上 下
141 / 217
6章 勇者と、魔族と、王女様

橘雄星がやって来る。2 〜雄星視点〜

しおりを挟む


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

★雄星視点★


──遂に……遂にだ!!
ようやくこの時がやって来たと言っても過言ではない!!
俺の実力を見せ付ける時がやっと来たんだ!!

遠くから釘付けの女の子達へ向けて俺は手を振った。
すると、そうなるだろうとは予想出来ていたけど、やっぱり皆は声援を俺にくれたあとに安心した顔になる。
俺が来たからもう大丈夫だと解って貰えたのかな?

それに戦いを行う場所も良い。
パーティー会場でだなんて、まさに俺の為に用意されたステージみたいじゃないか。
なんか俺の思い通りで悪いね、この世。


……それに良く見ると、手を振り返してくれた彼女達……俺の周りに集まって居ることの多かった女の子達だ。全員見た目が非常に良い。


──うん、いいよ……凄い乗って来たよね。
天井に施されたシャンデリアが更に俺を輝かせてくれてるよね。

いや、女の子達とかシャンデリアなんてぶっちゃけどうでもいいっ!肝心なのは松本だっ!!

俺は横目でチラッと松本を見た。


……するとどうだろう?
おいしい所を持っていかれたのがそんなに悔しいのか、奴は俺の姿を観て頭を抱えていた。


──良しっ!!


俺は内心ガッツポーズを決めた。
やっと松本をぎゃふんと言わせる事が出来たんだっ!これほど嬉しい事はないぞっ!
奴とライバル関係になってから437日目にして、ようやく目にモノを見せてやる事が出来たんだっ!


もう達成感が凄いし帰ろうかな?
いやいやダメダメ、此処はやっぱりもっと俺の凄さを見せ付けて、松本に完膚なきまでの敗北感を与えるとしよう!そうだ!格の違いを見せ付けてやるんだ!


「──雄星っ!」

「ん?….…なんだ美咲か。折角良い気分に浸っていたのに──それで?僕に何の要件だ?君を許した覚えは無いんだけど?」

「そ、そんな邪険にしないで……あっ、でも雄星っ!由梨がソイツにやられたの!!」

「何だって?由梨がっ?」

俺は辺りを見渡す。
すると壁際で気を失い倒れている由梨を見付けた。
しかも額から少し血が流れている……あ、いや血は気のせいだった。


──くっ!何にせよ大切な幼馴染をよくもッ!!堪忍袋の尾が切れたぞ…!!もう絶対に容赦しないからな…!!
俺は鞘に納めていた剣を抜き、男へ向けて構える。
悪いが此処は全力で行かせて貰おう。


「ゴールドパワー!!」

力強く叫ぶと俺の全身を金色のオーラが包み込む。
まるで会場全体を照らすように眩い光を放ちながら、黄金のオーラは俺の力を爆発させた。

そんな俺の姿を観た途端、貴族や女の子達から歓声が湧き上がった。
普段から慣れている事だけど、喝采を浴びる瞬間は心地良い……何回浴びても飽きる気がしないなっ!
正直、金色に光ってるだけで何を興奮しているのかと思わなくも無いが、まぁ喜んで貰えたなら良しとするか。


……ま、松本は金色に輝く姿を観てどんな風に思うだろうか?


俺は横目で再びチラッと奴を見る。


………



………


って、今度は全くコッチを観てないじゃないかッッ!!!

何故だ!?急に冷たいじゃないかっ!!
観てて欲しいッ!!松本にはこの姿を絶対見て欲しいのにっ!!いやむしろ松本にこそ観て欲しいっ!!

そもそも黄金に光ってるだけで何が凄いんだこれっ!?
松本に見向きされないんだったら存在する価値なんて無いぞこのオーラッ!?



──雄星が心の中で葛藤し嘆いて居ると、彼と対峙していたカルマが雄星にある質問を投げ掛けた。


「……ちょっといいか?」

「なんだい?」

「君は勇者なのだろう?名前は何という?」

「……やれやれ、君には常識がない様だね。相手に名前を尋ねる時は、自ら名乗りを上げるのが常識だろ?お母さんにそう教わらなかったのかい?」

カルマは眉間に思いっきりシワを寄せた。


「……………ふぅ~~~…………………これは失敬。僕の名前はカルマ……君は?」

「僕の名前は橘雄星……ところで君の名前は?」

「……今……………名乗っただろう?」

「ごめん、聴いてなかったや、はは」

「よしっっ!!今日が貴様の命日だッッッ!!!!死ねぇ!!!橘雄星ッ!!!」

「ま、待たれよ、坊ちゃん!!」

怒りに身を任せて斬りかかろうとするカルマを、明王が全力で止める。力量が全く分からない相手へ無策で突っ込むのは、流石に危ないと判断しての事だ。
止められたカルマも深く息を吐き、我に返る。


「ふぅ~~~………ありがとう、爺や。どうにか落ち着いたよ」

「いいんですじゃ、ここは手堅く、冷静にゆきましょうぞよっ!」(こんなに怒り狂ったカルマ坊ちゃん、初めて見たぞい。橘雄星……ある意味恐ろしい男じゃ)


カルマは明王の言葉に小さく頷いた。
その後、頭を冷やすように額へ指を当てる仕草をした。
そして落ち着きを取り戻し雄星をもう一度観る……の・だ・が──



「──松本ッッ!!流石に我慢の限界だぞっ?!僕の勇姿を何故観ようとしないんだ!!?金色に輝いてるんだぞ!?何が凄いのか分からないけど凄くないか!!?──というかコッチをみろ!!!!」

「お!?……お、お、おぉう……凄くかっこいいと思うよ?」

「え?….そ、そうか!」


なんと…!?当の本人はカルマなど眼中に無いと言った風に、少し離れた場所で大人しくしていた孝志へ話かけていた。しかも内容はどうでも良い自慢話で、重要性や作戦性は全くないものだった。

そんな雄星を目の当たりにし、二人は茫然自失となる。


「……………………」

「ぼ、坊ちゃん……」

もう何も言えんのじゃい。

明王は十歩、後ろへと下がった。


………



………


──カルマは目を瞑り理想の未来を思い浮かべる。
あまりに思考をクリアにし過ぎて鳥の囀りが聞こえてきそうだとカルマ自身が錯覚する程だ。

瞑想しながら思い出す。
自分が魔王軍の頂点に立つという、とてつもなく大きな野望を抱いていた事を。


だが頂点に立つ為にはライバルが尽きない。
特に同じ十魔衆の中でもカルマ、アルベルト、ルナリア、ネネコ……この4名の実力は拮抗している。
僅差でカルマが一番強いというだけの話だ。

だから4名の中の二人が徒党を組んでカルマに挑めば、彼が敗北するのは間違い無いだろう。
そんな程度の実力差では頂点に立ったとは言い辛く、安心を手に入れる事なんか出来ない。
彼は他の追付いを許さない程の力の差で、誰にも脅かされること無く魔王軍を支配したいと考えているのだから。

だからこそ、彼は魔王軍に拘りのない人族最強のユリウスと手を組んだのだ。
しかも魔王に選ばれた瞬間、嫌そうにしていたのをカルマは見抜いており、彼なら簡単な説得で魔王を降りてくれるから大丈夫だと考えている。


──今回のミッションを確実に達成し、王国を滅ぼした犯人をルナリアとネネコの所為だと押し付ける。
そしてユリウスと力を合わせ、ルナリアとネネコを葬り去るつもりで居るのだ。
そうすれば最早魔王軍に敵など居ない。


その点、アルベルトが魔王軍を抜けたのはカルマにとって計算外のラッキーな出来事だった。
彼の性格から出し抜くのは難しく、一番厄介だと考えていただけに、急に抜け出したと聞いた時は自身にツキがあり過ぎて怖かったらしい。

魔王軍という組織は抜けた者には非常に冷たい。
心変わりして彼が戻って来たとしても、アルベルトに居場所など無いだろうから、実質、アルベルトは組織内でのし上がる為の障害には今後絶対に成り得ない。


──肝心の魔王テレサに至っては、彼女の居場所さえ用意しておけば、魔王を降ろされても大丈夫だろうとカルマは考えていた。
そしてあながちそれは間違いじゃなかった。

というより、テレサは一人で居るのが寂しいだけの寂しがり屋なので、ユリウスと同じで魔王には特に何の拘りもないのだ。
その事を、これまたカルマは見抜いていたので、彼女の事はある程度どうにか出来る自信もあった。

もっとも、それも全て孝志とテレサが出逢う前の見立てでしか無いのだが──


ともあれ計画は想像を絶するほど順調に進んでおり、王国さえ抑えれば完遂と言っても良かった。
此処さえ上手くやれば、後は邪魔な十魔衆を倒してカルマは絶対的な権力を手にする事が出来た。
こんな風に、カルマにはこれから輝かしいビジョンが待ち受けている。



──だからこそだ。
カルマは雄星のナチュラルかつ無意識な挑発に乗って失敗のリスクを僅かでも背負う訳にはいかなかった。

カルマは血が滴り落ちるほど強く唇を噛み締め、内に灯った怒りの炎を鎮火させる。
その我慢っぷりは明王が驚くほどの忍耐力である。
全ては輝かしい未来を掴む為に、今すぐ橘雄星を斬り殺したという衝動をカルマはグッと飲み込んだ。



……だが、この日雄星に味わされた屈辱を、カルマは生涯忘れる事は出来ないだろう。
アリアンも本気で怒らせていたし、橘雄星は人を不快にさせる事に関しては本当に凄いのだ。





しおりを挟む
感想 295

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...