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7章 普通の勇者とハーレム勇者

疑惑

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奥本が泣きそうな顔をするもんだから、断腸の思いで仕方なく相手をする事になったけど……その前に連れて来られたこの喫茶店っぽい部屋は何なんだろう?

──孝志は訪れた部屋の中をキョロキョロと見渡し、嬉しそうに頷いた。まさに孝志好みの造りだった……というよりも内装が向こうの世界の喫茶店そのものだ。


「すげぇ良い場所……意外とやるじゃないか」

「ほ、ほんと?!」

美咲に対して言った訳ではないが、それを聞いて彼女はホッと胸を撫で下ろす。それから王宮の中庭を見渡せる窓際の席へと孝志を案内した。

「えっと……こ、ここに座ってくれる?」

椅子を引いて座るように催促してくる奥本。
俺はある企みに気が付いた。


「読めたぞ?さてはお前、俺が座ったタイミングで椅子を引いて転ばせるつもりだな?」

「そ、そんな危ないことしないよ!!」

「本当だろうな……嘘だったらアルマスに言い付けるぞ?」

「……アルマスって誰?」

孝志は答えない……ただでさえ嫌々付き合ってるのだ……信用していない相手に自分の手の内を明かしたくは無かった。美咲も孝志の表情を見て彼の心情を察したらしく、悲しそうに俯く。
そして疑いながら孝志は椅子に座る……すると美咲も続くように向かいの席に座った。


「…………」

「…………」

大人しく席に座っても孝志の疑心暗鬼の念は拭えない。孝志は美咲の一挙動全て警戒している……彼女の行動が何かしら自身にとっての不利益になるのではと心底疑っているのだ。奥本美咲への評価はそれほどまでに低かった。

これまで人間関係に恵まれてきた孝志にとって奥本美咲はまさに天敵だ。


「…………」

「…………」

そして沈黙が場を支配する。
美咲も呼び止めたは良いものの、何を話して良いのか思い浮かばず、身体を震わせ孝志の顔色ばかりを伺っている。

一方の孝志も、普段ならこういうときは真っ先に話をするタイプだが、一向に口を開こうとしない。このままでは孝志が痺れを切らして立ち去るのも時間の問題だった。


──そんな中、離れた席で様子を観ていたある男性が二人の元へと歩み寄った。その男はユリウスとお揃いの黒マントをカッコ良くはためかせる。
そして孝志を驚かせようと背後から声を掛けた。


「ブレイバーズ……沈黙は美徳……だが行き過ぎると……それも暴挙となろう……困りごとかな……迷える転移者達よ」

「オーティスさんでしょ」

「後ろからなのに……良くわかったな……ふっ……流石……救国の英雄だ……」

「いや喋り方で解るし、勇者舐めんなよ?」

癖が強いんだよ、癖が。
それとブレイバーなのか、迷える転移者なのか、救国の英雄なのか、ハッキリして貰えないだろうか?
できればブレイバー以外が良いです、はい。

「──ふっ……流石はブレイバー……しかし、珍しく空気が重いな……どうしたのだ……?」

「よりにってブレイバー……」

「ん?不服かな?」

「はい……例えば、こういうのはどうでしょう……ブレイバー・オブ・デッドエンド・・・フフフ」

「おお!!実に素晴らしい!!超センス良いぞ!!流石は弘子殿の知り合いだ!!」

「オーティスさん……口調、口調……素が出てますよ?」

「……!?………ふっ、我とした事が……失敬」

オーティスは孝志の類稀な厨二センスに興奮を隠しきれない様子だった。
孝志も孝志で普段は厨二病を馬鹿にしてる癖に、こうやって即座にオーティス好みの単語が思い付く。
やはり弘子の孫で弘子の兄なのだ……その血は色濃くしっかりと受け継いでいる。

そんな中、邪魔されてよっぽど頭に来たのだろう。蚊帳の外だった美咲が怒りで肩を震わしながらオーティスを責め始めた。

「ちょっと、邪魔しないでよ、今私が………松本と話してるんだから……!!それに何よそのふざけた喋り方は……!!」

「う、うむ……失礼した……」

若い子に怒られてタジタジなるオーティス。三十路。
しかもキツイ言い方が弟子のアンジェリカと被り、オーティスは心にダメージを負った。ただ、それを見ていた孝志は不快そうな表情に変わる。


「お前、少しはマシになったと思ったけど……変わらないな……」

「ま、松本くん?」

「ん?ブレイバー?」

「オーティスさんに向かってなんだその口の聞き方は……それにオーティスさんはふざけてる訳じゃないっ!!マジで本気なんだよっ!偶に素が出るけど」

「え……頭おかしいよそれって」

「おいっ!思ってても心の中だけに留めておけよっ!」

「ご、ごめん……で、でも──」

「おいおい、まて君達、ちょっと待ちたまえ、どっちも酷いんだが……?」



──3名が言い合いを繰り広げている最中……



……部屋の扉が何者かによって勢い良く開け放たれた。


「オ、オーティス様……おお、これは勇者までっ!実に有難いっ!!」

「なにがあったのだ?」

入ってきたのは白銀の鎧に身を包んだ王宮の兵士。オーティスは彼の唯ならぬ様子に表情を引き締める。この切り替えの良さも王国三大戦力と謳われる所以なのだろう。


「実は……ネリー王女が、聖王国の使者と口論になりまして……!!今、外交の場は一触即発状態です!!アリアン様が説得してますが、それもそろそろ限界です……どうか御助力を……!!──勇者のお二人も是非よろしくお願いします!!」

「「「え?なにやってんの王女」」」

呆れたように三人は全く同じ言葉を呟くのだった。
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