもりだ。」


「そ、そりゃいつの話かな。
2年半後って事か?」


背後に立つランの手が俺の脇の下を通り前に回された。
炊事をしていて濡れたランの冷たい手の平が俺の喉元を覆い、そっと撫で始める。


「セックス」


耳の後ろでランが囁いた単語にゾクッと身構えた様に身体が強張る。
喉元に当てたランの右手の小指が俺の鎖骨に触れ、左手は俺の腹部に回されて背後に身体を寄せられる。


「……は、2年半我慢する。
だけどスキンシップは別だろう?真弓。
触れるのも無しなんて約束はしなかった。」


「そりゃ…!そうだけどよ!」


ドッドッと動悸が激しくなるのが分かる。

俺の身体の中には昨夜のランとの行いによる熱の残滓がまだあり、燻る様なそれはランの言動でいとも簡単に熱を発する。


「そうだけど、確かに今じゃないよな。」


ガチガチに強張る俺を後ろから捕らえていたランの手がスルッと脇の下から抜き去られた。
ドッと脱力した俺は、身体を支えるために壁に手をつく。


「顔を洗って来なよ、冷める前に朝ごはんを食べよう。
真弓が来たらパンも焼き始めるから。
あ、コーヒー淹れなきゃだな。」


俺から離れてランが台所に戻って行った。

茶の間の入り口で壁に手を付いた俺は、すぐに動けずにいた。


…なんだコレ、手汗びっしょりだ。
どうなってんだ、俺の身体。
いや、身体だけではなく頭ン中もか。
ランに過敏な程に反応してしまう。


昨夜、ランによってもたらされた性的な興奮による射精は、本当に久しぶりで。
自分はまだ、性欲が枯れたワケじゃないんだなと再認識させられた。
だからといって…男を相手に性的な興奮をして射精してしまった自分に戸惑う。

正直な所、女を相手にしても昨夜の様に昇り詰める様な感情は湧かなかったと思う。

それはきっと特別な事で、相手がランだから━━なのだろうが。

心の準備が出来てなくとも、俺の身体はランを受け入れる事を拒む気はないのかも知れない。

それはそれで………
まるで自分自身にも急かされている様で……。


「参るな……」












朝飯を食ってから寝室に行き布団を畳む。

俺の布団は庭の竿に掛かった状態で曇り空の下、つゆだくのはんぺんみたいになったままだ。

あの布団はクリーニングに出す事にして…
しばらくの間、寝る時はランの布団を使わせて貰おう。


「真弓、雨が降る前に食材を買い足しに行こう。」


寝室を覗いたランに声を掛けられ、我が家の食材が乏しかった事を思い出した。


「あー、そうだな今の内に買い出しに行くか。」


のろのろと浴衣を脱いでジーンズを履く。

俺は上半身裸のジーンズ1枚姿で、上にTシャツかタンクトップどちらを着るかで悩み、寝室をうろうろした。


「真弓、襲いたくなる程にセクシー。」


「はぁあ!?うるせぇわ!」


こんな冗談みたいな言葉にも過剰な反応をしてしまう俺、何なんだ。





着替えた俺とランは、歩いて10分程の近所のスーパーに向かった。

ランが小学生の頃から、よく2人で買い物に行く場所だ。

ランが小学生の頃は、金髪にサングラスの悪役みたいな俺と小学生のランの異様な組み合わせに、ご近所さんやスーパーの店員に訝しげな目で見られたりしたが…

通い続けて常連となった今は皆が顔見知りだ。


「真弓、スープカレーが食いたい。
スープカレー作ろう!」


ランが催促し、俺の肩を掴んでユサユサと揺らし続ける。
何でスープカレー限定…。
普通のカレーじゃ駄目なのかよ。


「カレーなら、レトルトでいいじゃねーか。
飯だけ炊けば済む。」


「駄目、夏野菜もたくさん付けたスープカレーを俺が作る。
真弓はもっと野菜を食わなきゃ駄目だ。」


一度言い出したら聞きゃしない。

俺は諦めてナスを吟味しているランと離れて店内をグルっと回った。
酒を飲むのに、とロックアイスとチーズを持ってランの所に戻る。
ランの持つカゴに氷を入れたら、あからさまに嫌そうな顔をされた。


「飲むなら、ちゃんと飯を食ってからにしろよ。」


「分かった分かった、ちゃんと言い付けは守ります」


レジに並ぶランを見送る際にカゴを覗いたら、野菜や肉、魚の干物と共に、ランが残り僅かだと言っていた調味料も入っていた。

実質、ウチの台所は俺よりランの方が把握していて、ランがウチに来る際には飯も作ったりするし。

通い妻みたいだな、ラン。



会計の済んだ商品を2つのバッグに詰めて、俺とランがひとつずつ持つ。

車通りの少ない住宅地の帰路を歩きながら、ランがコソッと囁いた。


「一緒に買い物して仲良く並んで歩いて。
俺達まるで、新婚夫婦みたいじゃないか?真弓」


「ぶっ……ゲホッ!!」


虚を突くランの発言に、思わず咳き込んでしまう。

いや、俺もさっきランの事を通い妻みたいだとか思ったけどよ!


「あー、だったらランが新妻で主婦ってワケか。
なんだかんだとウチの家事は、ランがする事が多いしな。」


驚きのあまり咳き込んでしまったが、何とか『いつも通りの俺』を持ち直し、内心焦りまくりだが普段通りっぽく返事をした。


「ああ、俺は夫って字を使っての主夫っぽいかもね。
真弓の為にする家事は嫌いじゃないし。
でも、新妻の役目は真弓にお願いしたい。
毎晩たくさん可愛がるつもりだし。」


ナニ言ってやがるんだ!!
こんな場所で!!


「……………。」


そんな文句のひとつも言えずに俺は無言になってしまった。

想像力が乏しい俺には何が、どんな風にまでとか詳しく描く事が出来なかったが、ランの言った事に対し条件反射の様に、脳裏には昨夜の続きらしきコトを浮かべてしまった。

俺が掛けた色の濃いサングラスの内側で、目の周りの体温が上昇して赤くなったのが分かった。

ランもそれに気付いたようだが、あえて気付かないフリをしてくれている。

最近の俺は、ランに振り回されっ放しだ。


「ポストにチラシ入ってる………
へぇ、新しいドラッグストアが出来たって。
真弓んチからの帰りに寄ってみるかな。」


垣根に括り付けた赤い郵便受けの中からランがチラシを取り出して俺の方に向けた。


「ランの家と逆方向じゃねぇか。」


「さっきのスーパーのまだ向こう側だね。
ま、これ位の距離なら走って行けるし。」


「深夜までやってんのか、俺も夜に行ってみるかな。」


ランの手にあるチラシを覗き込んだ俺は、酒類特価の文字に目を輝かせた。


「わざわざ夜中に行かなくても、行くなら後から一緒に行こう。」


「いや………」


目の前で酒を買ったらランに文句を言われそうだから、とは言えずに俺は語尾を濁す。


「酒が欲しいって言うんだろ。
別に買うなとは言わないし、2人なら多めに買える。
少しでも長く一緒に居たいんだ、それ位いいだろ。」


「まぁ…なら…頼むわ。」


押し切られる形で、夕方にランとドラッグストアに行く事になった。

ランは、少しでも長く一緒に居たいなんてクサイセリフを口に出して、恥ずかしく思ったりしないのかと思う。

いや、これは俺がランの言葉に鈍感なフリをし続けたせいで、ランはド直球で言葉を伝えるようになったって部分もある。


「夕方は真弓とドラッグストアデートって事で。」


「デートなのかよ。」


曇り空を見上げて雨が降らない事を祈りつつ、俺とランは家に入った。

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