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7章 普通の勇者とハーレム勇者
孝志の手紙
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~マリア視点~
アレクセイの盗み聞きにより、アダムの陰謀とシャルロッテ第三王女の正体に気付いた孝志、アルマス、アレクセイ。三人は彼等の策略から逃れる為、一旦ラクスール王国を離れていた。
孝志達が脱獄して間もなく、軟禁室を訪れた騎士により異変が発覚し、報告を受けたマリアがいち早くもぬけの殻となった部屋を訪れていた。
まさかの出来事に激しく動揺するマリア王女だったが、程なくして机の上に孝志が残したと思われる置き手紙を発見する。
また、封筒には宛先人にマリアと記載されており、その手紙の内容をマリアは一緒に訪れた戦闘メイド、ライラと一緒に確認するのであった。
───
───
『拝啓、麗しのマリア王女様へ。拝啓の使い方はこれで合ってるでしょうか?まぁそれはどうでも良いのですが、私が脱走し、さぞ驚いてる事でしょう。実はさっき変な人が来て『お前はもう直ぐ死ぬ』と言ってきました。とても怖かったです。そういえばずっと身体中が痛かったです。故に脱獄し治療します』
「そ、そんな……」
手紙を読み進め、まだ途中だがマリアが愕然とした。まさかそんな状況下に置かれていたとはマリアは思いもしてなかったのだ。
しかし、深く思い返すと孝志は十魔衆最強のカルマを簡単に倒すほどの力を身に付けていた。それも唐突にである。
マリアはそんな力の代償なのでは無いかと、孝志の身体の状態を心配した。
そして再び手紙に目を向ける。
『まぁ嘘なんですけどね』
「………………ふぅ~」
「マリア王女……肩が震えてますよ?」
「大丈夫よライラ、大丈夫……こんな位で怒ったりしないわ。だって第二王女ですもの。それに今年で17歳よ?こんな手紙に書かれた嘘に振り回される私じゃないわ。ブローノお兄様への陰口や、かつてのネリーお姉様からのイビリに耐えた私よ?全然、こんな嘘くらいで怒ったりしないわ。今の心情は『ふふ~ん?そうなんだ!』程度よ。心配を返せとか器の小さな事を言うつもりなんて微塵もないんだからね?」
(うわ……凄い良く喋る)
絶対に気にしてると確信しながらも、ライラは突っ込まずにマリアと一緒に手紙の続きを読み進めてゆく。
『正直、マリア王女はとても素晴らしい王女になると思います。まぁ実の兄へ対して好意を抱くド変態ではありますが、王宮での佇まい、そして歩く姿はまさしく美の化身です。ラクスール王国はその輝きによって色付いてると断言して過言ではないでしょう』
「……ふふ……ふふふふ」
(あ……凄く嬉しそう。でも途中でド変態って書かれてましたけど、それは良いんでしょうか?)
『まぁこれも嘘ですけども』
「ぬおっ!?」
「え?腹の底から王女とは到底思えないドス黒い声が……だ、大丈夫ですか?!マリア王女!?」
「………………………」
(今度は全然喋らなくなった!?)
孝志から美の化身と言われたのが嬉しかった様だが、それを嘘と言われ、マリアはさっき以上に肩を震わせていた。
「ライラ……さっきから嘘しか書いてないわね、この手紙……舐めてるのかしら?」
「ええ、まぁ……孝志様ですからね……あの人の考えを読むのは難しいでしょう。私以外に気を許さなかったケイトが懐く位ですし」
「そうね……ま、続きを読んでいきましょうか」
「はい」
マリアは再び手紙を読み進める事にした。
『実はマリア王女の事は凄いと思いながらも腹黒い王女だと思っていました。しかも圧倒的な権力有してる分、相当厄介な腹黒さです』
「……ほら見てよライラ、三つ目の嘘が此処に書かれているわ。しかし今回の嘘は特に酷いわね」
「は、はぁ……」
『因みに今回のは本当です。マジでそう思ってました。今までの流れでこれも嘘だと思って「三つ目の嘘が書かれているわ」と突っ込んでたらマジウケるハハハッ』
「……………………殺す」
(……怖っ!!)
あまりの怖さに腹黒だと言われるだけの事はあると、このときライラは思った。
『まぁ冗談はこれ位にして──本音を話すと、今のラクスール王国は危険な状況下にあります。誰の所為で危険なのかはマリア王女に話してもまだ信用されないと思いますので、証拠を秘密裏に集めてから戻って来ようと思います。ラクスール王国の人達はマリア王女も含めて皆んな良い人達ばかりです。呼び出されたことは正直あまり恨んでません。この世界に来たばかりの頃、誰よりも最初に良くしてくれたマリア・ラクスール王女、ダイアナさんには心から感謝しております──それではお元気で。アリアンさんやオーティスさんにも宜しく言っといて下さい』
「………凄く良いことが書いてあるのに、散々嘘を書かれた所為で感動が半減だわ」
「た、確かに……(私の名前がなかった、ぐすん)」
──しかし、手紙を読み終わったマリアはどう動こうかと頭を悩ませた。悪意がない脱走なのは分かるし、そもそもマリアは孝志が宝を盗んだとは少しも考えていない。
彼女視点だと、誰かの陰謀が働いてるのが見え見えなのである。しかし誰の陰謀か解らない以上はどうする事も叶わない。
ただ騒ぎが大きくなってる以上、王女という立場である以上、兄の代わりを果たす以上、黙って見逃すわけにもいかず、その所為で頭を悩ませている。
せめてもの救いは、真っ先に報告するべきゼクス王が不在なこと。父が帰ってくるまでの間は手紙の内容を伏せることが出来る……マリアそう考えた。
王族の考え方としては宜しくないが、出来る限り温情を掛けたいと思えるほどの借りが孝志にあり、加えてなんとか助けたいと思えるほど、マリアは孝志個人を気に入っているのだ。
そんな風に考えてると、開けっ放しの扉から一人の兵士が顔を覗かせた。
「マリア王女!ゼクス王が帰ってこられました!!」
「さっきからなんなのっ!?」
「え……いま初めてきたのに……言ってしまえば王女と話をするのも初めてなのに……しかも就任一年目なのに、酷すぎますよぉ」
「あ、ごめんなさい」
八つ当たりしてしまった事を悔やみながら、マリアはゼクスの元へと向かう。
──────────
父の部屋へ向かうと、部屋の中にはゼクスの他にネリーの姿があった。
彼女と目の合った為マリアが笑い掛けると、ネリーは顔を真っ赤にして目線を逸らした。
それを見てマリアは内心喜ぶも、今まで彼女の苦悩を知らず毛嫌いしていた事に心をチクリと傷める。
「よくキタナ……マリアよ」
「……お久しぶりです、お父様」
マリアは腰を折り挨拶を交わすが、父の顔を見て驚愕する。
「お父様……大丈夫ですか?」
「モンダイナイ……わたしはだいじょうぶ……」
(問題ないって……)
とてもそうは見えないわ。
お姉様もその事には気が付いて……なさそうね。口元を隠して喜んでるわね。さっきの私とのやり取りが嬉しかったのかしら?どうしましょう可愛い過ぎるわお姉様。
……お姉様の可愛さに気を取られそうになりましたけど、お父様の顔付きがいつもと全然違います。
目が虚で、こちらを見ていても何処か遠くを見詰めてる……本当にそう思える程に別人な顔付きだわ。
………
まるで誰かに操られてるようだと錯覚する程。
いえ、加護に護られた王族に洗脳魔法なんて効かない筈ですし、まずオーティスがそんな魔法を見逃す訳はない……でも何か有ったのは見て分かる。
──マリアはそれを確かめるべく、ゼクスに探りを入れようとしたが、次のゼクスの言葉でそんな考えも吹き飛ぶのであった。
「……マリアよ。ダツゴクした勇者タカシの討伐に、アリアンとオーティスを向かわせるコトニシタ。場所はわかっている……テガミは見せなくてもイイぞ」
「……ッ!!?」
「……!!」
マリアとネリーは同時に息を呑む。
ネリーは孝志の討伐という言葉に、マリアに至ってはそれに加え、手紙の存在が父に知られてる事に心底驚いた。
この手紙に関してはライラと自分以外知らないこと。
それが帰ってきたばかりのゼクスに知られてるのが幾ら何でも可笑しいのだ。
「お父様……手紙の情報は誰からお聞きになられたのですか?」
「………わかるからワカルノダヨ」
「???」
まるで意味不明な返答だった。
マリアが手紙について尋ねた後、今度はネリーが孝志討伐について尋ねる。
「お父様!!勇者討伐とは何ですの!?というか脱獄ってなんの事です!?」
「ユウシャ討伐とはなにか……それはユウシャと戦うコトである」
「それは解っておりますわ、問題なのは何故彼を討伐しに行くかという話です!!それに討伐だなんて……まるで魔物を狩るような言い方は酷すぎますわ!!」
「マモノではない……ユウシャだ……」
「いやそれは解っておりましてよ」
「ならヨカッタ」
「……んん?」
会話の間を見て今度はマリアがゼクスに問い掛ける。
「……お父様。どうして孝志様へ刺客を差し向けるような真似を?それにオーティスとアリアンが居なくては国の護りが無くなってしまいます。今からでも考え直し、あの二人に下した命令の撤回を」
「それはできない」
「何故ですか?」
「できないからデキナイノダ」
((いやさっきからやべーなこのオヤジ))
まるで話にならない。
明らかに言語と精神がおかしい父だが、今はそれよりも孝志に対して下された命令の撤回へ動かなければ手遅れになる。
マリアは父に挨拶を交わした後、急いでアリアン達の元へと向かうのであった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~シャルロッテ視点~
そんな三人のやり取りを、ティタノマキアの魔法でシャルロッテは別室から観察していた。
「……………」
「……………」
──魔神具を使ってお父様を操ったのは良いけど……不良品じゃないこれ???
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