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7章 普通の勇者とハーレム勇者
喧嘩
しおりを挟む孝志、美咲、オーティスの三人は急いで外交の場へと向かった。その部屋の前に到着すると、入り口にはメイドや騎士達が大勢集まっており、その光景だけで室内の緊迫感が伺える。
「はぁ~………」
それを見て孝志は溜息を漏らす。
面倒ごとに巻き込まれるのが確定したのだ。
余りにも色々な面倒ごとに巻き込まれてきた孝志だが、この世界に召喚されて数日しか経過していない。
この世界の時間経過は元居た世界の十倍……つまり向こうでは1日も経っていないのだ。
今のところ、この世界に来て安らかに過ごせた時間は短く、有っても丸1日以上続かない。昨日あれだけ大変な目に遭ってもそれは変わらず、孝志には一息吐く暇すらないのだ。Sランク精神がなければ耐えられなかっただろう。割と本気で。
「……ではオーティス様……孝志様……美咲様……準備は宜しいですね?」
この場へ案内してくれた白銀の騎士は三人の覚悟を問う。それにオーティスと美咲は緊張の面持ちで頷き、孝志は間抜け顔で嫌そうに頷いた。
そして騎士は深く息を吐き扉を開け放つ!!
─────
「──何が第一王女よッ!!わざわざ来てやったのに、偉そうに指図するんじゃ無いわよっ!!」
「まぁまぁ……落ち着いて……ツヴァイ……」
「煩いわねッ!フローラッ!この根暗がッ!引きこもりの癖に調子こいてんじゃ無いわよッ!」
「………え?………幾らなんでも酷すぎる……ツヴァイだってゴミカスの癖にッ」
「誰がゴミカスですってぇ~!?」
「あの……お二人共、どうか冷静──」
「「クズは黙っててッ!!」」
「……あっ、どっちも毒舌」
「──ふんっ!言ってやったわ!偉そうな聖王国の連中にかましてやったわよッ!!おーほほほほっ!」
「ネリー第一王女……」
「え……な、なにアリアン……お、おお、怒ってる!?」
「いえ、向こうの態度には腹を据えかねて居たので……むしろネリー王女は限界まで耐え、なんとか話を穏便に進めようとしてました──数日見ない内に、随分御立派になられた……今日は赤飯ですね」
「ア、アリアン……いつも私に冷たかった、貴女に……そんな事を言って貰えるなんて………べ、別に嬉しくなんて無いわ!ふんっ………あれ?赤飯ってこういう時に食べるんでしたっけ?」
───────
「「「……………」」」
──うん、もう無茶苦茶。
しかも聖王国側は仲間ウチで揉めてるし、アリアンさんに至っては仲裁する気ないよね?むしろ煽ってるよね?
孝志が不安そうに惨状を見詰めていると、ここまで案内した騎士にオーティスが状況を確認する。
「うむ……世界の理から外れし純白の騎士よ……アリアンが仲裁してるように見えないのだが……」
「………え?もしかして私に言ってます?世界の理から外れた事なんてありませんが?」
「うん………まぁ………そういう風に突っ込まれると我辛いのだが?」
「……そうですか、オーティス様がそう仰るのでしたら……突っ込みませんが……」
騎士は気を取り直しオーティスからの質問に答える。
「あの美しい薄紫色の女性がいらっしゃるのが見えますか?彼女が余りにも無粋でして、恐らくアリアン様も我慢出来なかったと思います……でも私が離れるまではネリー王女を宥めていたのですよ!?」
その話を聞いて孝志とオーティスは揉め事の原因と思しき女性に目を向けた。
「おお……なんと美しい……」
「……えぇ!?」
そのあまりの美しさに、流石のオーティスも驚いてる様子だったが、孝志は違う意味で驚いていた。その理由は簡単……彼女が余りにもアルマスとそっくりなのだ。
「……アレだけ似てて、無関係じゃないよな……もしかして姉妹か……いやわかんねーなぁ」
でも、アルマス……家族は居ないって言ってたし。
けど、もし生き別れの姉妹とかだったら話は別だよな?そうだったら、流石にアルマスも向こうへ行ったりするのかな?
……そうなったらほんの少しだけ寂しい。
ウザかったけど、今までずっと助けて貰ってたし……それに……嫌いじゃないからな……
「さっきからどうした……タカシブレイバーよ……表情が暗いが……明るい我の雷魔法習っちゃう?」
タカシブレイバー辞めて、色んなダサさが凝縮されてるから。それと雷魔法は要らない……どうせ覚えるなら火か氷の魔法が良いし。
……ん?いやこれって心配掛けてるよな?
ダメだダメだ、あまり悩んでも周りの空気を悪くするし、気を取り直そう!
「大丈夫ですよ、オーティスさん……と言うか、アリアンさん説得して貰えますか?あの人があっち側に周っちゃうと話にならないので……てかアリアンさん同僚でしょ?貴方が止めずして誰が止めるんですか?」
俺は目をしっかり合わせて厨二男に訴え掛ける。
「…………(すぅ」
「………あっ」
目を逸らされた。
でもそんな事しても逃さないよ?
「……どうして目を逸らすんですか?」
「アリアン嬢と話すのが苦手なのだよ……汝なら分かるだろう……?」
「……………」
いや気持ちは死ぬほど分かるけど~?オーティスさんがそれを言っちゃう~?マジないわ~!
「おい止めたまえ……そんな蔑んだ目で王国三大戦力兼、宮廷魔法師長兼、賢者の称号を持つ我を睨み付けるのは止めたまえ……」
唐突にひけらかして必死だな、このおっさん。
アリアンさんが苦手でも立場的に頑張って欲しい。ここで一番頼れるのはオーティスさんなんだよ。
他に頼れる人なんて……
……いや待て……肝心な人間を忘れてた。
「……そういえばマリア王女は?」
彼女が居れば上手く行きそうなんだが……?
周囲を見渡しても姿は見えないし……もしかしてまた捕まったのか……?
──孝志の思考はマリアが相手だと実に容赦がない。そんな失礼な男の問いに近くのメイドが答える。
「マリア様は貧血で倒れになられました。昨日から寝てなくて、疲れが溜まってらしたのでしょう」
「容体は?大丈夫なんですか?」
「はい……御心配痛み入ります」
「大丈夫そうなら良いんですけど……でもマリア王女がダウンしてるなら日を改めた方が良くないですか?」
「そんな簡単ではないのだよ……しかし、ネリー王女とアリアン嬢がアレでは代わりの………むむ!?」
オーティスは何かに閃いたようだ。
それも孝志をジッと見詰めている……それにより孝志の脳裏にある嫌な予感が過ってしまった。
「松本孝志よ……我に考えがある……力を貸してはくれぬだろうか……?」
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