5 / 10
5. グールは繊細
しおりを挟む
自らに向けられた忠犬のごとき眼差しに、これがあの口うるさい剣士と同一人物であることを疑いそうになりさえしたが、クローデンはすぐさまアンデットの修復魔法を使い、ベルサリアの傷を癒した。支配の維持にも魔力を多量に消費しているため、傷を完全に塞ぐのに相当な体力を消費してしまった。
ベッドに横になれば二秒もたたずに意識が落ちてしまいそうなほど困憊していたが、傷の回復具合が気になったクローデンはひざまずくベルサリアの全身を触って少しのかすり傷も残っていないか調べた。
アンデットは死霊術がないと、転んだ際の擦り傷すら生者のように自力で治すことができない。一見無事に見える箇所でさえ、ダメージが積み重なればいずれ致命的な故障につながってしまう。
「あの……べたべた触りすぎじゃなくて?」
「アンデットの身体は繊細なんだ」
「どうなっても知らないわよ……」
少女の忠告を意に介さず、クローデンは服を剥ぎ取り、指が白い素肌に少しだけ沈む強さで撫で、徹底的に傷跡を探した。それは傍から見れば寝込みを襲うクズ男の図だ。少女は事情を理解しているため強くは言わない。強くは言わないが、やはり顔を引きつらせていた。その一方で成熟した女性の身体に圧倒され、憧れのような感情を抱いたが、それを這う男の手つきにそっと心に蓋をした。
「大丈夫か、ベルサリア。どこか痛むところはないか。体に違和感は?」
「…………」
触診と並行してベルサリアに声をかけるが、クローデンに返事はなかった。支配下の命令であるにも関わらずである。
「もう命令に従わなくなってるわよ。ほんと、支配への耐性が強いグールね」
「ああ、じきにまた拒絶反応が現れる。そろそろ支配を解除しようか」
「あっ、今はまずいんじゃ……」
クローデンは術式を解き、支配を中止した。
すさまじい勢いで消費していた魔力が回復し、数日ぶりに食事を口にしたような気分になったクローデンは、両腕を天に掲げ、腹部を隙だらけにして大きく伸びをした。
そのわき腹を、重い一撃が襲った。
今度はクローデンが地面に横たわってうめき声をあげる羽目となった。
「……悪い、あまりべたべたと触れられるのは好きじゃないんだ」
支配下から復帰したベルサリアは裸同然だった。衣服を拾い集めて雑に着直し、謝罪をしたと思えば、それからクローデンの股間を踏みつけようとした。
リッチキングは顔をしかめながら
「その死霊術師は、あなたを苦痛から救おうとしたのよ。多分、下心なく。だから、手加減してあげて、ね?」
「あれだけ触っておいてか? 手の感触が残っているぞ、体中隙間なくだ」
地面でのたうち回るクローデンを咎めることはしなかったが、憐れむこともなかった。
股間の真上に構えられた足が振り下ろされることはなかったが、その間一髪の状況に顔を青くする者たちがいた。
「お前らも、私の裸を見たのか?」
ベルサリアは辺りを見回した。そこでは、兵士の格好をしたグールたちが体を震え上がらせながらクローデンに同情の目を送っていた。リッチキングが支配していたグールたちだ。クローデンと魔力を同期させた際、リッチキングの魔力が足りなくなり、自動的に支配術式が消滅していたのである。
兵士のグールは目を背けて言った。
「見て、ないです……」
「本当か?」
ベルサリアの剣が赤く輝いた。
「すごく、きれいでした……!」
正直なグールは己の運命を悟りながら、最期の役得をかみしめた。
ベルサリアは剣を上段に構えた。
「待った……ベル、サリア」
「なんだ、こいつらも最後にいいものが見られて満足だろう」
「人材……──」
クローデンはそう言い残し、意識を手放した。寝息を立てながら。
「人材、か。まあ、お前が私を救ってくれたのは確かだからな……これで貸し借りはなしだぞ?」
剣を構えたままベルサリアは兵士のグールたちに再び語り掛けた。
「幸運にも二度目を生を受け、幸運にも私の裸体を目にした者ども。お前らに、二度目の死を免れる好機を与えよう」
「な、なんでしょうか。わたくしどもにできることなら、なんでも申し付けください!」
「支配されてないアンデットにしてはえらく従順ね。それで、人材って?」
「この辺りにネクロポリスを創るんだと。その開拓にこいつらを使うんだ」
ベルサリアはクローデンがネクロポリスの建造を計画していることを話した。ネクロポリスは死霊術師が運用するアンデットの都市であり、彼らは生前兵士だったグールなので力仕事の多い開拓者としてはこれ以上ない人材なのだ。
それに加え、ベルサリアは自らの望みである公衆浴場について弁舌を振るった。
「風呂はいいぞ。一日の最後にあたたかな泉に浸かれば、その日の疲れが一気に落ちるんだ。風呂の中では常に無礼講、庶民も皇帝も、等しく一日の垢を洗い流すんだ」
結果として、兵士たちは都市の開拓に快く参加することとなった。
「ぜひとも作りましょう、ネクロポリス! ……それと、公衆浴場も……」
「ああ、死ぬほど働いてもらうぞ、覚悟しておけ。──そのあとの風呂は格別だからな」
兵士たちはよく訓練された兵士らしく揃って「はっ!!」と応えた。
「……ほんとにお風呂に入ることが目的かしら」
死霊術師は地面の上で寝息を立て、リッチキングはため息を吐いているが、ともかく開拓のための人材は確保できたのだった。
ベッドに横になれば二秒もたたずに意識が落ちてしまいそうなほど困憊していたが、傷の回復具合が気になったクローデンはひざまずくベルサリアの全身を触って少しのかすり傷も残っていないか調べた。
アンデットは死霊術がないと、転んだ際の擦り傷すら生者のように自力で治すことができない。一見無事に見える箇所でさえ、ダメージが積み重なればいずれ致命的な故障につながってしまう。
「あの……べたべた触りすぎじゃなくて?」
「アンデットの身体は繊細なんだ」
「どうなっても知らないわよ……」
少女の忠告を意に介さず、クローデンは服を剥ぎ取り、指が白い素肌に少しだけ沈む強さで撫で、徹底的に傷跡を探した。それは傍から見れば寝込みを襲うクズ男の図だ。少女は事情を理解しているため強くは言わない。強くは言わないが、やはり顔を引きつらせていた。その一方で成熟した女性の身体に圧倒され、憧れのような感情を抱いたが、それを這う男の手つきにそっと心に蓋をした。
「大丈夫か、ベルサリア。どこか痛むところはないか。体に違和感は?」
「…………」
触診と並行してベルサリアに声をかけるが、クローデンに返事はなかった。支配下の命令であるにも関わらずである。
「もう命令に従わなくなってるわよ。ほんと、支配への耐性が強いグールね」
「ああ、じきにまた拒絶反応が現れる。そろそろ支配を解除しようか」
「あっ、今はまずいんじゃ……」
クローデンは術式を解き、支配を中止した。
すさまじい勢いで消費していた魔力が回復し、数日ぶりに食事を口にしたような気分になったクローデンは、両腕を天に掲げ、腹部を隙だらけにして大きく伸びをした。
そのわき腹を、重い一撃が襲った。
今度はクローデンが地面に横たわってうめき声をあげる羽目となった。
「……悪い、あまりべたべたと触れられるのは好きじゃないんだ」
支配下から復帰したベルサリアは裸同然だった。衣服を拾い集めて雑に着直し、謝罪をしたと思えば、それからクローデンの股間を踏みつけようとした。
リッチキングは顔をしかめながら
「その死霊術師は、あなたを苦痛から救おうとしたのよ。多分、下心なく。だから、手加減してあげて、ね?」
「あれだけ触っておいてか? 手の感触が残っているぞ、体中隙間なくだ」
地面でのたうち回るクローデンを咎めることはしなかったが、憐れむこともなかった。
股間の真上に構えられた足が振り下ろされることはなかったが、その間一髪の状況に顔を青くする者たちがいた。
「お前らも、私の裸を見たのか?」
ベルサリアは辺りを見回した。そこでは、兵士の格好をしたグールたちが体を震え上がらせながらクローデンに同情の目を送っていた。リッチキングが支配していたグールたちだ。クローデンと魔力を同期させた際、リッチキングの魔力が足りなくなり、自動的に支配術式が消滅していたのである。
兵士のグールは目を背けて言った。
「見て、ないです……」
「本当か?」
ベルサリアの剣が赤く輝いた。
「すごく、きれいでした……!」
正直なグールは己の運命を悟りながら、最期の役得をかみしめた。
ベルサリアは剣を上段に構えた。
「待った……ベル、サリア」
「なんだ、こいつらも最後にいいものが見られて満足だろう」
「人材……──」
クローデンはそう言い残し、意識を手放した。寝息を立てながら。
「人材、か。まあ、お前が私を救ってくれたのは確かだからな……これで貸し借りはなしだぞ?」
剣を構えたままベルサリアは兵士のグールたちに再び語り掛けた。
「幸運にも二度目を生を受け、幸運にも私の裸体を目にした者ども。お前らに、二度目の死を免れる好機を与えよう」
「な、なんでしょうか。わたくしどもにできることなら、なんでも申し付けください!」
「支配されてないアンデットにしてはえらく従順ね。それで、人材って?」
「この辺りにネクロポリスを創るんだと。その開拓にこいつらを使うんだ」
ベルサリアはクローデンがネクロポリスの建造を計画していることを話した。ネクロポリスは死霊術師が運用するアンデットの都市であり、彼らは生前兵士だったグールなので力仕事の多い開拓者としてはこれ以上ない人材なのだ。
それに加え、ベルサリアは自らの望みである公衆浴場について弁舌を振るった。
「風呂はいいぞ。一日の最後にあたたかな泉に浸かれば、その日の疲れが一気に落ちるんだ。風呂の中では常に無礼講、庶民も皇帝も、等しく一日の垢を洗い流すんだ」
結果として、兵士たちは都市の開拓に快く参加することとなった。
「ぜひとも作りましょう、ネクロポリス! ……それと、公衆浴場も……」
「ああ、死ぬほど働いてもらうぞ、覚悟しておけ。──そのあとの風呂は格別だからな」
兵士たちはよく訓練された兵士らしく揃って「はっ!!」と応えた。
「……ほんとにお風呂に入ることが目的かしら」
死霊術師は地面の上で寝息を立て、リッチキングはため息を吐いているが、ともかく開拓のための人材は確保できたのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
先生「は~い、それじゃあ皆さん、パーティー組んで~。」
赤べこフルボッコ
ファンタジー
幼い頃から勇者に憧れ、早二十代。いつしかそんな夢を忘れ、ひたすらに仕事に精を出す。そんな毎日を送っていると、体調不良で営業先で大失敗☆会社をクビになり、追い詰められてしまう。人生お先真っ暗、明日自殺をしようと心に決め、布団に入り眠りに落ちる。その時見た夢の中で俺は・・・女神に出会うのであった。
※基本読み辛いので後々修正していくと思います!!御了承!!
感想を頂けると泣いて喜びます。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる