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お着替えと可愛い子

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ミホ姉達分かれて、暫くまた大自然の中を進む

「お馬さん初めてだけど、何か良いね、ハクタカゴウ」
「ほっほ、白鷹よ、アカネが褒めてるのぅ」

心地よい『カッポコ』音(蹄の音)と揺れ。殿がハクタカゴウの背中を撫でてあげる。と、わたしの褒め言葉が聞こえたように、鼻を鳴らしてくれる、ハクタカゴウ

「さて、見えてきたのう」

殿の言うとおり、街の門が見えてくる。門番さんが、わたし達の姿を認め、立ちふさがろうとして

「お手間様じゃの~ぅ」

殿の声に恐れおののく。やって来たのが、殿だとは思ってなかったみたい。開けはなたれる門、入った先は広い庭。黒い紋付きや着流しを着た人たちが駆けてくる。その中に一人、薄紫の紋付きを着た、綺麗な女の人がいる。セミロングの髪、力強い瞳と眉、上向きのまつげ、厚めの唇が特徴の美人さん。そのお姉さんが、まずわたし達に近付いて来る。ああ、殿に近付いて来るのか

「上様っ、よくお越し下さいやした」

殿に頭を下げる

「お勤めお手間様じゃの、御命(みめい)大江戸城下の警護、ありがとうの」

言いながら、ハクタカゴウを降りる、殿。そして

「降りられるかの、アカネ」

手を貸してくれる。あ、そうか、お馬さんの降り方、解んない。でも、どうにか降りようとして

「わぅっ」
「おっとアカネ、やはり痩せすぎじゃ、軽いのぅ。大事はないかの」

上手くいかず、落ちる。殿に抱き留められる。殿の上に降るのは二度目だ。至近距離で、空色の、綺麗な瞳に射抜かれる。わたしの心臓が跳ねる

「どうしたかの、アカネ。どこか打ったかの」
「あっ、だ、大丈夫」

殿に見とれていたトカ、そんなこと言えるわけ無い。話しかけられて、頬が熱くなる。あわてて誤魔化して、大丈夫宣言。地面に降ろしてくれる、殿

「して、上様、本日はどのようなご用で。ああ、その前にお召し替えを。泥まみれじゃありゃあせんか」

殿の格好を見て、眉をひそめる、ミメイさん

「ああ、本日はの、御命、アカネ殿を紹介したくての。かまわんの、このままで。これから、街も案内(あない)する故、のぅ」
「いや、さすがに示しがつきやせんから。今、仕立屋の愛衣に着替えを持ってこさせやすんで。おい、誰か、車で向かえに行けっ」

見ている若者に、指示を飛ばす、ミメイさん

「うむ、そうかの。ならばの、アカネ殿の寸法も測って貰おうかの。申し訳無いが、そのように伝えてもらえるかの」

殿もう一つ用事を頼む。その命で、駆け出していく若者。スンポウ、何か計られるのかな。けどココ、若い人が多いな

「して、上様。この娘さんは、どちら様で」
「うむ、御命、皆にも紹介するの。此方(こなた)はアカネ殿『越後の雄』が娘、凛々好と美穂の妹じゃの」

わたしの肩に手を当てて、紹介してくれる

「よくお越し下さいやしたっ。お前等、頭がたけぇっ」

エチゴノyouが娘、訊いた瞬間に跪く(ひざまずく)ミメイとよばれるお姉さん。ひれ伏す、男の人たち『控えおろう』な状態。そんなことをしてもらう身分ではないのに。なんだか後ろめたい気持ちに

「~あ、の」
「堂々と、の」

やや気が引けて慌てそうになる、わたし。殿、あくまでも堂々としているように、力強く、肩にてを置いてくれる。ここで何か言っても、事態が良くなることはない。黙り込むことを決める、わたし

「さて、番所のなかで話そうかの。アカネ殿が遣わされた用件もあるからのう。御命、申し訳無いんだがの、人払いをお願いの」
「了解さ、上様。よ~し、お前等、少し外してろ」

番所のなかに通される。どっかり座る、御命さん。殿、大太刀を抜いて、優雅に腰を下ろす。わたしは殿の横に腰を下ろす。これでも、やや遠慮したつもりで。だってわたしなんて、殿のオマケにすぎない。お茶が運ばれてきて、そのお茶汲みさんも下がった後

「これでヨシっと」

スイッチを押す、女の人。自動ドアから、乾いた音がした。どうやら鍵を掛けた様子だ

「さて如何話したものかの」

殿、わたしの事をどう話すか、考えている様子。アゴに拳を当て、思案する

「上様、どうかいたしやしたか」

『何かオカシイ』と言った顔で尋ねる、ミメイさん。そうなると思う。さっきわたしは『エチゴノYOU』が末娘と紹介されているから。わたしが『オツカイ』で来たなら、その用件を伝えれば良いだけ。考え込むような話しじゃないと思う

「遭ったままを話すしかないの。他に小細工など、してみようがない話しじゃからの」
「―、上様、一体何のことですかい。あったこと、小細工」

難しい顔で、殿が決断を下す。ミメイさん、より一層『解らない』という顔になる

「実はの、御命。先ほどの話は方便じゃ。アカネはのぅ、遙か昔の時より参ったようなのじゃ。昨晩ワシの上に降って参った、の」
「上様、そいつぁどういうことですか。時を超える―」

声を潜め、わたしのことを話し始める殿。ミメイさん、怪訝そうに眉を上げる

「ワシにも、皆目わからん。がの、清徒のお墨付きじゃ。時を超えてきた、他に考えられんのじゃ。これから街に出て、呼密に占って貰えば、何や解るかもしれんのう」

唸るように話す、殿。何かを思案もしている様子

「先生さんが。それならもう、あっしの考えは及びませんや。事実、上様の上に降ったんでしょう、アカネお嬢は」
「ぅむ、紛れもない事実じゃ。昨晩の事じゃ、ワシの元に降って参ったのは」

頭を振る、ミメイさん。右袂に手を入れて、肘当てに肘を付く。殿、眼差しは真剣なまま、わたしを見てくる

「兎にも角にも、上様が直々に連れおいでになる。上様『迎える』気でありやしょう。放っとくような、上様じゃありますまい」
「うむ、それ故に、そなたの元にも連れて参った、の」

力強い笑顔になる、ミメイさん。一度わたしを見た後、殿に向き直る。殿、優しい笑顔になって、会話する

「ならもう、言うこともありゃせん。あっしも気持ちよく受け入れるってもんでさぁ。アカネお嬢、よろしくな。岡っ引きの頭をやってる、御命ってもんだ」

にやっと笑い、片手が差し出される。いかにも豪快そうなお姉さん。わたし、ほっとして両手を差し出す。会話の中身からして、わたしの正体はバレてる。でも、ミメイさんは『よろしく』と言ってくれたから

「アカネです。よろしくお願いします、ミメイさん」

挨拶する。ミメイさん、がっしり握手してくれる。やや手が痛い

「アカネ、御命は海鳴渡と夫婦(めおと)での。二人共、この大江戸には欠かない、大切なワシの友じゃの」
「わ、そうだったんだ」

お茶を飲みながら、殿。わたし、今朝もごはんを頂いた、料理長さんを思い出す

「なんだ、アカネお嬢、もう海鳴渡に会ったのか。アイツの作る飯は、ナカナカってもんなんだ」
「はい。朝も昼も、美味しいご飯、いただきました。とっても美味しかったです」

にやっと笑う、御命さん。わたし、ごはんを頂いたことを明かす

「それなら上様、海鳴渡も勘付いてまさぁね」
「おそらく、の」

ミメイさん、殿。なんだろう、信頼で結ばれてる会話だと感じた

「これからワシも街に赴いて、アカネを紹介するがの。御命、そなたも触れを出してもらえんかの『越後の末娘来る(すえむすめきたる)』とのう」
「了解、承知の助よ、上様。お任せあれでさぁ」

殿は本当に、わたしを『越後の娘』で紹介してくれるらしい。真剣な顔つきで、お願い事をする、殿。ミメイさん、影響力大きそう。だってココで、殿の次にエライ人っぽかった。あと『オフレ』って、なんか時代劇とかだと影響大だよね。そういえばミメイさん、岡っ引きの頭って言ってたな。じゃあ『ソウサイチカチョウ』みたいじゃない

「そうじゃの、御命。明日、アカネを迎え入れる宴を催すのじゃが、そなたも参加してほしいのぅ」
「光栄でさぁ上様、喜んで。大樽で酒持ってきますよ。ってこたぁ、海鳴渡がオマケで付いてきますぁね。場所はどこですか」

雰囲気が、イキナリ柔らかくなる、殿。ミメイさんも笑顔になる

「天歌屋を貸りきらせて貰おうと思うておる。その場での、アカネのことは、ワシが話すからの。今日のところは内密に、の」
「了解、上様」

テンカ屋は、お店の名前だろう。お茶を一口、殿。了解で、膝を叩く、ミメイさん

「御命たま~、愛衣だよ~。美郷のとのさんのお召し物持ってきたよ~ぅ。女の子のお着物も、用意して来たよ~」

話していると、扉の外から可愛らしい声が聞こえる。声を聞いただけで、絶対可愛い人だ

「お、早いな、入ってくれえ」

ミメイさん、リモコンを操作。開いた自動ドアの向こうに立っていたのは、華やかな着物を身に纏う女の子。小さくて、声に見合う、可愛らしい子

「失礼~しま~す、御命たま~」
「すまねぇな、呼び立ててよ」
「なんともないよぅ。車でお迎えありがと~ぅ」

ミメイさん、呼び出したことを、お詫びしてる。緊急の呼び出しだもんね。女の子、身体を揺らして、楽しそう

「愛衣、お手間様だったの。本日も華やかじゃのぅ」
「ぅゅ~、ありがと~、と~のさ~ん」

籠を手に歩いてくる女の子、殿に褒められて嬉しそう。身体をゆらした反動で、頭のかんざしが揺れ、奏でる音が心地よい。下がりめの眉に、大きくて優しい、色違いの瞳。右目が赤、左目が桃色、雪兎のよう。透き通るように色白の綺麗な肌。長い髪は、ふわっふわの天然パーマ。もしかして、パーマかけてるの、って思っちゃう感じ。でも、あるのかな、パーマって

「そ~れで美郷のとのさん、今日はどんな御用事なの~ぅ」
「こちらのアカネ殿にの、着物を拵えてほしくての。普段着、公用着含め何着かの」

言われて、わたしを見る女の子。その目が輝いた

「はじめましてだね~、アカネたん。わぁ~かわいいよ~う」

と、思った瞬間抱きしめられ、ほおずりされる。あ、甘くて良い香りがする。思いがけない行動に出られて、処理が追いつかない

「これこれ、愛衣。アカネが愛らしいのはわかるがの。困っておる様子じゃの、解放してあげようの。そなたまで、泥まみれになってはイカンのぅ」
「は~い、とのさ~ん。ごめんねぇ、アカネた~ん」

殿の言葉で解放される。アイさんの行動『愛らしい』という殿の言葉。加速度的に照れくささが上がってゆく、わたし

「ところで美郷のとのさん、アカネたんは、誰様なのぅ」

小首を傾げて、アイさん、仕草が可愛い。わたしがドコの誰か、尋ねるアイさん

「またいずれ詳しくは話すがの、凛々好の妹じゃ、アカネは」
「ゎぅ、アカネたま、ごめんね、変な事しちゃって」

殿、わたしのウソ紹介。慌てるアイさん

「これよりワシ等の家族に『迎える』ゆえの。まずは着られるものを仕立てて欲しいんじゃ、の」

殿、何故か真剣な眼差しで、アイさんに告げる。アイさん『ムカエル』の言葉で、何だろう。目を何度かパチパチ、二三度、頷く

「ぅん、ゎかった、とのさん。じゃあ、アカネたんの型紙作るね。あ、こちらがとのさんのお召し物だよぅ」

別の籠を取り出す、アイさん。あ、呼び方がアカネたんにもどった。でも『アカネたん』の方がいいな

「ありがとうの。では、その間に着替えてくるかの」
「なら、上様はこちらへ」

言って立ち上がり、部屋を出る、殿とミメイさん。二人が居なくなった瞬間に

「じゃ~、アカネたん、お着物ぬぎぬぎ~」
「わぅ」

促される、というか脱がされる。わたしより小柄な、愛衣さんに。だ、大丈夫なのだろうかわたし。下着だけにされる。あきらかに楽しんでいるアイさん。目が燦々(さんさん)と輝いている。ナニカされないか不安になる。ただ幸い、それ以上変なことはされず、着々と採寸がされてゆく。と、思った

「変わった下着だよぅ」

言われて気付く。そういえば美穂さんは、ふんどしを締めていた。となると大江戸では全員そうなのかな

「あの、え~っと、コレはね―」

言い訳を考えていると、後ろから抱きしめられた。柔らかい、じゃなくってっ。やっぱり、ナニカされてしまうの

「痩せてるね、アカネたん。殿さんが、ゎたしたちに紹介してくれる。アカネたんも何かあったんだね。でもね、アカネたん、めげちゃダメ。生きようね。ゎたしたちと。美郷のとのさんと」

涙声のアイさん。アイさんのハナが背中に当たって、吐息を感じる。今、アカネたん『も』と、アイさんは言った。と言うことは

「うん。殿にもいわれたよ、アイさん。~アイさんも、何かがあったの」

柔らかく抱かれる。わたしよりも小柄な、アイさんに。背中にアイさんを感じながら、気になったので訊いてみる

「そ~。おとたんがお酒飲み飲みだったの。かあたんは、働き過ぎで亡くなっちゃった。おとたん、ゎたしにも働けってぇ。げんこつが恐くて逃げ出して、迷子になってたの。そしたらね、全国行脚してた、美郷のとのさんが助けてくれの」

『大酒飲みク○オヤジのせいで、お母さんが亡くなった。暴力を振るわれるのが怖くて逃げた』そうとしか聞こえない。そして殿に助けてもらった。この明るくて、優しげで、気立て良さそうなアイさん。背負っていたのはそんな過去

「お裁縫ができるって言ったら『見せて欲しいのって』ゎたしね、殿さんの紋付き袴、作ったの。そしたらね『お見事じゃの』って褒めてくれたの。でね、でね、お城専属の縫い士にもしてくれたの~ぅ」

話の途中、わたしの前に回って、笑顔で見上げてくる、アイさん。間近で見ると、より一層かわいらしい

「かあたんから教わったの、お裁縫。それね、殿さんに言ったら『そなたの中に、母上が生きておる証じゃの』って。嬉しかったな~。かあたんとゎたし、一緒に生きてるんだ~って思ぇて。お店も出させてくれたんだ、とのさん」

採寸にもどる、アイさん。わたし、アイさんの半生を知って、押しだまる。結構、なんてものじゃなく、壮絶だと思った

「アカネたんが、どんな訳ありか、今は聞かないよぅ。きっと、とのさんが教えてくれるから。さて、おしま~い。じゃ、アカネたんもお着替えおきがえ」

取り出される一式。あれだけの事があっても、こんな笑顔ができるアイさん

「アイさん」
「ゅ」

気になった。なんでそんなに楽しげにできるのか

「つらくない、の。どうして、そんなに楽しそうなの」

キョトン、とした後『ぅゅぅゅ』言って、考えて。また弾ける笑顔で、わたしに告げた

「大江戸は楽しいよぅ。みんな優しいよ、毎日楽しいよ。ココはね、美郷の殿さんが作った、みんなの街なの。アカネたんも、きっと楽しくなるとおもうよ~ぅ」

優しくて、楽しい、殿が作ったみんなの街。それが、アイさん答えだった

「さ、アカネたん、お着替えだよ~ぅ」

また楽しげなかわいい口調で、わたしに着物を当ててくれる、アイさん。着付けは全て、アイさんがしてくれた

「ふんどししてみよ~ぅ」
「ごめんなさい、それはまた今度」

その日、ふんどしは締めなかったけど
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