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7章 普通の勇者とハーレム勇者

自業自得

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「──なるほどのう……妾の兄さまが、お主の身体に憑依しとるワケか」

孝志は自身とアダムの因果関係をフェイルノートに説明した。実際どうかは分からないが孝志にとっては悪霊に取り憑かれた様なものである。
故にこの場では侮蔑の念を込めて憑依と表現した。


「そうなんすわ。橘といい、アダムといい、お兄さんキャラって屑しか居ないのかね?」

「いやお主にも妹がおるじゃろう」

「なんで知ってるの?キモッ」

「穂花に聞いたんじゃ」

「あー穂花ちゃんか、ならしょうがない」

「穂花にとことん甘い奴じゃな──それから……そのぉ~キモいとかそんな酷いこと……あんまり言わないでくれるかのう?普通に傷付くし」

「うそ可愛い可愛い」

「ば、馬鹿者っ!兄さまの顔で何を言うてるのじゃ!て、照れるではないかっ!」

「いや嘘に決まってるだろ?可愛いなんてこれっぽっちも思ってねーよ」

「……舐めとんのかワレ」

「ごめんごめん」

「ごめんで済まそうとしてからに……」

「え?それだけ?怒らないの?」

「別に、そう激昂することでもあるまい」

失礼な発言にも敵意を見せない。
心が広すぎて逆にヤバいと孝志は思う……今のは間違いなく自分が悪い癖に……


「似てるだけと思っとったが、まさか本当に兄さまが関係してたとは……でも性格が……はぁ~~~」

「…………」

そう言って溜息を漏らすフェイルノート。
逆に心の狭い孝志は今の発言を聞いて、いつか殺すと心に誓った。


「と言うか、そんな風に照れる割には初対面で殺そうとして来たよな?」

「──何を言うとるか、その顔で無ければ躊躇なく殺しとったわ!……ぶっちゃけてしまうとだいぶ見逃してたぞ?殺す気ならオーティスが来る前に終わらせとったわ!」

「はん!だせぇ負け惜しみだぜ!」

「……あまり調子に乗ると痛い目に遭わすぞ?」

「おっと?良いのかそんな事して?兄さま顔だぞ?」

「……妾、今ね?頑張って殺意抑えてるのじゃよ?」

「え?マジか?」

敵意を飛び越えて殺意を抱くタイプだったのか……もう怖いから黙ってよう。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………(急に黙ってどうしたのじゃ?)」

「…………」

「……なぁ」

「……ん?俺を殺すのかい?」

「阿保か」

「阿保違うし」

「その……兄さま……元気か?」

「まぁ、元気というか迷惑」

「……そうか。妾のこと何か言うとったか?」

「いや、そこまで話さないからなぁ、嫌いだし」

「……うん、兄さまはいつも嫌われておる」

「だろうな」

「ほんとに、どうしようもない兄さまなんじゃ」

「アイツはなんで嫌われるのか自覚した方がいい」

「……うむ」

随分長いこと話してしまったな。
でもお陰で殺されかけた恨みがだいぶ薄くなった。俺も割と単純だなぁ。


「そういや、アダムは人間なのにフェイルノートはどうして吸血鬼なんだ?」

「兄さまがかつて倒した悪党の仲間に、報復として拷問された挙句殺されたのじゃ。そして体内に吸血鬼の血を流し込まれて無理やりに生き帰らされた……そして繰り返し何度も……という感じじゃな」

「……そうか」

聞くんじゃなかった。
こんな話を聞いたら嫌でも同情してしまう。
アイツは敵である魔族を滅ぼすと言っていた……恐らくそれは、敵側に生き残りが居れば同じ連鎖を繰り返すと思ってるんだろう。

俺も大切な人達が悪党に報復で、それも酷い殺され方をされたらどうするか?
きっと許さないと思う……敵も……それに巻き込んだ自分も。



「──うっそぴょ~んっ!!本当は間違って吸血鬼の血を飲んだだけっ!わははははっ!」

「………………」

「こわっ!?そんな睨まないで!!可愛い冗談ではないか!?ねぇちょっと!!」

「うるせぇっ!!言っていい嘘ってもんがあんなだろ!!もうめっちゃ感傷に浸っちまったじゃねーかよ!!心の中で『それに巻き込んだ自分も許せない』みたいなこと思ったよ!もう超恥ずかしい!」

「うわぁそれは超ハズイのぉ……」

「もういい!馬車に戻るっ!ユリウスさんにでも斬られてしまえっ!!」

「わ、悪かったわ!どうか機嫌を直して欲しいのじゃっ!な?この通りじゃ……な?」

「……はんっ!」

孝志はフェイルノートを置いてブローノ達の元へ戻ろうと歩き出した──




「【バインド】」

「……ん?」

「危ないっ!」

……だが次の瞬間、何処からか孝志へ向けて魔法が放たれた──!!
まるで獲物を捕らえるのが目的で有るかのように、魔力で構成された魔法の【網】は、孝志に覆い被さろうとしていた。

かなりのスピードで迫り来るそれは、一時的に【全知全能】を奪われた孝志では到底対処出来ない。殺意の篭ってない魔法だけに危険予知すら発動しなかった。

このままでは捕まる──しかし、その魔力網はフェイルノートの爪によって切り裂かれ消滅した。




「……なるほど……あの時の白の姫君か……まさか孝志と組むとは……人生とは奇妙なものだ……」

程なくして奥の岩陰から一人の人物が姿を現した。
それは黒いローブを羽織り、手には神々しい光を放つロッドが握られている。

そのロットこそ魔神具ロード・オブ・パラディン。
所持者はオーティス・アルカナ。
孝志が信頼する三大戦力の賢者である。


「ほぉ?洞窟で戦った悪魔か。いずれリベンジを誓っていたが……まさか、こんなにも早く再戦の機会に恵まれるとはな」

そしてもう一人。
更に奥からは赤い髪の美しい女性が姿を見せる。


「あ、やべやべやべ……!」

その姿を見て孝志は絶望した。
だってアリアンだったから。

この時の孝志はもう人生終わったと思っていた。
ただアリアンは不機嫌そうにオーティスの睨む。


「おい、オーティス……なんだ今の魔法は?」

「バインドだが……アリアン嬢どうした?」

「あんなのが当たって孝志が怪我したらどうする?」

「いや大丈夫だろう……初級拘束魔法であるぞ?」

「万が一の可能性がある。もう孝志の相手は私に任せろ」

「わかった──しかし、訓練でケガさせてるのはアリアン嬢なのでは……?」

「それはそれ、これはこれ」

「……酷いな……いつにもマシて」


この場にはアリアンとオーティスの二人だけで、他の者達は一緒ではない。
本来なら待ち伏せで囲い込むつもりだったが、何故かユリウスの気配が消えたので、それを機に仕掛ける事にしたのだ。

つまりはアリアンとオーティスが仕掛けて来たのは孝志の嫌がらせが原因……ユリウスを陥れたツケをこんな形で支払うことになった訳である。
加えて自身の戦う手段となるアルマスも居なくなったのでかなり危機的状況だ。アルマスのスキルが使えない孝志が加わっても戦力にはなり得ない。

また、邪竜フローラとアルマス2がアレクセイ達の足止めを行なっている為そちらからの援軍も望めず、フェイルノートが一人で、あのアリアンとオーティスを同時で相手にしなくてはならない。
そうなると、封印から目覚めたばかりで力を完全に取り戻してない今のフェイルノートでは厳しい。

無論、一体一なら例え不完全でも負ける事はない。
魔法使いのオーティスが相手だと、弘子の城のように魔力が充満した場所だと苦戦するが、屋外だと魔法の質や連射速度が落ちるので対処出来る。
同じ接近戦タイプのアリアンなら神化さえ気を付ければ問題にはならない……力推しで圧倒出来る。

ただし、二人を同時に相手取るとなれば話は180度変わってくる。
王国で二番目に強い戦士アリアンと、魔法という分野において王国1の実力を誇るオーティス。そんな二人が連携をとってしまえば勝ちの芽は薄いだろう。


「孝志よ、ユリウスを遠くにやったこと恨むぞ?」

「マジごめ──ッ!!前!!」

「ライトニングボルトッ!」

フェイルノートがよそ見した隙を付いてオーティスが雷撃を放つ。
中級魔法による詠唱破棄……いくらオーティス程の使い手が放つ魔法と言えど、この程度の魔法の詠唱破棄なら直撃しても大したダメージにはならない。


「────ッ!?」

しかし、それをフェイルノートは必死で躱す。
ロード・オブ・パラディンの効果で威力が大幅に上昇しているのだ。直撃だと只では済まない。


「はぁっ!!」

「ぐっ!」

そして躱した着地点にアリアンが待ち構えており、フェイルノート目掛けて剣を振り下ろす。
身体を硬化する時間がなく、そのまま腕を斬り付けられてしまった。 

それは実に見事なコンビネーションで、やはり生半可な相手ではないとフェイルノートは確信する。


「いったいのぉ~……」

フェイルノートの腕からは血が滴り落ちている。
勇者以外から受ける傷は直ぐに癒えるものの、痛みは確かに感じる。フェイルノートは斬られた箇所を摩りながら、自身を斬ったアリアンにある事を尋ねた。


「……ふん、妾にリベンジすると言っていたなアリアン。だが良いのか?一対一じゃないぞ?」

「なに、リベンジとは勝つことだ。戦いに卑怯なんて言葉はない……勝利か敗北かの二者択一」

「……アリアン嬢!!」

「ん?どうしたオーティス?」

「今のセリフ……なかなか良かったぞ──今度使っても良いか?!」

「オーティス!!ふざけてる場合かッ!?」

「ぐぬぅ……余裕があるのうこやつら」


──そして三人の戦闘が幕を開けた。



──────────


「ほんとに凄いな、あの人たち」

目の前で最強同士の互角の打ち合いが始まり、孝志はその光景を見守っている。

すると、とある人物が孝志の元を訪れた。


「やぁ」

「……!?ウゲッ!」

「──松本……まさか敵対することになるとはね」



その男は孝志の前に立ちはだかり、そして──




「──君の相手はこの橘雄星が引き受けよう」




そう名乗りを上げた。



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