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布団ひとつの寝室。

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夕飯を食べ終えるとランが立ち上がり、食事が済んだ後の片付けをし始めた。

食べ終えた後の食器を重ねて台所に持って行ったランが皿を洗い始める。

俺もノソッと立ち上がり、後片付けはランに任せて洗濯物を干しに寝室に向かった。

洗濯カゴを抱えて寝室に入ると障子を開け、縁側の狭い廊下に洗濯物を干してゆく。



ランがウチに入り浸る様になって、家事は分担して行う様になった。

ランは簡単な料理も出来る様になったし、何だったら俺より旨い飯を作る。

家でも手伝ったりしてるのかと思いきや、まったく何もしてないらしい。

ランが俺のウチで家事をするのは、分担して早く済ませて俺との2人の時間を長くするためだそうだ。

口説き文句かよ……。





縁側に洗濯物を干しながら窓の外の庭を見る。

薄暗い庭で雨に打たれ続ける不憫な俺の布団を眺めた俺は、何だか物悲しくなった。

アレを完全に乾燥させるのは、かなり手間がかかりそうだ。

今夜はともかく、しばらくランの布団を借りて寝るしかないのか……。

ハァッと溜め息をつきつつ寝室へ戻り、ランがウチで泊まる際に使っていた布団を出して敷いておいた。


「…………狭っ」


敷いた布団を見て2人が横たわった状態を想像し、思わず呟く。

セミダブルサイズではあるが、デカい野郎が2人寝るには狹く感じる。

……こんな狭い布団の上に2人並んで寝るって……ミチミチにくっつくなぁ……密着するし……はァ?
俺とセックスしたいと言ってるランと密着て……えェ?

何か色々とヤバくないか?それ…。


「いや、考えてもきりが無いよな…。」


泊まっていけと言ったのは自分、不慮の事故(?)で俺の布団は死滅。
ヤツが俺と……シたいと知った今日、一枚の布団でヤツと寝る事になったのは偶然で、ヤツは今は「しない」と言った。
今は、それを信じるしか無い。


「何だこりゃ。
初めて彼氏ンチにお泊りする女の子みたいな事、思ってんな俺。」


そんな思考を持ってしまった事に気恥ずかしさを感じた俺は、そんな考えを掻き消す様に「ないない」と手の平を左右に振って、居間に向かった。





「後片付けが済んだからコーヒー淹れた。飲む?」


少し間を置いて居間に戻ると、ランがちゃぶ台の上に淹れたてのコーヒーを置いた。


「…おう…サンキュ」


ちゃぶ台の前に腰を下ろしてランが淹れたコーヒーを飲む。

まだ寝るには早い時間、いつもの様に取りとめの無い会話をして時間を潰す。
しばらくすると、ランが欠伸をし始めた。


「昼も思ったが、寝不足か?
なんか、やたらと眠たそうだな。」


「昨夜は…真弓との事を考えていたら、あまり寝れなくて…
初めてのディープキスとか思い出したら……」


そんな事をバカ正直に言うんじゃねぇよ。
そう思いながらも口には出せず、フイと顔を横に向けた。


「眠かったら、もう先に布団に入って寝ろ。」


で、もう先に眠ってしまってくれ。
ランが爆睡してから俺は布団に入る事にする。

俺が頭の中でそう考えたのを見透かした様に、ちゃぶ台の上に置いた俺の手をランが握った。

真剣な表情で俺を見詰め、緊張した面持ちで言葉を発する。


「真弓…何もしないから、俺と一緒に布団入って。」


はぁぁあ!?そんな真剣に言われたら……
むしろ、なんかスル前みたいじゃねぇか?


「お前なぁ、初めて泊まりに来た女の子に下心のある男が言う様な台詞を吐くんじゃねぇよ。
メチャクチャ胡散臭いだろうが。」


俺の手を握ったランの手から、俺の手を引いて離した。

一瞬だけ、縋る様な表情をしたランの心情が簡単に読み取れる。
たったこれだけの言葉と俺がランの手から自分の手を引いただけで、俺を不快にさせたのでは?と不安げな顔をする。


「わざわざ宣言なんかしなくていい。
お前に俺をどうこう出来るワケ無いだろうが。」


単に力の差だけで言っているのではなく、今こんな表情を俺に見せたヤツが俺が嫌がる様な事を敢行するワケが無い。

ランはこと俺に関してだけは、大胆な様で繊細、豪胆な様で臆病だったりする。


「ま、電気代の節約にもなるし…寝るか。」


俺はちゃぶ台に手をついて立ち上がり、照明の紐を引っ張って居間の電気を消した。

時間はまだ23時より前。
普段、深夜の2時前後まで起きている俺には寝るにはかなり早い時間だが、まぁいいだろう。

ランがそうしたいと言うのであれば。






2人で寝室に移動し、薄暗い常夜灯のオレンジに染まった部屋の中で、さっき俺が敷いておいた布団を2人で見下ろした。

………狭い……窮屈そうだ。

だがまぁ、布団からはみ出した所で畳の上に転がるだけだし………
最悪、身体の節々が痛くなるだけだし……。


「ほれ、寝るぞ。」


縁側を頭側にして敷いた布団の右側に俺が先に座り、隣の空いた場所をポンポンと叩いた。
茶の間から、ずっと無言のランが俺の隣に腰を下ろした。
俺とランの間に、変な緊張感が漂う。


いやいや2人揃って寝るって、前は普通にしていたじゃないか。
何だ、この微妙にギクシャクした感じ。

ランが成長してからは、ラン専用に布団を購入して同じ布団で寝る事はなくなったが…。

それでも陸つなぎ状態に布団を並べて一緒に並んで寝てはいたワケで。


俺が先に、ゴロンと仰向けに横たわった。
いつものクセで、両腕を広げて大の字になってしまった。


「真弓、俺に腕枕してくれんの?」


「ち、ちが…………
いや、してほしいなら、してやらんでもないけど……」


ずっと黙り込んでいたランが、ククッと笑って言葉を発した事に、変に安堵した。

俺に許可されたランが俺の左腕の上に頭を置いて横たわり、俺の方を向く。
腕というか、もうそこは脇だ。
ランの顔がメチャクチャ近い…。


このまま事を始めるんじゃないだろうなと焦るが「何もしないと言ったよな?」なんて子どもじみた確認をする事も出来ない。


「真弓の事、見ていていい?」


「見ていていい?イビキかいて寝る姿をか?」


いや、お前寝不足だと言ったじゃないか。
寝ろよ!と口から出掛かるが、飲み込んで無言で頷いた。

俺を抱きたいとハッキリと言い切ったコイツが、今はそれで我慢するからと譲歩したんだ。

だったら俺も、少し位は譲歩しないとな。


「ラン、おやすみのキス位なら許してやる。」


チュッとキスする位ならば、まぁ良いかなと思っての提案だったのだが


「一緒に寝ているこの状態でキス?
止まらなくなったら、どうすんだよ。」


眉尻を下げて苦笑したランが、俺の顎を指先でくすぐる様に触れた。

確かに…同じ布団にくっついて寝ている状態でキスを許すって…その先も許している様なモンかも知れないが。

やっぱり無しで。なんて、もう言えない。


「そん時は無理矢理にでも引っ剥がすだけだな。」


「ハハッ、じゃあ俺が止まらなくなったら、そうして。」


ランが俺の脇上に置いた顔を上げ、上体を起こして俺の顔を覗き込む様に顔を近付けてきた。

オレンジのほのかな明かりがランの頭に遮られて、俺の顔に影を落とす。

暗くてランの表情は見えないが…………
ランからは、喜びよりも先に不安にも似た戸惑いの空気を感じてしまう。

自制してみせろと俺に試されている様に思わせたかも。
俺は、かえって残酷な条件をランに課したのかも知れない。


「ラ………」


何を言おうとしたのか自分でも分からないが、ランの名を呼び掛けた。
俺に何を言われると思ったのかも分からないが、ランが俺の言葉を遮る様に唇を重ね、俺の口を塞いだ。

濡れた様に柔らかな唇が吸い付く様に重なり、何かを言いかけて開いた俺の唇の隙間にランの舌先が滑り込む。


「ンッ…!っ…ぅ…」


俺の舌先をまさぐる様に、ランの舌先が俺の腔内をうねり始めた。

━━そう言えば、ディープキス解禁したんだっけ━━

今更の様に改めて思い出した俺は、腔内で暴れ回るランの舌先に全身を強張らせてしまう。

先ほどまでランの頭を乗せていた俺の左腕がランの背に回り、ヤツのシャツを強く掴んだ。
焦った俺がランを引っ剥がす前ぶりの様な行為を、その状態で留まらせる。

だがそれは、俺がランに縋り付く行為にも似て、ランに更に火を灯した。


「真弓…」


重ねた唇を僅かに離し、互いの濡れた舌先に糸を伝わせながら、ランが俺の名を呼んだ。

呼吸難に陥りつつあり、薄く開いた唇の隙間から舌先を覗かせたままハァハァと忙しない呼吸を繰り返す俺の頬にランが指先を当てた。

ランの片手が俺の頬に当てられ、指先で俺の目尻や唇の端を撫でてゆく。


「好きだ…真弓が大好きだ。
愛してる…。」


ランの体温が上がっているのが分かる。
その熱のせいで俺の身体もしっとりと汗をかいた。


「もっと触れさせて欲しい……真弓。」


顎先を掬う様に持ち上げられ、下唇、顎先とランの唇が当てられる。


「ちょ…ら、ラン………」


ランの顔が俺の左の肩に乗り、鼻先で俺の耳を擽った。
そのままランの唇が、俺の耳たぶを柔く噛む。


「ンンっ…!!!」


変な声を漏らした俺の身体が、ビクビクっと数回に分けて変な震え方をした。

変な身悶え方をしたせいか、着流しが乱れ胸元が大きくはだけていた。

はだけた俺の胸にランが手の平を当てる。

互いの身体なんて何度も見ているし、一緒に風呂も入ったりしたのだから触れられた事だって無かったワケじゃない。

なのになんで……そんな大事な物に触れる様な緊張した様な触れ方するんだよ…

ランの手付きに意識が注がれるが、身体の動きが脱力したかの様に鈍くなっており、ランの手を掴んで止める事が出来ない。 


「止めないの?真弓…」


俺の胸の上に置かれたランの指先が、ツイと俺の胸の尖端を柔く押した。

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