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6章 勇者と、魔族と、王女様

恋する少女じゃいられない 〜穂花サイド〜

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~穂花サイド~

──私は魔王城に居ます。
今はフェイルノートさんと一緒に、部屋のバルコニーから星空を眺めてる──うん、とっても綺麗。
孝志さんは星空なんて観る人じゃないけど、いつか一緒に肩を並べてこの景色を観れるといいなぁ。

ううん、孝志さんと一緒なら例え星空じゃなくても構わない。極端な話、そこら辺に落ちてる石ころでもダイヤモンドに変わります。孝志さんが隣に居るならね!これぞ孝志さんマジック!ああ大好き……大好きなのに……いつ会えるんですか。なんで引き裂かれないといけないんですか、ただ一緒に居るだけで嬉しいのに。後は手を繋いだりだとか、抱っこして貰ったりだとか、添い寝して貰ったりだとかもして欲しい。この世界に来てから勇気出して一生懸命アピールしてる……なのに離れ離れって…………そうか、ユリウスか……ユリウスですね……あの男が悪いのか……その所為で……私はこんな酷い目に──

──孝志さんと別れてもう2日が過ぎようとしてますけど、体感だと200年くらい経っています。
夏休みや連休なんかは弘子ちゃん経由で孝志さんの家に遊びに行ったり、弘子ちゃんが遊べない時は家の前で張り込みしてたりと、会えない日は有りませんでした。何故か頻繁に兄を見掛けましたが、もしかして私をストーカーしてたんですかね?ストーカーとか最低な事を平気で出来るあたり兄は異常です。死ねば良いのに……兄の分際で孝志さんの周りをウロチョロしないで欲しい。



「……なぁ?穂花よ……そろそろ部屋に戻らぬか?星空なんて見とっても面白くないじゃろ?」

「あっ!フェイルノートさん、ごめんなさい、少し考え事をしてました!」

「クフフ……当ててやろうか?……松本孝志の事を想っておったのじゃろ?」

「ええぇぇぇぇッッッッ!!!???どうして解ったんですかぁぁッッ!!!!?!」

「いや……お、驚き過ぎなのじゃ……お主と一緒に居れば誰だって解るじゃろうに……」

「そ、そんな事は……ないと……思いますよ……」

それは困ります……孝志さんにこの気持ちを知られるのにはまだ心の準備が要ります……今はまだ知られたくない。
幸い、孝志さんには女っ気が全く無いので、無理に動かなくても彼女が出来る感じが有りませんので安心です。この世にはあんな素敵な人の魅力に気が付かない節穴が多く居て助かりますよ……お陰で私の独り占めです!!

──そう……橘穂花はまだ知れない。
穂花がユリウスに連れ去られてから、孝志を取り巻く女性関係は劇的に進展している。
テレサ然り、アルマス然り、更には男女問わず手当たり次第の人物達と孝志は関係を深めている。
穂花と獣人国へ旅立つ前と比べて、孝志は仲間を増やし、親密な関係の付き合いをどんどんと広げているのだ。
知れば穂花は発狂するかも知れない。


「……それではそろそろ部屋に入りますか──ッ!!ちょっと見てください!!フェイルノートさん!!」

フェイルノートと一緒に部屋へ戻ろうとする穂花は、最後にもう一度星空を見上げた。すると星空の一角が目に留まる。
穂花はフェイルノートを引き留め、そこを指差した。


「──観て下さい!フェイルノートさん!あの星座っぽいの、孝志さんっぽくないですか!?」

「気でも触れたか小娘……全然似てないじゃろ」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

「いや分かったッ!!似ておるからッ!!アレは松本孝志だからッ!!無言で見つめるのは辞めるのじゃッ!!」

──こ、怖過ぎるわ、この小娘……でも此奴は勇者で妾の弱点じゃから下手に手出しも出来ぬし、それ以上に怖いから仕掛けようとも思わん。
ユリウスは本当に人を観る目がない奴じゃのう~……この小娘は松本孝志と引き離したらダメじゃろ!!
今も松本孝志には似とらん星を観てうっとりしてるわい!!妾は早く部屋の中に入りたいんじゃがのう。


「──ねぇフェイルノートさん……恋ってした事ありますか……?」

「唐突じゃのう……うむ……して来なかった事もないぞ?」

「ええッ!?本当ですか!?」

身を乗り出して食い付いてくるのじゃ……こんな姿を見れば普通の少女なのじゃが、松本孝志が関わると人が代わりよるわい。本当に可笑しな娘じゃのう。


「だ、誰ですか!!?──って私が聞いても解りませんよね……あははぁ~……」

「う~ん……言っても解らん事も無いと言うかぁ……」

「解らないことも無い……ですか……?」

「そうじゃ……まぁ何と言うか……妾が恋焦がれてた男性は……兄様じゃ……」

「はぁぁ~~?兄ぃ~~?」

「お、お主、心底蔑んだ目で観るよのう……兄という単語に恨みでもあるのか!?」

「めちゃくちゃ有りますよ」

穂花は肩を落としていた。
まさか自らの兄以外に、兄弟愛を語る人物が現実に存在するとは想ってなかったらしい。
白い目でフェイルノートを見詰めた。普段から雄星にダル絡みされてる穂花にとっては、兄妹愛とかそう言った類の話は禁句なのである。

しかし、兄妹愛を語る同性の意見に興味は有るらしく、穂花は少し踏み込んだ話を聞く事にした。


「その兄様って、どんな人です?」

「うむ……とても優しくて!!強くてなぁ!!……そしてなそしてな!!とてもカッコイイのじゃ!!」

フェイルノートは、まるで小さな子供が話をする時の様な口調で話をした。
本気で兄の事が好きらしい……無論、穂花には理解し難い話だった。


「それだけじゃのうてな!【全知全能】という凄いスキルも持ってたんじゃぞ!!今まで色んな世界を渡り歩いて来たんじゃが、全知全能持ちは兄様以外に出会った事が無いのじゃ!!」

全知全能ってなんでしょうか?
いやでも、聞いても解らないでしょうし、聞かない事にしよう……うん。


「………そうですか。あっ!そう言えば、その兄様って人とは一緒じゃないんですか?」

これを聞いてフェイルノートは肩を落とした。
穂花も軽はずみで無神経な事を聞いてしまったと後悔したが、フェイルノートは沈黙する事なく穂花の疑問に答える。


「……うむ。ちょっと妾的にも許せない話なのじゃが……妾の産まれた世界の神はどうしようも無く臆病の屑でのう……全知全能を恐れて、兄様を別の次元へ飛ばしてしまったのじゃ」

「別の次元……ですか?私達のパターンと似てますね」

「多分同じじゃ……だから妾と──兄様の親友だったティタノマキアと手分けして兄様の行方を探してたのじゃ……だけどその内、変な女神と出逢って千年近くも眠らされてた訳なんじゃ……まぁ八つ当たりでモノを壊しまくった妾も悪いんじゃが……」

「……さっきは兄妹愛を馬鹿にしてしまいましたけど、とても悲しい話ですね……封印される前に、お兄さんとは逢えましたか……?」

フェイルノートは首を振る。


「会えずして時間だけが過ぎてしまったのじゃ。心当たりとしては、とても時間の進みが緩やかな世界に飛ばされたと聴いたのじゃ……それでもアレだけ時間が経てば寿命で死んでおるじゃろうよ」

「え?フェイルノートさんって不死でしたよね……?お兄さんは違ったんですか……?」

「うむ。妾とティタノマキアは兄様を探してる最中に、魔神と契約を結んだのじゃ。どうしても勝てない敵が居ったからのう。じゃから兄様は普通の人間なのじゃ……だから流石に生きてはおらんよ」

「そうですか……ごめんなさい、悲しい話を思い出させてしまって……」

二人とも表情が暗い。
穂花は、兄妹関係の話なんてたかが知れてると甘く見ていたのだが、フェイルノートに聴かされた兄妹愛の話はとても重く、そして報われない悲話だった。


「そう暗い顔するでないぞ?希望がない訳ではないのじゃ」

「希望ですか?」

「そうじゃ。全知全能のスキルはのう、未来を見通す力が基本なのじゃが、もう一つ【魂の転生】という隠し能力が有るのじゃ」

「魂の転生……?」

「そうじゃ。つまり記憶は残らぬが、兄様の魂は消える事なく、違う肉体へと受け継がれ続けるのじゃよ……だからいずれはその魂を持つ者を見つけるのじゃ!」

「……その……見分けは付くんですか?」

「いや全く無理じゃ」

「それだと結局はダメって事じゃないですか!?」

「前途多難じゃろ?……じゃがまぁ昔話はこの辺にして、そろそろ部屋へ戻るか」

「はい……そうですね……」

「いや、よう考えたら夜も遅いし、自分の部屋で休むわい……じゃあまた明日──」

「何を言ってるですか?次は私の番ですよ?」

「………え?」

「とぼけないで下さい。自分が恋バナを披露したなら、今度は私の番ですよ?」

「え……?そんなルール知らんのだが……?と言うか散々聞かされたわいっ!!松本孝志検定が有れば間違いなく特級合格じゃぞ!?それでもまだ足りんのか!?」

「……はい……まだ氷山の一角に過ぎません」

「マジなのか」

言っても聞かなそうじゃ……またあの地獄の時間が始まるのか……もう松本孝志については知り尽くしとるぞ……もう聞きとう無い……!!

「ほ、ほどほどに頼むのじゃ……」

「いいえ……倍プッシュです……骨も残しませんよ……?」

「きょ、狂気の沙汰じゃ……!!」


結局、フェイルノートが解放されたのは明け方……今から六時間後の事だった。
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