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7章 普通の勇者とハーレム勇者

孝志討伐部隊

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♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~アリアン視点~



殺したくないと思った。



──剣聖となってから決して短くはない年数が経っている。
当然、毎回納得いくような任務ばかりではない。嫌の指令も多い。それは剣聖になる前もそうだった。だけど頑張って任務をこなして来た。

ただ、それでも他の兵士より比較的自由に過ごしている。国王も私が嫌がるような汚れ役は出来るだけユリウスに割り振っていた。
私は魔物を斬り伏せる……そんな任務が大半だ。
 


王の命令に背きたいと思った。



──私は人を育てる才能が全くないらしい。
でもそれは事実……自分が成長できない呪いに侵されてるのだから、誰かの成長の手助けなんて出来る訳がない。

少しでも成長できないモノかと、日頃から厳しい鍛錬を自身に課している為、他者への教えがどうしても同じ基準になってしまう。

そんな私の訓練には誰も着いて来れない。
手心を加えようにも成長のさせ方が解らないのだから、どこまで手加減すれば良いかも解らず、私にはどうしようもない。




弟子と呼べる者が出来た。



──孝志はどんなに打ちのめされようとも立ち上がり、弱音を吐いたりはしなかった。

孝志は歴代勇者の中でも圧倒的断トツに弱い。

だからなんだろうな。
あの子は強くなろうと何処までも食らい付いてきた。手を抜いたら私に殺されると自己暗示でも掛けてるかのような必死さがひしひしと伝わって来る。
諦めずに足掻く姿はまるで鏡を見ているようだ……

……そうとも、私も孝志と同じだ。
成長出来ないからといって諦めたりはしない。
自慢じゃないがこれまで諦めた事なんて一度たりともないから。




少年を王は殺せと言った。



──逆にお前を殺してやろうか?

しかし、レオノーラ様から任せられたのだ。
国王ゼクスの助けになってくれと。

王妃が亡くなってからというモノ、国王はその叡智とカリスマ性が完全に消失している。
どれだけユリウスやブローノ王子に迷惑を掛けてきた事か……残念ながら私の王へ対する忠誠心はあまり残っていない。

ユリウスは変わらず王に忠実で有り続けて居るが、私は王妃の遺言は無ければとっくに国を去っている。
私を繋ぎ止めているのは、あくまで大好きだったレオノーラ様なのだから──


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~オーティス視点~


横で凄い形相のまま瞑想するアリアンにオーティスが堪らず声を掛けた。

「アリアン嬢……人を殺しそうな顔付きだぞ?」

「逆にお前を殺してやろうか?」

「何故に?」

「はっ!……オーティスか……すまない、国王と勘違いしてしまったよ」

「王に殺してやろうかと言ったつもりだったのか?我そっちの方がどうかと思うぞ?」

「…………(アホなのにツッコミはキレてるな)」

「…………(アホなのにツッコミはキレてるとか失礼なこと思ってそうだな)」

「……………」

「……………」


会話が続かず、二人は黙り込んでしまう。
ほんの少し前に孝志討伐命令を下されたばかりなのだ……両者共に心中穏やかじゃない。
今日にも出発して欲しいらしく、侍女が馬車や長旅に必要な道具を用意してくれている。
二人は準備が整うまでの間、この豪華な休憩所で待機しているのだ。オーティスはコーヒーを……アリアンは紅茶を嗜んでいた。



「オーティス、お前は平気そうだな」

「平気そうとは?」

「いやこれから孝志と戦うのに、あまり想い悩んでる風には見えないからな。お前と孝志の関係など所詮はその程度なのだ、ははっ」

ちゃっかりマウント取ってくる!?
……いやいやアリアン嬢も不安であるのだろう。我も平気ではないのだが、此処は先輩としてアドバイスをしてやるとしよう。


「……そう見えてしまうか。まだ青さが残るなアリアン嬢よ。動揺を隠すのも我らの使命であろう?」

「なにぃ?アホさが残るだとぉ?」

「ううん、アホじゃなくてアオ。聞き間違いで剣を抜こうとしないでくれる?」

「……すまない」

「分かれば良い」

「しかし、お前は焦ると普通な口調だな!」

「……………そうか(なんか煽ってくるし)」

オーティスは気を落ち着かせる為コーヒーを口に含んだ。更に気を紛らすため窓の外へと目を向ける。
二人の座る休憩室の外では、シーラやエミリアが所属するヴァルキュリエ隊が訓練を行っており、幼い可憐な少女達が汗を流し切磋琢磨していた。

その光景をアリアンも観ていたようだ。


「あの黒い髪の子、ダイアナさんの孫らしいぞ」

「そうであったか……ん?黒い髪の子は結構居るのだが?」

「しかも孝志にホの字らしい」

「……隅におけぬな」

「……マリア王女が言うに孝志はロリコンらしい」

「……そ、そうか」

一言一言の会話がぶつ切りで話し難い……アリアン嬢と一緒ではリラックス出来ないのだが……?

いや、彼女なりに懸命に考えてくれた話題なのだろう。孝志がロリコンとは信じがたいが、これをキッカケにして話を広げるか。


「……もし孝志がロリコンなら……アリアン嬢は狙われる心配はなさそうであるな」

「ああぁぁん?私がババアだから孝志の守備範囲外だとおぉ?」

「何故そうなる……?普通に大人の女性という意味なのだが……?」

アリアンの沸点が解らないので、オーティスはこれ以上無理に話し掛けるのを止めた。


─────────


それから程なくて一人の少女が休憩所を訪れた。

その少女とはオーティスの弟子で名前をアンジェリカという。家名を持たぬ子でかつて孤児だったアリアンと境遇が似ている。
年齢を重ねれば、いずれアリアンの様に貴族の養子となり、それなりの権力を手に入れるだろう。
この国では実力さえ有れば孤児であろうとも養子という形で成り上がる事が出来るのだ。


訪れた少女はオーティスの姿を観ると一瞬だけ表情を綻ばせ、その後直ぐに不機嫌そうな顔となる。


「ふ、ふん……こんなところで油を売っていたのね!いい気なものよね!」
(コーヒーを嗜む姿もカッコいい……超好きっ!)


「う、うむ、アンジェリカか……」

「おっ!アンジェリカっ!」

「あっ!アリアンさんお久しぶりですっ!」
(え?なんで私の師匠と二人っきりで密会してるの?アンタにはユリウスとかいうダメ親父が居るでしょう?ビッチなの?ねぇビッチ剣聖なの?お股ゆるいの?ソッチの性剣の扱いも上手なの?)


「あははっ!純血の私を捕まえて酷いこと考えてそうな顔だっ!」

「そんな訳あるまい──はぁ~……相変わらず……我以外には愛想がいいのだな……」

アリアンへ元気良く挨拶をする弟子を見て、自分との態度の違いに落ち込むオーティス……
心の中で彼女が何を考えてるのかも知らずに──



──このアンジェリカも孝志討伐に加わるメンバーの一人なのだ。
七神剣を超えた実力は申し分なく、その七神剣とは違って所属も曖昧なのでこういった場面で編成される事が多い。

……尤も彼女の場合はオーティスが一緒に居る事が絶対条件になるのだが……
任務ならば仕方ないと、単独行動でも受け入れるアリアンと比べてタチが悪い。


──孝志討伐部隊はこの三人。
王国最大戦力が二人居るのは普段ならば過剰戦力。
ただし、今回に関しては幾つもの懸念材料があり、それがオーティスを悩ませている。


(ユリウスが孝志と一緒に居るとは……)

それも厄介事の一つ。
ユリウスが相手となればアリアンと二人で戦って互角といったところ。そうなれば他の相手をアンジェリカが一人で担う事となる。

そうなればかなり厳しい。にも関わらずゼクス王は何故か戦力を増やしてくれないのだ。

しかもそれ以上に解せない事がオーティスにはある。
それについて目の前のアリアンが呟き始めた。


「ユリウスが裏切った理由はゼクス王の命令だと思ったのだがな……違うのか」

「うむ……」

それが解らない。
ユリウスが国王の命令以外で裏切るとはオーティス、アリアン共に考えられないことなのだ。それ程までにユリウスの忠誠心は暑い。


だがしかし、王は自らこう語った。

『ユリウスがユウシャと手を組み、我らラクスール王国に楯突こうとシテイル。ヤツはワシを、クニを裏切ったのだ』


やつれ切った顔で国王ゼクスはそう言ったのだ。
あまりに言語がおかしい為、魔法による精神操作の類いを疑ったが、何度確認しても魔法の痕跡が見当たらず、何者かに操られてるとも考え難かった。



………もしユリウスの裏切った理由が王の命令だとすれば、わざわざ孝志討伐命令の抹殺対象にユリウスの名前を挙げる事はしない筈。
それに、この命令に裏があるとも考え難く、二人は承知せざる終えなかったのである。

中でもアリアンとオーティスが命令に従う大きな理由として、今回の任務には【ユリウスに捕われたブローノと橘穂花の救助】が含まれていた。ブローノ王子や穂花の救出なら文句など言える訳がない。


(まるで賢王と謳われた昔の国王を見ているようだ)

あの二人が手を組んでると見抜いたのも意外だが、彼らが獣人国へと向かってる情報も手に入れていた。
王妃が亡くなる前の国王も、この様に情報収集や先読みに長けていたと、オーティスは感傷深い気持ちになるのだった。



────────


それから更に1時間ほどが経過し、準備を進めていた侍女に呼ばれるアリアン、オーティス、アンジェリカの三人。

三人とも救助に関して以外あまり乗り気では無かったが、それでも気を引き締めて用意された馬車へ乗り込もうとした。



「──遅かったじゃない」

「……む?……なっ!」

思い掛けない人物【達】が侍女に案内された馬車の前で待ち構えていた。三人はまさかの展開に困惑し、互いに顔を見合わせた。


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