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7章 普通の勇者とハーレム勇者
目覚め
しおりを挟む──松本孝志はムクリとベットから起き上がる。
数分前に寝たばかりだと言うのに早過ぎる目覚めだ。
「……孝志?眠れないの?」
それには孝志が寝たタイミングを見計らってベッドの中に潜り込んで居たアルマスも、寝付けないのかと心配の表情を浮かべる。
──しかし、それも一瞬の出来事だった。直ぐにアルマスは怒りに満ちた表情に変わり、なんとそのまま孝志へ飛び掛かったのだ。
「お前ッ!!誰だッ!!孝志の体……で……」
だがアルマスに掴まれる直前、孝志は睡眠魔法を使って彼女を眠らせた。
無論、こんな魔法が孝志に扱える筈がない。こんな反射神経も孝志に備わってる訳がない。それは孝志と呼ぶにはあまりにも不気味な存在だった。
──松本孝志の姿をした男は眠ってるアルマスを見ながら独り言を呟いた。
「姿形や立ち振る舞いはもちろん、気配も完璧に【松本孝志】だった……なのに、何故看破られたんだ?」
冷たい目でアルマス見詰める。
──その男の正体はアダム。孝志がドッペルゲンガーと呼んでる男だ。アダムは少しの間アルマスを観察した後、鏡の前へと移動を始めた。
「──うむ……髪や服装が乱れてる。外へ出る前にセットしなくては……だらしなく観られてしまう」
アダムは身支度を整える。
孝志の体を使って行動するのはこれが初めてだ。本来ならもっと早い段階で表に出る予定だったのが、それが今まで叶わなかった。
理由は孝志の異常な迄の精神力だ。
精神的に追い詰められた状況でなくては、松本孝志の身体へ乗り移る事は不可能なのである。
これまで挫折しなくてはおかしい場面に孝志は何度も遭遇して来たが、それでも精神は揺らがなかった。
転移して独りぼっちで行動する事になったり、洞窟に閉じ込められたり、祖母と出会ったり、信頼していた大人に裏切られたり、後輩と離れ離れになったり、アリアンと修行をしたり、力で圧倒的に上回る相手と何度も対峙した。しかし孝志が折れる事はなかった。
ただ唯一、チャンスがあったとすれば透明化した十魔衆・ザイスに追い掛けられた時だったが、あの時は魔が悪かった為アダムは行動を起こさなった。
他にも相当な修羅場に遭遇してきた訳だが、孝志はのほほんと安定した精神を保っていた。恐るべき心の強さだとアダムは感服している。
だが現在、その精神に若干の亀裂が生じていた。
その原因には、今日行われた会議や蓄積された精神的疲労感などが挙げられるが、トドメとなったのがテレサの不在だ。
やはり彼女の存在は孝志にとって大きく、癒しとなって居たんだろう。
その事実にアダムは溜息を漏らした。
「……やはり、松本孝志の中で魔王テレサの存在は大きなモノとなっている……実にくだらない。魔王と勇者が互いに手を取りあって歩む未来など、王道から大きく外れているのに……やはり正さねばなるまい」
安心しろ松本孝志。お前は俺が導いてやる。
少し苦労するがそれは成り上がるのに必要不可欠な事だ。どんなに辛くてもそれはお前の糧となる筈だ。
「そうなる様にこれから動いてやるとしよう。今みたいな力を持たぬ偽りの英雄ではない……俺が本物に導いてやろう。お前のそんな姿を想像しただけでゾクゾクする」
しかし、まずはアイツと合流しなくてはな……
──アダムは部屋の外へ向かう。自由に行動出来る時間は限られているのだ。正直言って身だしなみを整えてる場合では無かったりする。
部屋を出たアダムは、急いで目的地へと行動を開始するのであった。
だが、そんな時だった──
「おい、孝志、どこ行くんだよ?」
「主よ……どうされたのです?」
呼び止められたアダムは内心悪態をついてしまう。
確かに日が登ってる時間帯では人と出会す可能性は極めて高い。その為、誰かと挨拶を交わすくらいはアダムも覚悟をしていたようだが……孝志の知り合いが外で待ち伏せしてたのは普通に予想外だったらしい。
「アッシュ、アルベルト、俺ちょっと行きたい所があるから話掛けんなよなっ!」
喋り方は孝志に寄せ、彼が言いそうな言葉で煙に撒こうとする。しかし、アッシュとアルベルトは『何を言ってるんだ』とでも言いたげに首を横に振る。
「いえ………主が『俺が一時間以内に部屋を出るような事があれば呼び止めろ』と仰ったんですよ?」
「全くだぜぇ」
「………なるほどね」
アダムは孝志に行動を読まれていたんだと把握した。全知全能のスキルを取り上げても尚、孝志が先回りしていたと知りアダムは不敵な笑みを浮かべた。
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