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7章 普通の勇者とハーレム勇者
マリアへの報告
しおりを挟む──俺はこれまでの出来事をマリア王女に話した。
穂花ちゃん達と逸れてしまった事、魔王を仲間にした事、ユリウスさんがあっさり裏切った事。
みんなと逸れた事以外は信憑性の低い話なので、信じて貰えるか正直不安だったけど、マリア王女は意外にも信用してくれてるみたいだ。
俺が言うのも何だが、もうちょっと人を疑う事を覚えようよ?教養なってないんじゃない王女の癖してさ。
「そう……ユリウスが裏切ったのね……だからあの時、正体を隠していたのね……」
マリア王女は神妙な面持ちで話し始める。
「ユリウスさん……来てたんですか?」
「……ええ……私達を助けてくれたのよ……仮面を着けてたわ………」
「仮面とかださっ」
「…………うん」
なるほどね……実際に不審なユリウスさんを目撃したからこそ、俺の話を信じられたのか。
それにしても……
「……泣いてるんですか?」
「………別に」
目元を抑えてそっぽを向いてるし、鼻声だから間違いなく泣いてると思うんだけど……腹黒王女にも一応は泣くシステムが体内に組み込まれているのね。
ただ……う~ん……あまり深く聞かない方が良いんだろうか?
あの反応を見ると、ユリウスさんの裏切りが悲しくて泣いてるのは間違いない……ただ、ユリウスさんとマリア王女がどんな関係かなんて俺には解らないし……第三者の俺が余計な事を言わない方がいいか?
いや、そうだとしても──
今のマリア王女には、父の国王と兄のブローノ王子が居ないんだ。長女はアレだし、やっぱり俺が一声掛けた方が良いのかも……これまで沢山世話になって来た事だし……
よしッ!ここは俺の神がかった慰めの言葉で安心させてやろうッ!!
「マリア王女ドンマイ!元気出しましょう!あと今日も朝から美しゅうございますね!」
「もっとまともな慰め言葉は無いのかしら?」
なんだとこのアマッ!?
一緒懸命慰めたつもりなんだぞコレでも!!それにめっちゃ葛藤した挙句に発した言葉だと言うのにっ!!
──孝志は憤怒し気付いてないが、今のやり取りでマリアの曇った表情が少し晴れやかになっていた。
大臣やブローノならもっとマシな言葉を掛けてくれるのは間違いない筈……だが、孝志の雑な言葉は意外にもマリアの胸に響いていた様だ。
「──貴方は不思議な人よね本当に。何と言いますか、言動は基本適当なんだけど、不思議と言葉に力が有ると言いますか……何と言いますか……要所要所でしっかりしてるからかしらね?」
「……それって褒めてます?私めの事を褒めちぎって下さってます?」
「そ、そんなんじゃ無いわよ!貴方のそういう所は治した方が良いと思うわよ?うん、割と本音でそう思うわ」
「流石に酷くないっすか?」
「酷くないっすわ。勇者様、私が教育して差し上げましょうか?」
「とても光栄でございますが、私めとマリア王女殿下は同じ年齢でしょう?こそばゆい感じがしますので丁重にお断りします」
「頭おかしいんじゃないの貴方?」
「なんだとぉ?!頭おかしいのはこの国の人間達でしょうがッ!今の所まともな人間少ないですよ。特にダイアナさん以外のメイドとアリア──じゃなくて一部の女騎士の教育を最初からやり直した方が良いんじゃないでしょうかね?」
「メイド達の件は申し訳ないと思ってるわ……でも貴方、途中でアリアンと言おうとしなかった?彼女に告げ口しようかしら?」
「誠に、申し訳、ありませんでしたッッ!!!」
「え、あ、な、なに?その誠意のこもり過ぎた謝罪は……?やらかした家臣でもそこまでの謝意は見せないわよ!?」
──ユリウスとテレサの件を報告した後、以前マリアの部屋を訪れた時と同じく、孝志は雑談にも付き合わされた。
一見すると口論に見える辛辣なやり取り……しかし、マリアは孝志とこうした話をするのが楽しくて仕方ないのだ。
当然だが、他の者はこんな話し方で王女と接する事は絶対にない。
ただ、孝志は割と無礼を平気で言うものの、本当にマリアが踏み込んで欲しくない事を会話の中で掴み、それには絶対触れないように心掛けている。同じ無礼でもそこが雄星との大きな違いだった。
……また、それに付き合わされる孝志もマリアと話をするのが嫌いではないらしく、王女の気が晴れるまで付き合う事にした。
──────────
「──いや、王女なのにその趣味はどうかと思いますよ?アニメや漫画って……今度見せて下さい」
「王女がアニメを観ても良いじゃな──って、見たいの!?もしかして貴方もいけるクチ!?」
「ええまぁ。最初は妹のコスプレ趣味に付き合わされた延長でしたけど、今ではそれと関係なく観たり読んだりしてますよ」
「コスプレ!?妹さんコスプレが趣味なの!?良い趣味してるじゃないっ!そういった類いの衣装を取り寄せるのは流石に無理だから憧れていたのよね~」
「いや着せられる側としては地獄ですよ?緑色のタンクトップ着せられて『お前を殺す』って無理やり言わされて、尚且つ、その姿を録画された日には死にたくなりますよ?」
「え?見たいわ見たいわ!よく分からないキャラだけど見たいわ!やってやって!」
「急に無邪気か!てか死んでも嫌だわ!」
「以外とケチくさいわね」
「僕はケチじゃない!」
いつの間にか二人は2時間以上も話し込んでいた。
10時に孝志がマリアの部屋へ通され、それから12時を過ぎても孝志が一向に出てこない事を心配し、一人のメイドが部屋をノックした。
そしてドア越しに声を掛ける。
「──マリア様……そろそろ昼食ですが……宜しいでしょうか?」
「え……?あっ!!ご、ごめんなさいリアナ!直ぐに用意するわね!」
「はい。では先に行ってお待ちしております」
「ええ。手間をかけさせたわね」
「いいえとんでもないです。では後ほど……」
するとドア越しにあったメイドの気配が消える。どうやら食事を用意しに行ったようだ。
それと同時に孝志も時計を確認し驚愕する。
──げっ!?二時間も経ってるじゃねーか!!
体感だと30分位しか経ってないのにビックリだ。
でもまさか、マリア王女とここまで趣味が合うなんて思わなかったな。
穂花ちゃんはそう言った話はあまり好きそうじゃないから、誰かとアニメや漫画の話をする機会は二度と訪れないと諦めて居たんだ。
それがマリア王女と……意外だったなぁ。
「それじゃ私は行くわね?──折角だから、い、一緒にどうかしら?王宮の食事は貴方達の住む宮殿と味付けが同じ筈だし……ねぇ?」
マリアが初めて兄以外の男性を食事に誘う。
しかし、これを受けて孝志は躊躇なく迷惑そうな表情をする。
「いえ、王女と二人きりとか気まずいので遠慮します」
「……え!?王女とランチなんてレアよ??」
「はは、またの機会に」
マリアは指をパチンと鳴らした。
すると、何処からともなく二人のメイドが姿を現した。
「ライラ、ケイト……この勇者を食事場まで連行しなさい」
例え相手が二人にとって主人候補の孝志でも、王女の命令とあらば従わざる得ない。
しかし、それでもライラとケイトは不安そうに互いの顔を見合わせた。
「その……歯向かうような事を言って申し訳ありません。しかし、あの十魔衆第一位を簡単に跳ね除けた孝志様を、我々が捕らえられるとは到底思えません」
ライラは膝を折りながら意見を述べると、その通りだと言わんばかりにケイトも頷く。
「ふふ、大丈夫よ。松本孝志はむやみやたらと人に暴力を振う方では無いわ──貴女達二人も孝志様の事を主人として支えたいのなら、もっと彼を信用なさい」
「「……はい!!」」
「はい、じゃねーんだわ!──ってちょっと……!」
二人は孝志を連行しようと動き出す。
ライラは孝志の右腕、ケイトは孝志の左腕にガッチリ自らの腕を絡めた。
「では!!勇者様が手をあげないと信じて無理やり連行するっすよ!忠誠心を見せるっす!」
「いや待て可笑しいだろ!!なんで俺を捕らえる事で忠誠心をみせようとしてんだよ?普通逆じゃね?見逃す事で忠誠を示してくれません?」
「「お断りします」」
「んだと?」
ふぅ~……マリア王女の所為で舐められてんなコレ。もう絶対に支えさせてやらねぇからな!!
それに、ここまで聞き分けが悪いのなら……良いだろう、気は進まないが目にもの見せてやる。
『テレサ……ちょっとコイツらに軽く、本当にかる~く、そこから圧力掛けてくれない?』
………
………
……あ、あれ?どうしたんだ?
珍しいな、いつもは話し掛けると速攻で返してくれるのに……いや気付かない時くらい有るか。
テレサだって流石に24時間いつも俺へ意識を向けてる訳では無いだろうし………仕方ない、自分で対処しよう。
俺は元凶のマリアに訴え掛ける事にした。
「実は足が痛くて」
「ライラ、おんぶして差し上げて」
「嘘です」
「ライラ、降ろして差し上げて」
「了解です」
一瞬だが女の人におんぶされたよ……プライドが傷付けられてしまった。てか速かったなこの人。
でもこれ位じゃあ……めげないぜ?
「本当は虫歯で」
「ケイト、歯を磨いて差し上げて」
「うぞでず」
「ケイト、歯ブラシを口から抜いて差し上げて」
「了解っす」
ゔぇ……一瞬だが歯ブラシを口へ突っ込まれてしまったよ……プライドが傷付けられてしまった。
いや今回はマジでショック……まさか、口の中に歯ブラシ突っ込まれるなんて……しかも女性相手に……
あと、歯磨きじゃ虫歯は治んねーわ。
「孝志様。貴殿から重要な話をまだ伺っておりません──魔王を仲間にしたと言う話……食事をしながら詳しく聞かせて貰いますよ?」
「飯くらい静かに食わせて──いやだったら雑談とかしないで、さっきのウチにしとけば良かっただろ!!無駄な話ばっかりしやがって!!」
「それは…!あ、貴方が阿保な事ばかり言うからでしょ!」
「あ、ああ、あ、アホだって!!?この俺がアホだってぇ?!……あんたアレだな?俺の事舐めてるな?舐めてるだろ?やばいキレそうマジムカつく!」
「阿保って言われただけで怒り過ぎよ貴方……では無くて、阿保と言うのは言葉のあやで、その……私だって慰めて頂きたい時が有るんです!!──それと貴方さっきから口悪くない?」
「それはすいません」
さっきまでしてた話の何処に慰められる要素が有ったんだよ……相変わらず面倒くさい女だな。廃嫡されてしまえ。
「ああ、それと、ネリーお姉様もお呼びしましたけど、別に良いわよね?」
「やめてほしいです」
「いつまでも我儘言ってないで良い加減に行くわよ!」
「……もうわかったよ……ぐすん」
今度はマリアが孝志の手を取った。
孝志、マリア……そしてライラとケイトの二人はネリーが待つ食卓へと向かう。
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