蒼き英雄

雨宮結城

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最終章 The Final

Part11

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〈ユキが絶望の世界に入った時、アスタとスレイヤーは〉

「…!」

アスタがユキの絶望の世界、精神世界へと入り、ユキを救った後、アスタはスレイヤーと戦った。

「…」

現実へと戻ってきたアスタ。

「戦う前だと言うのに、随分と余裕だな、アスタ」

「…戦いは、これからだ」

「ふっ、なら、始めようか」

「…っ!」

アスタはスレイヤーの方へと、向かっていった。

「ハァーア!」

「…ふっ!」

アスタは、スレイヤーに剣を振り、攻撃を仕掛ける。

だが、その攻撃は全て、スレイヤーの剣によって防がれてしまう。

「…」

「どうしたアスタ、その程度か?」

「…まだまだ、これからだ」

「ふんっ、覚醒状態でもないお前が、師匠である私に勝てるとでも思っているのか?」

「…随分と覚醒状態にこだわるんだな」

「覚醒状態ならば、私を倒せる可能性があると言うのに、お前は使う気配がないからな」

「お前の狙いは、覚醒状態になった俺を取り込む事。なら、そう簡単に覚醒状態に入る訳にはいかないだろ」

「ふっ、まあそうだとしても、このまま戦いを続けたとして、果たしてお前に勝ち目はあるかな?」

「…」

アスタは考えていた。どうにかして、覚醒状態にあまり頼らず、スレイヤーを倒すか。スレイヤーを倒すのならば、覚醒状態の力は必須、それはアスタも分かっていた。

だが、それを使えば、スレイヤーの狙い通り、取り込まれてしまう。

なのでアスタは、ある作戦を立てた。

「…フゥー」

「ん?」

「……!」

アスタは移動する一瞬、覚醒状態の力を借りた。そうする事で、アスタは光の速さで移動し、スレイヤーの間合いに入った。

そして、スレイヤーに一撃を入れる瞬間、また覚醒状態の力を一時的に借り、攻撃を仕掛けた。

「ハァア!」

「!」

流石のスレイヤーも、反応が遅れた。

「…」

アスタは、スレイヤーに一撃を入れる事に成功した。だがスレイヤーは。

「……ふふ、ハハハハハ」

「…何がおかしい」

「…なるほど、覚醒の力を一時的に使う事で、私に取り込ませないようにと工夫した訳か」

「だったらなんだ」

「確かにそれなら、私が取り込むのは難しいだろう、だが、一時的では、この攻撃はどうかな!」

「!」

アスタは驚いた。何故ならスレイヤーの迫り来る速さが、アスタが覚醒の力を使っていた時と同じ程のものだったからだ。

あまりの速さに、アスタは反応が遅れた。

「ウッ、くっ」

アスタは、身体に傷を負ってしまう。

「ふふ、一瞬じゃ、この攻撃は避けれまい」

「…」

「さあどうする、このまま、一瞬だけ力を借りて、私に挑むか?」

「……」

アスタは、このままではスレイヤーに勝てないと悟り、覚悟を決めた。

「…」

そう、アスタは白髪に赤い瞳の、覚醒状態へと入った。

「ふふ、やっと入ったか」

「もう、出し惜しみしない。ここからが本番だ!」

アスタは構えた状態から、一瞬にも満たない速さでスレイヤーに迫り、剣を振り下ろした。

「ふっ!」

「っ!」

「んっ、ハァ!」

「っ!ハァ!」

覚醒状態のアスタとスレイヤー、両者共に一歩も譲らぬ戦いを繰り広げた。

「んっ!」

「!」

スレイヤーはアスタを空中へ蹴り飛ばした。

「…」

だが、アスタも空中に足場を創り、その足場を利用し、地上にいるスレイヤーに、思いっきり足場を蹴り、向かっていった。

「ハァア!」

アスタは覚醒の力を剣に込め、思いっきりスレイヤーに向かって振りかざした。

「…!」

その一撃を、スレイヤーは剣で受けた。その結果、スレイヤーがいた場所は、大地が裂け、強風が吹き流れた。

「…ハァ、ハァ、ハァ。これで、どうだ」

「中々やるな」

土煙が起きていた中から姿を現したスレイヤー。

「…!」

アスタはこれでもダメかと思ったが、ある事に気づいた。

それは、スレイヤーの頬に傷ができていたことだ。

「…私に傷をつけるとは、流石覚醒状態と言った所か」

「…(これだけやってあれだけの傷か、いや、プラスに捉えるんだ。覚醒状態の力なら、スレイヤーに勝てる)」

「ふふ、いいわね。やはり戦いと言うのはこうでなくてわな。私も長いこと、これほどの戦いはしてこなかった。だから、準備運動はこれぐらいにしておくか」

「!?(準備運動、あれが全力じゃなかったのか)」

「アスタよ、私をせいぜい楽しませてくれよ」

「(いや、落ち着け、スレイヤーの全力は想像できないが、覚醒状態の俺なら、やれる)」

「ではいくぞ!」

「!ハァア!」

スレイヤーとアスタは、真正面に向かっていった。

〈その頃、ユキとマキは〉

ユキとマキは、ユキが優勢で、剣戟を繰り広げていた。

「…っ!ハァ!」

「っ!ふっ!」

最初の方こそ、マキが圧倒していたが、ユキが覚醒状態へと入ったことで、形勢逆転し、ユキがマキを圧倒していた。

「ハァ!」

「ウッ!」

マキはユキの剣の攻撃を防ぎきれず、吹っ飛ばされる。

「んっ…」

「…」

「…ここまで、力が上がるとは、覚醒状態、恐ろしい力ですね」

「確かに恐ろしいかもね。でも、この力は、正しいことの為に使うべき力、そして、今この瞬間では、君に勝つ為に、この力は必要」

「…私も、覚醒状態の者と戦ったことはありませんが、剣の腕には自信がありました。ですが、覚醒の力の前では、ここまで差があるのですね」

「…マキ、覚醒の力を使ってから、君の魔力反応がブレていたけど、君、やっぱりスレイヤーに洗脳されているんだよね」

「洗脳?とんでもない、スレイヤー様は、私を解き放ってくれた、自由にして頂いた、スレイヤー様のお陰で、私はこの力を使える。そして、今の私の役目は、貴方を…」

「ボクを、殺すの?」

「そ…う、…あれ、私は、一体」

「!?」

ユキは感じた、マキの魔力の中に、何か別の魔力の反応を、ユキはそれが、本来のマキなのではないのかと、推測した。

「…」

ユキは、握っていたユキの愛剣を、ヒナが作りだした、魔力剣へと変えた。

「…私…は、んっ、ん、私は、スレイヤー様の…」

「マキ、今から、君を解放するよ」

ユキは構えた。

そしてマキは、スレイヤーから受けた洗脳が解けかけていた。

「んっ!私は、スレイヤー様のしもべ。貴方を、殺す!」

「…」

ユキだけでなく、マキも構える。

「…」

お互いに集中した。だが、ユキは覚醒の力をコントロールし、抑え、集中できていたが、マキは、洗脳が解けかけている状態の為、ユキ程集中できなかった。

「!」

そんな中、二人は、二人の剣は衝突した。

そして、衝突した時、ユキはマキの声、洗脳される前の、本来のマキの声が聞こえた。

「(助、けて…)」

「!?」

ユキは、マキの剣を上にあげ、魔力剣を、マキの闇の魔力、洗脳の力が最も濃いとされた頸に向かって、剣を振った。

「っ!ハァーーーア!」

「!?ウッ…アーーー!」

「ハァーーア!」

ユキの渾身の一撃に、マキに取り憑いていた闇の力は消し飛び、本来のマキに戻った。

「あ…」

倒れてきたマキを、ユキは受け止めた。

「!?」

「…」

「マキ、ううん、マキちゃん、大丈夫?」

「んっ、うーん」

「!?良かった…」

「あ…貴方は」

「ボクはユキだよ」

「ユキ、さん」

「うん」

ユキは、マキを抱きしめた。

「(あ、暖かい、この感じ、懐かしいな)」

マキは、ユキの暖かい心を感じ、幼い頃の記憶を思い出した。

まだ幼く、剣士になる前、母と父に甘えていたあの頃を。

泣いていた時、いつも母が抱きしめてくれた。

マキの母と父は、城に仕え、城の王、あるいは王女を支える職についていた。

マキが現在、スレイヤーに仕えているように、マキの母と父も、昔は城に仕えていた。

だが、ある出来事を境えに、母と父は亡くなり、マキが現在スレイヤーに仕えている。

だが、両親が亡くなってから、スレイヤーに仕えるまでの記憶は、忘れていた。

「…」

「(あれ、私、いつからだろう、今に至るまでの記憶が思い出せないのは)」

「…マキちゃん、大丈夫?」

ユキは、抱きしめるのを止め、二人共立ち上がった。

「私、一体、いつから」

「…マキちゃ」

「あら」

「!?」

この声に、ユキもマキも驚いた。その声の主が、アスタと戦っていたはずの、スレイヤーだったからだ。

「マキ、貴方、洗脳が解けてしまっているわね」

「あ…スレイヤー、様」

マキは、スレイヤーの圧に、怯えていた。その事に、当然ユキは気づいた。

「(怯えてる)…お前、どうしてここに、アスタと戦っていたはずだ」

「ああ、アスタね。アスタなら、殺したわよ」

「!?」
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