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7章 普通の勇者とハーレム勇者

堕ちた英雄

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~アダム視点~

目も当てられなかった。
英雄になるべき男が女性に抱き着かれたり、相手に乗せられてふざけたりする等あってはならない光景。だから僕はいつもの様に松本孝志の【瞳】から目を離して居たのだ。

だがまさか、少し目を離した僅かな時間で対策を練られるとはね。
松本孝志の全知全能のスキルを無効化してあるから、彼と繋がってる僕も使えないし、まぁ仕方ないかな?

それにしても……


──アダムは二人に目を向ける。


……やれやれ、魔族共をどのように処理しようか?
松本孝志が本来有する力を発揮すれば、こんな連中と戦った所で簡単に倒せるだろう。

だが、今の孝志は修行不足だ。
現段階で潜在能力を全て解放してしまうと、肉体に相当な負荷を掛けてしまう事になる……此処は何とか穏便に対処しなければね。


「……アルベルトの旦那……コイツあやしいぜぇ?」

アッシュがそう口にすると、それに同意しアルベルトも険しい表情で頷いた。現在アルベルトは人間の姿をしている為、本来のガイコツの姿と違いその表情は読みやすい。


「おいおい、ヤンキーさんよぉ?意味わかんねぇこと言うんじゃねーぞ?ぶん殴るぞ?」

アダムは出来るだけ孝志らしい喋り方を意識し、アッシュに対して暴言を口にする。
しかし今のは完全に逆効果だ。このやり取りでアッシュが抱いていた疑惑は確信へと変わった。


「……こっちこそおいおいだぜ?孝志の煽り文句はそんなもんじゃねぇよ……もっとこう……心にズシっと来るんだよ。それにアイツなら『殴る』じゃなくて『殺す』って言ってる筈だぜぇ?──化けるんならもっと勉強しろよ、偽物がっ!」

「…………」
(やはり誤魔化せないか。自分と全く違うタイプの人間を真似するのは非常に難しいね。そもそも僕は道化ではないから、人真似はあまり得意じゃないんだよ)


──もはや疑う余地などない。
この孝志を偽物だと判断したアッシュは、剣を抜き、その刃の矛先を向ける。


「どういう了見か知らねーが、人のダチの身体乗っ取ってどうするつもりだぁ?そいつに傷一つでも付けてみろ……ただじゃおかねぇからな?」

今度はアルベルトが戦闘体制に入った。いつでも強力な魔法を放てるように、身体中に自らの魔力を巡回させる。


「ふん……最近よく気が合うではないかアッシュよ。あの男は主ではないと私も断言できるぞ。僅かしか共に過ごしてないが、あの方の放つオーラはあんなに淀んではいない……松本孝志さまはもっと慈しみある優しい雰囲気を身に纏っている……あんな低俗なモノでは断じてないっ!!」

アルベルトはそう言い切った。二人の魔族から啖呵を切られアダムの表情が険しくなる。


「……世の理から大きく外れた屑どもに、まさか低俗等と言われてしまうとは……あまりにも度し難い。私のオーラが淀んて居るだと?……そんな大言を吐いてタダで済むと思うなよ?」

アダムが怒りを表した瞬間、今まで放っていた雰囲気が一変する。孝志とは比較にならない程の力をアダムは放出させた。肉体に負荷が掛からないギリギリまで出力を上げたのだ。

それにはアッシュも驚きの色を隠せない。

「ちっ……あの野郎……孝志とは段違いの強さだ……同じ肉体でこうも変わるのか……?」

「貴様は何を言ってる?主の力はこんなモノではない。カルマとの戦いで見せた力に比べれば、大した事などあるまいよっ!」

「へっ!そういえばそうだったなぁ!──じゃあオレも出し惜しみは無しだっ!」

アッシュはそう叫び声上げた後、握り締めている剣の力を解放する。


「力を貸せっ!ベルセルクッ!!」

するとアッシュの構えていた剣の形状が変化する。
その長刀は真っ黒な大鎌へと姿を変え、その武器は禍々しい気配を放ち始める。それを肩に担ぐ姿はまさしく聖者の魂を狩る死神そのものだった。

全ての武器型の魔神具には、能力解放時にステータスが大幅に向上するという共通効果が存在する。
今のアッシュなら、変身前のカルマと同程度の力を発揮できるだろう。

そして、今のアダムが引き出せる力と魔神具を解放したアッシュの戦闘力は、ほぼ互角だ。
ただ、向こうにはアルベルトという優れた魔法使いの支援が加わる。そうなればアダムに勝ちの芽はない。

故にアダムは策を弄する事にした。


「仕方あるまい。魔族如きに正体を看破されたのは腹立たしいが、相手をしてやろう──だが良いのか?」

「あん?」

アダムの理念……それは正義を貫くこと、魔族を殺すこと、そして松本孝志を英雄に成り上がらせる事だ。その為なら彼は手段を選ばない。


「これは松本孝志の肉体だぞ?私を傷付けるという事は、すなわち松本孝志を傷付ける事に繋がる──」

そしてアッシュの担ぐベルセルクを指差した。


「その剣……今は大鎌か。それで傷付けた箇所は二度と再生する事はない。どのような手段を持ってしても元には戻らない」

アダムは無防備に両手を広げる。


「さぁ好きに攻撃したまえ。君達にそれが出来るなら……ね」

「く、クソ野郎がぁッッ!!!!」

アッシュは激昂した。
わざわざ隙を見せる今の行動は明らかな挑発。アッシュが手を出さないと読み切った大胆な行動だ。
だが事実、孝志の非力さを知ってるアッシュには、もうベルセルクで孝志を攻撃する事ができない。

無論、アッシュだけではない。同じく対峙するアルベルトも殺傷能力の高い魔法を使えなくなった。
彼の場合は孝志が強いと思い込んでいたが、それでも万が一を恐れて強力な攻撃が出来なくなってしまったのだ。


「……では始めようか?」

「「……!?」」

まともに抵抗する事が出来なくなった魔族に向かって行くアダムの姿は、かつて英雄と呼ばれていた姿とは大きくかけ離れていた。


「ディバインドッ!」

アルベルトが魔法を放つ。
使用したのは単なる拘束魔法。しかも孝志を無意識に気遣い、拘束威力が大幅に減少していた。

「ふっ」

しかし、そんなものがアダムに通用するはずもない。
彼は拘束の隙間を簡単にすり抜け、アルベルトの腹に拳を叩き込んだ。


「……ぐがっ!」

「ふん、本来なら腹を突き破ってる所だが、手加減の御礼にこちらも手を抜いたぞ」

どさりと、アルベルトはその場に倒れ伏した。


「クソがぁ!!」

アッシュの繰り出した拳も難なく躱される。アダムは徒手空拳だが相当戦い慣れていた。

そのままアッシュにも攻撃をお見舞いする。
しかし、アッシュは倒れない……修羅族の特性からアッシュは打たれ強いのだ。アレクセイの鋭い蹴りを何発も耐え抜いた根性は伊達ではない。


「くっ!軽いんだよ!」

「むっ?」

すかさずアダムに反撃を行う。
それを躱して同じように攻撃を仕掛けるが、結果は同じ……アッシュはまたも反撃を行う。
肉体が強化されてるだけあり、例え鎌が使えなくてもアッシュは充分に強い。

しかも機敏な動きに陰りが見えず、アッシュにダメージが蓄積されいるのかも怪しかった。


(このままではジリ貧だね)

周囲には音漏れ防止の結界を既に張ってあるが、硬直状態が続けば人に見つかるのも時間の問題だ。それより先に孝志が目覚めるかも知れない。


(しかし更に能力を上げると松本孝志の肉体に負担を掛けてしまう……どうしたものか──ん?)

それに気付いたアダムは、思わずニヤリとした笑みを浮かべる。


「ふふふ」

「テメェ……なに笑って──ぐがぁっ!」

これは英雄としての天運なのか……突如現れた援軍の手により、アッシュは倒されてしまった。
起き上がって来ないのを観ると、今の攻撃で気を失ってしまったのだろう。


そして大男が姿を現した。

「──懐かしい気配がすると思ったら……やはりアダムであったか!実に久方ぶりだっ!別の世界軸に飛ばされたが故に、二度と会えぬと諦めて居たぞっ!」

「ふっ……まさか君の方から来てくれるなんてね。ちょうど僕も会いに行くところだったんだよ──ティタノマキア」









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