上 下
191 / 217
7章 普通の勇者とハーレム勇者

運に恵まれた男

しおりを挟む



連行されたのは内装が整えられている綺麗な部屋だった。薄暗い牢獄を想像していただけに、孝志は拍子抜けな気分となる。


「では……此処で大人しく願います……わ、私を恨まないで下さいよ?」

「……俺ってそんな怖いイメージなの?」

ちょっとショック。
アリアンさんやオーティスさんともさっき別れたし、しばらく大人しくするしかなさそうだな。


──ここは最近までマリアが投獄されていた部屋。
罪人を投獄する場所というより、王族を軟禁するのに使われる個室だ。その為、部屋には快適に過ごせるような設備が整えられていた。

孝志は兵士達が立ち去るのを見送ってから、昨日までマリア王女が座っていた椅子に腰を降ろす……王女との間接ケツである。


「捕まったのはちょっとショックだったけど、案外この状況が休暇の代わりになりそうだなっ!」

捕まってるとは思えないほど元気だ。それもカラ元気ではなくマジで超元気。ここなら誰にも邪魔されず休めると本気で考えているのだ。

アダムはテレサを妨害をするのに必死になっている。
なので現在は孝志と【目】の共有ができてないのだが……もし見れてたなら落胆していた事だろう。こんな優しい空間では成長もクソもないのだから。

これならば、わざわざ脱獄する必要はゼロ。
どうやらアダムは孝志の幸運、及び、世界からの愛されレベルを甘く見積もり過ぎてたようだ。

因みに、牢獄ではなく此処へ連れて行くように命じたのはネリー王女だった。しかも差し入れに美味しそうなケーキまで用意したという。
アリアンからも食べごたえ抜群なステーキが贈られて来たりと、あまり罪人らしい扱いを受けていない。
それには看守も少し頭を悩ませていたが、相手が王族と剣聖なので注意する事もできなかったようだ。


──それからは何事もなく次の日の朝を迎えた。
軟禁生活は悪くなく、むしろ面倒毎に巻き込まれないから普段より快適に過ごせていたが、一つ大きな不安が孝志にはあった。


「テレサに昨日会えなかったからな……やっぱり心配だな」

結局、朝に話したっきりテレサからの連絡は途絶えたままだ。
夜の待ち合わせ時間に会いに行けば良いと考えていたが、投獄されてる所為でそれも叶わず……
本当なら無理に外へ出る必要は無かったが、孝志はテレサの為に1秒でも早く城を抜け出したかった。

しかし、その為には丸一日経つのを待たなければ成らない。その理由は孝志と丸一日離れると、強制的に孝志の近くに転移する女、アルマスと合流する必要があるからだ。


「最後に一緒だったのが夕方だったから、アルマスが来るまで半日近くあるのか……大丈夫かなテレサ?」



───────


それから数時間が経過した頃……部屋の外が急に騒がしくなり出したので、ベットで寝転がっていた孝志はムクリと起き上がる。
すると、間もなくして部屋の扉が乱暴に開け放たれ、そこから面倒臭い人物が姿を現した。


「松本っ!!何故お前が捕らえられてるんだっ!!」

「た、橘くぅ~ん……」

来たぞ、なんかヤバイのが……しかも後ろには気まずそうな顔をする中岸さんと奥本も居るし。
ちょっと距離を空けた所にはマリア王女まで居た。あとは見知らぬ兵士がマリア王女の護衛として複数人……いや兵士達は兎も角、もしかして他の奴らは遊び感覚で来てる?


「おいっ!看守っ!今すぐ松本を此処から出せっ!誰の許可を得てこんな場所に閉じ込めてるんだ!?」

「えぇ!?私に言われても……そもそも孝志様は、王国の宝を盗み出した犯罪者ですよ?」

「勝手に俺たちをこの世界に呼び出したのは王国だろ!?だったらそれ位はサービスしろっ!!」

「む、むちゃくちゃな……」

確かに言ってる事はむちゃくちゃだが……割と理論は間違ってないのが凄いな。だってこっちは無理やり生き方を変えさせられてる訳だしね?
あとは、庇ってくれてるのが少しだけ嬉しい……もしかして案外いい奴なのかも知れんな。
ただ、少なくとも看守は何も悪くないし……此処は止めるべきだ。


「橘、俺は大丈夫だから………なんか悪かったな、迷惑かけて」

「迷惑だとぉ?昨日、俺と一緒に夕食を食べる約束をしたのが迷惑だと!?」

「あれ……?急に言葉が通じなくなったぞ?俺の感心とか感謝の気持ち返してくれる?」

それから中岸さんと奥本を加え三人で話をしたが、マリア王女は少し離れて俺の様子を伺っていた。

恐らく橘が居たから距離を取ったんだろう。
確か死ぬほど嫌ってたもんなぁ……話せばそこまで悪い奴じゃないぞ……?友達になりたいとは今のところ全然これっぽっちも思わないけど。



──橘達が帰った後、それからは何もなく時間だけがあっという間に過ぎてゆく。やっぱり軟禁されてると1日の経過が早い。
何もイベントが発生しない異世界生活とか、平和過ぎて癖になるんだけど……?こんなに【無】な1日が果たして有っただろうか?
今までが本当におかしいよね?だってまだこの世界に来てから10日位しか経過してないんだよ?

時折、ダイアナさんが身の回りの世話をしに来てくれたけど、看守の目を気にして一言も話さなかった。
他の連中がおかしいだけで、これが普通の対応なんだよ……俺は捕まってるんだから、あまりフレンドリーな感じで来られても困るわ。

ただ、ダイアナさんが心配そうな目をしていたのでそれが非常に申し訳なく思った。



……それから更に数時間が経過し──ついに、孝志はその時を迎えた。

何もない空間から突如として現れたのは待ちに待ったアルマス。彼女は孝志と目が合うと、いの一番に彼へ飛び付いた。


「たかしぃ~!!!」

「わっとっ!!」

「ペロペロぺロペロペロぺロペロペロぺロペロペロぺロペロペロぺロペロペロぺロ」

「おい……顔中舐めるんじゃないよ」

「はぁはぁ……ペロ……どうして……ペロ……いつもいつも……ペロ……孝志と……ペロ……離れ離れに……ペロペロ……」

「舐めるか!喋るか!どっちかにしろっ!!」

「ペロペロペロペロペロペロペロペロ」

「こ、こいつ……」

躊躇なく舐める方を選びやがった……!!

そ、外の看守に話し声とか聞こえてないだろうな?
反応がないから大丈夫そうだけど……静かにしろよもぉ~……顔中ベトベトで気持ち悪いし……後で覚えとけよ?


「……じゃあアルマスも来たし、アレクセイさん……お願いします」

孝志はポケットに入れてあった小さな箱を取り出し、それに向かって合図を送った──すると、その箱が大きく膨れ上がり、なんと中からアレクセイが形となって姿を現した。


「あらぁ!ようやく出番ねぇ?退屈だったわよぉ?」

「……凄いですね……どうやってんですか?」

「乙女のひ・み・つ」

「いやオカマですやん。つーかさっき教えてくれたでしょう?」

「あら?そうだったかしらぁ?」

「ペロペロペロペロペロペロペロペロ」

これはアレクセイさんが所有するスキルらしい。
自分の姿を隠す能力で、緊急避難や隠密行動に役立つらしいが、今回はこのスキルを使って俺の懐に潜んで貰っていた。
随分便利な能力で、自分の存在を亜空間に閉じ込めることが出来るそうだ。その為、気配すら感知するのが不可能らしい。

ただ、あのドッペルは全知全能とかいうスキルを持っている。それで見付かる可能性も高かったが、バレることもなく、箱にも細工は施されていなかった。
名前の割に大した能力じゃないのかもな……全知全能が聞いて呆れるわクソドッペル。


「それじゃあ、アレクセイさん……手筈通りに始めましょうか」

「分かったわ」

「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロぺロペロペロぺロ」

「いつまで舐めてんねんっ!!!」





「……………………………………………………………………………………………………………………ペロ」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】飛行機で事故に遭ったら仙人達が存在する異世界に飛んだので、自分も仙人になろうと思います ー何事もやってみなくちゃわからないー

光城 朱純
ファンタジー
空から落ちてる最中の私を助けてくれたのは、超美形の男の人。 誰もいない草原で、私を拾ってくれたのは破壊力抜群のイケメン男子。 私の目の前に現れたのは、サラ艶髪の美しい王子顔。 えぇ?! 私、仙人になれるの?! 異世界に飛んできたはずなのに、何やれば良いかわかんないし、案内する神様も出てこないし。 それなら、仙人になりまーす。 だって、その方が楽しそうじゃない? 辛いことだって、楽しいことが待ってると思えば、何だって乗り越えられるよ。 ケセラセラだ。 私を救ってくれた仙人様は、何だか色々抱えてそうだけど。 まぁ、何とかなるよ。 貴方のこと、忘れたりしないから 一緒に、生きていこう。 表紙はAIによる作成です。

きっとそれだけが私たちの答えだと思うのです

奏穏朔良
恋愛
例えば、この身に流れる血を抜き去ったとして。 この地に立つ足を切り取ったとして。 果たして私に、どれだけのものが残るのだろうか。 **** お互い都合のいい関係だったと思っていた、マフィアの幹部とボスの従姉妹の話。 【注意】直接的な描写はありませんが、匂わせ程度の肉体関係描写があります。

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

(新)師匠、弟子にして下さい!〜その魔女、最強につき〜

ハルン
恋愛
その世界では、何千年も前から魔王と勇者の戦いが続いていた。 ーー世界を手に入れようと魔を従える魔王。 ーー人類の、世界の最後の希望である勇者。 ある時は魔王が、またある時は勇者が。 両者は長き時の中で、倒し倒されを繰り返して来た。 そうしてまた、新たな魔王と勇者の戦いが始まろうとしていた。 ーーしかし、今回の戦いはこれまでと違った。 勇者の側には一人の魔女がいた。 「何なのだ…何なのだ、その女はっ!?」 「師匠をその女呼ばわりするなっ!」 「……いや、そもそも何で仲間でも無い私をここに連れて来たの?」 これは、今代の勇者の師匠(無理矢理?)になったとある魔女の物語である。

【完結】皆様、答え合わせをいたしましょう

楽歩
恋愛
白磁のような肌にきらめく金髪、宝石のようなディープグリーンの瞳のシルヴィ・ウィレムス公爵令嬢。 きらびやかに彩られた学院の大広間で、別の女性をエスコートして現れたセドリック王太子殿下に婚約破棄を宣言された。 傍若無人なふるまい、大聖女だというのに仕事のほとんどを他の聖女に押し付け、王太子が心惹かれる男爵令嬢には嫌がらせをする。令嬢の有責で婚約破棄、国外追放、除籍…まさにその宣告が下されようとした瞬間。 「心当たりはありますが、本当にご理解いただけているか…答え合わせいたしません?」 令嬢との答え合わせに、青ざめ愕然としていく王太子、男爵令嬢、側近達など… 周りに搾取され続け、大事にされなかった令嬢の答え合わせにより、皆の終わりが始まる。

落ちこぼれ[☆1]魔法使いは、今日も無意識にチートを使う

右薙光介
ファンタジー
領主お抱えの立派な冒険者となるべく『バーグナー冒険者予備学校』へ通っていた成績優秀な少年、アストル。 しかし、アストルに宿った『アルカナ』は最低クラスの☆1だった!? 『アルカナ』の☆の数がモノを言う世界『レムシリア』で少年は己が生きる術を見つけていく。 先天的に授かった☆に関わらない【魔法】のスキルによって! 「よし、今日も稼げたな……貯金しておかないと」 ☆1の烙印を押された少年が図太く、そして逞しく成長していく冒険ファンタジー。

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。
ファンタジー
悪役令嬢? なにそれ。 乙女ゲーム? 知らない。 そんな元社会人ゲーマー転生者が、空気読まずに悪役令嬢にベタぼれして、婚約破棄された悪役令嬢に求婚して、乙女ゲーム展開とは全く関係なく悪役令嬢と結婚して幸せになる予定です。 一部に流血描写、微グロあり。

処理中です...