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6章 勇者と、魔族と、王女様

王国救援作戦②

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「──それで主人、救援作戦についてですが、前もっていくつかお伝えしたい事があります……宜しいですか?」

「……お、おぉう(あんま解ってないから俺に話振るなや)」

良くわかってない孝志が適当に頷きながら返事をすると、アルベルトは王国の状況を説明し始めた。


「現在、王国の三ヶ所で魔族と人間との戦闘が行われている様なのですが、王国側が交戦している相手が厄介です」

今語っているのは昨日まで自身の仲間だった組織の情報だが、アルベルトは躊躇いなく開示した。
それも厄介な相手とまで言ってしまうほどの清々しい裏切りっぷりに、流石の孝志も苦笑いである。


「敵の数は七名と人数自体は少ないのですが、彼ら全員、カルマの親衛隊と呼ばれるかなりの強者達です」

孝志を含む人間側はカルマ親衛隊と言われてもいまいちピンとこなかったが、彼らをよく知る十魔衆達は反応を見せる。
その中でもミイルフは思わず声を上げてしまうほど驚いていた。


「ふぁっ!?デジマ!?アイツらが出てきてんの?それってヤバくない?」

「……その親衛隊とは強いのか?」

アリアンからの問い掛けに、アルベルトは腕を組みながら静かに頷いた。
取り敢えず、この会議の参加者は天敵だった剣聖アリアンも味方と判断する様だ。


「ああ、このカルマ親衛隊は七人で構成された少数精鋭だが、我々魔王軍では【十魔衆もどき】と呼ばれている。我ら十魔衆に欠員が出た場合は、この七人の内の誰かが十魔衆へ昇格する事になるだろう……それ程の力をそれぞれ有しているのだ」

「……そうか」

(この前倒したザイスって奴より弱いのか……雑魚だな──しかし)

自分にとっては雑魚でも、三大戦力の抜けた王国からすれば危険な存在となる筈だ。
そう考えたアリアンは決して安心する事は無かった。


また、ここで静かだったサイラムが言葉を繋げる。


「左様。そして、十魔衆候補で有りますが故に、実力も我ら十魔衆に匹敵するでござる。一対一では余程相性が悪く無ければ我らが敗戦する事はござらんが、二体を同時に相手とするなら、拙者の様な下位序列の十魔衆だと厳しいでしょうな」

これを聞いてオーティスも話に加わった。


「……それほどの強者か……アリアン嬢……急いだ方が良さそうだな……」

「ああ……アルベルトと言ったな?その三ヶ所とは何処か詳しく分かるか?」

「チッ、人間風情が偉そうに……まぁ良いだろう。場所は王宮の城門前と、王宮から一番近い市街地と、後は王宮内でも既に小規模だが戦闘が始まっている」

「なんだとっ!?既に王宮まで……くそっ!」

「待ちなさいっ!!」

直ぐに部屋を飛び出そうとするアリアンをアレクセイが大声で呼び止めた。


「邪魔をするな、急いで向わなければ──」

「急いで向かった所で、此処からだと半日は掛かってしまうわよ?」

「それはそうだが!!……ではどうしろと!?」

「ふふ、この城の地下に転移装置があるわ。それを使って王国へ飛びなさい。魔王軍の転移装置と違って転移先は固定じゃないから、結界が破壊された今の王国へなら問題なく飛べる筈よん?」

「ほんとうか?!」

「ええ、嘘は付かないわ」

「……すまない……恩にきるアレクセイ殿」

アリアンは深々と頭を下げた。
それに続くようにオーティスもポーズを決めながら立ち上がる。


「済まぬアレクセイ殿……我も昨日……転移魔法を覚えたが……まだ再使用までに時間が掛かりそうだ……故に、どうしたモノかと悩んでいたのだよ」

「へぇ~、転移魔法なんて凄い魔法が使えるのね~……でも確かにあの魔法は一回使用したら、何日か時間を空けないと再使用出来ないからねぇ~」

「……そう言う事だ……世話になる」

「お~けぃ~」

「……ふぅう…………」

今すぐ何とかなると解り、アリアンは落ち着きを取り戻した。
それでも席には戻らず、部屋の入り口前に立ったままアルベルトの方を向いた。

「アルベルト……三ヶ所にはそれぞれ何体の魔族が居るんだ?」

「……城門前に四体、市街地に二体、そして場内に一体だ」


「そうか……城門前はキツそうだな……よしっ!そこには私が一人で行こう」

「うむ……では、我は市街地へ……単独で向かうとしよう」

「なに?親衛隊を相手に単独だと?しかも城門前には四体居るのだぞ?」

これにアリアンが答える。

「戦闘中と言う事は他に人が居るのだろう?魔族と一緒に居るところを誰かに見られる訳にはいかないからな」

この場では特に問題ない。
しかし、流石に王国の人間に魔族と一緒にいるところを観られるのは剣聖アリアンの立場的にはマズイ。
それは賢者オーティスも同じだ。

事前に説明さえすればある程度は大丈夫だろうが、いきなり魔族と一緒に出向くと余計な混乱を招いてしまう恐れがあった。
それに以前、本物の十魔衆ザイスと戦闘経験のあったアリアンは、あのレベル以下の相手なら四人程度なんら一人でなんら問題はないと確信もしている。


「十魔衆のなり損ないなど、何人いようが敵ではない」

「……言うではないかっ!!人間の小娘風情がっ!!」

「おお、勝負するか!いいだろう!」

アリアンの余計な一言に激怒したアルベルトは、魔力を高め戦闘体勢となり、アリアンもアリアンで腰に掛けている剣を掴んだ。
この突然な一触即発を孝志は慌てて止める。


「あ、あの………喧嘩は辞めよう?」

「はい、主人よ」
「わかったぞ、孝志」

「ぬぇぇ!!?……お、おう」

なんて物分かりがいい奴らなんだ……しかもアリアンさんまで……ここまで来ると思い通り過ぎて逆に怖いんだが……?

いや、深く考えても仕方ない。
相手は所詮魔族と狂人だから、俺たちは互いの気持ちを理解する事は出来ないんだ……悲しいけど。
これがまともに生まれて育った宿命だな、お母さんありがとう、良い子に育ててくれて。

しかし、今はそんな事よりも気になる事が……


「あの……ちょっと良いですか?」

「敬語は不要です、主人」

案外、面倒くせぇなコイツ。
……まぁいいか、その方が俺も楽だし。


「おう、じゃあちょっといいか?」

「どうしたのです?」

「いや、俺はアリアンさんと一緒が良いんだけど?」

「……え?わ、私か?」

訓練中は圧倒的に別もんだが、孝志にとって普段のアリアンはかなり頼れる存在だ。
そして、この中で一番強いのはアリアンかオーティスのどちらかだと彼は思う。


──オーティスさんは魔法使いだから、いざと言う時の為に、小回りの効くアリアンさんが一緒に居てくれると非常に安心できる。

正直に、戦力的な理由からの御指名なのだが──


「そ、そうか、孝志は私と一緒が良いのか……嬉しいぞ」

言われた本人は嬉しそうに笑っている。
孝志からあまり良く思われてないと悩んでいただけに、今の孝志の発言がどうしようもなく嬉しいらしい。

──だが、孝志が自分の方を向くと、直前まで笑顔でも彼女は真剣な顔付きとなる。
アリアンとしては、一番弟子の彼に惚けた姿を見せたくなかったから表情を引き締めたのだが、無理に笑顔を止めたので表情が少し引き攣ってしまうのだった。
悪循環なことにそれがまた孝志の勘違いを誘う。


──ア、アリアンさんめちゃくちゃ不機嫌じゃないか?すげぇ顔が引き攣ってんだけど?
もしかして俺が一緒に行きたいと言ったから、甘えるなとか、下手したらキモいとかそんな風に思われてたりするのか?

だとしたらヤバいな……直ぐに訂正しないと後で殺されてしまう。


「冗談です。アリアンさんとは一緒になんて微塵も行きたくなんかありません」

「たかしぃぃッ!!お前は私の心を弄んでどういうつもりだぁぁッッ!!」

「ぬ゛ぇ゛え゛え゛ッッ!!?」

突然前振りなく裏切られ、アリアンは怒りのあまり机をバンバン叩いて感情を爆発させる。
これが魔法で強化した机で無ければ粉々に砕けていた事だろう。


──え!?今まで見せた事ないようなキレ具合なんですけど!?どうしてそんな怒ってるの!?今回に限っては悪い対応は一切して無い筈なのに、怖いよ……助けてアルマス……


「マスター」

「おう、アルマス、心の声が伝わったか?ヘルプヘルプ圧倒的ヘルプ」

「いや、流石に今のはマスターが酷過ぎますよ。私がアリアンさんの立場なら自害してますよ」

「そこまでのこと言ったか俺!?」


──そして段々ショックが膨れ上がり、いよいよ耐え切れなくなって来たアリアンは、アレクセイの方を勢い良く振り返った。


「アレクセイ殿ッ!私は手筈通り一人で行動するッ!──そしてアルベルトッ!確か王宮の門前では四人の十魔衆もどきが暴れているんだなっ!?ええッ!?」

「え、ええ……そうですが……」

アルベルトもアリアンの圧にやられてしまい、思わず敬語な口調で質問に答えてしまう。


「ならば私が今すぐそっちを攻める!」

「今すぐにか!?作戦も建てずにっ?!相手は十魔衆並みに強い奴らが四人だぞ!?明らかに自殺行為だ!!」

「うるさいっ!十魔衆のなり損ない如きが何だと言うのだっ!──アレクセイ殿、先ほど話していた地下の転移装置を借りるぞ!確か結界内部以外なら好きなところに転移出来るんだったな!!城門前へ直接頼むッ!!」

「……ふぅ~……了解したわ。ただし、それは送るだけの装置だから、帰って来るにはまた別の装置がいるの。それは私が持って行くから後で合流しましょう?」

「わかった、では直ぐに行ってくるっ!──孝志のばーか!ばかばかばか!嬉しかったのにッ!」


捨て台詞を最後に置いて、顔を真っ赤にしながらアリアンは部屋を飛び出して行った。
後でどんな訓練が待っているのだろう……実に楽しみである。
アレクセイも装置を起動するためアリアンの後を追うのであった。


「──俺、バカじゃないし……なんなんあの人、酷くないか?あんなにバカって何回も言わんで良いのにさ……なぁアルマスもそう思うだろ?」

「………いやいや、流石に反省なさい」

「………………え?」

あのアルマスが庇ってくれないんだけど?
もしかして本当に俺が悪いんじゃないのかこれ?


……………


……………



はは、いやまさかなっ!

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