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7章 普通の勇者とハーレム勇者

過去話 〜孝志と穂花〜

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「──こんにちわっ!松本先輩っ!」

「んあ?──橘さんか。こんにちわ」

「はいっ!それでは失礼しますっ!」

「あ……うん」

挨拶だけ交わすと少女は走り去って行く。
信号待ちをしていた所、急に背後から話しかけられたので間抜けな声を上げてしまったが、それに対する弁明の時間すら与えて貰えない。


「これで何日連続……?まぁ良いけど」

既に日課と化した橘穂花さんとの挨拶。
彼女とは一日の何処かでこの様に出会しており、こうして向こうから話し掛けて来る。

妹の弘子が彼女を家に連れて来てから数週間が経つ。
その時は忘れていたが、彼女はクラスのヤンキー女に絡まれていたのを助けた少女だったらしい。
あのとき助けた子が妹の友人になるなんて……偶然とは凄いものだな。


「でも、やっぱり年上は苦手なんだろうか?いつも一言だけ話して居なくなっちゃうけど」

本当はもっと話したいが会話が続く事はない。いつも橘さんが挨拶の後に走り去ってしまうからだ。
でもヤンキー女共に絡まれていた時、かなり怯えていた様子だったから、ああして逃げてしまう以上は無理に話し掛ける訳にもいかないしなぁ。

恐らく、橘さんは歳上が苦手なんだと思う。
それでも無理に話し掛けて来るのは、きっと俺が弘子の兄だからなのと、あのとき助けた恩を感じてるからだろう。

最初心配したのが、俺が橘さんのストーカーをしてると勘違いされてしまうケースだったけど、背後から駆け寄って来る場面が多いので、その心配は大丈夫だと信じたい。


「……もう見えなくなった」

走り去った橘さんが、住宅街の角を曲がって見えなくなるまでその後ろ姿を見続けていた。

ガラの悪い女と歳下の女が苦手だ……どうも話し辛いと感じてしまうからだ。

でも何故だろう?
苦手な年下女の子だと言うのに、彼女の事を気になり始めている。
橘さんは頻繁に家へ遊びに来るんだけど、年相応の煩さがなく物静かで可愛らしい……凄く良い子。
騒がしい女が苦手なので、これまで弘子が家に連れて来る中坊共に良い感情を抱いて無かったが橘穂花さんだけは別だ。
彼女が家に来たり、俺が帰って来たとき家に居たりすると嬉しい気持ちになる。

PCゲームをするのに使ってるパソコンがリビングに在るのと、何故か弘子と橘さんがリビングで話をしてるのが多いので、どうしても顔を合わせる時間が長くなってしまう。
それはつまり、プライベートな空間に家族以外の女の子が居る状況……なのに全く苦にならない。

何と言うか……橘さんは観てて癒される存在だ。
あの子から挨拶されるのが──今では1日の楽しみになっていた。
うん、自分でも驚く位に橘穂花さんの事が気に入ってる……女っ気の一才無かった日常に花が咲くような感じかな?

是非仲良くなりたいと思う。
でも怖がらせちゃダメだからコッチから話し掛ける事は出来ない……本当に奇妙な関係だ。


────────


次の日の放課後。
俺はそれとなく友人の碓井に、橘穂花さんとの関係性について話してみた。


「──てな感じで、毎日その女の子に話し掛けられる訳よ。偶然も此処まで続くと面白いよな?今日も廊下で挨拶を交わしたし」

「…………」

なんだぁ?
顎に手を当てて小馬鹿にした感じで見て来るぞ?碓井の分際で殺しちゃうよ?


「偶然というか孝志……それってお前に惚れてんじゃないのか?」

「はあぁぁ?」

「なんだよ、その馬鹿にし過ぎた溜息」

「いやいやいや、モテない男の勘違いが実に哀れだと思ってよ」

「なんだと!?まさか本当に馬鹿にし過ぎた溜息だったのか!?」

「当たり前だろ?──それにいいか?あの子は弘子の友達なんだぞ?だから話し掛けて来るんだよ。変な勘違いなんかしてコッチから話掛けてみろよ……弘子に一生ネタにされるぞ?」

「いや……うん、もはや何も言うまい」

なんだぁ?
腕を広げて小馬鹿にした感じで首を振ってるぞ?碓井の分際で殺しちゃうよ?校舎の裏に埋めちゃうぞ?


「碓井よ。どうしてお前がモテないのか解った気がするわ……そんなんだからだよっ!!」

「こ、このやろう……!」


そのとき俺のカバンから着信音が鳴り響いた。取り出して相手を確認すると母さんからの電話だった。
例え相手が碓井でも会話中だったし、一言断ってから電話に出るとするか。


「母さんからの電話だ、出てもいいか?」

「お前って変なところで礼儀正しいよな。しかも母親とも仲良いし……友達の雄治も見習って欲しいもんだぜっ!このマザコンやろうっ!はははっ!」

なにコイツ全力で煽って来てるの?碓井の分際で殺しちゃうよ?校舎の裏に埋めちゃうぞ?……いやもう普通に死ね。


「もしもし母さん……うん分かった。じゃあ帰りに買って来るから……じゃ──」

いや待てよ?
このまま普通の感じで電話を切ったら、碓井の中でマザコンのレッテルを貼られてしまい兼ねない。
そう思われた所で特に害はないけど、そんなのは俺のプライドが絶対に許さない……反抗期な息子を演じてやるぜっ!


「──って、やっぱりめんどくせぇわっ!自分で買いに行けよババアッ!…………………あ、はい…………はい、すいませんでした………友達と一緒でつい気が大きくなってました……すんません」

(うわぁ……めっちゃ怒られてるし……孝志って、まともそうに見えて実は物凄いアホだよな)

「はい………いやでも、本当は言いたくなかったんです。でも、その友達にババアと言えって無理やり言わされました」

(え……?もしかして俺に罪をなすり付けようとしてるのか!?最低だぞコイツッ!!)

「──あ、はい、そうです……嘘です」

(あっさり見破られてるし)

「流石はお母さま!素晴らしい洞察力をお持ちで!」

(今度はおだて作戦かよ。いろいろやるなコイツ)

「………え!?そ、それだけは勘弁をっ!一緒に寝るのだけは勘弁して下さいっ!」

(…………え?)

この瞬間、碓井の中でマザコン疑惑が浮上した。

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