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6章 勇者と、魔族と、王女様
テレサは純粋だから白色
しおりを挟む──あいつら後で覚えておけよ。
アルマスはまだ良いけど、オカマとおばあちゃんはしばらく口聞いてやんないからな!
何が孝志ちゃんだよまったく……舐めんじゃないよ!
しかも服に女性特有な甘い匂いも染み付いてるし……早めに風呂入るしかないか、クソッ!
孝志が不機嫌に廊下を歩いて居ると、後ろから声を掛けてくる人物が現れた。
自称、孝志の親友(まぶだち)アッシュである。
「──よぉ、変態野郎」
「ああん?急になんだよ?今の俺は心狭いから気を付けろよ?」
「自分で言うのかよ……それはそうと、さっき部屋の隙間から覗いてたんだがよぉ……おめぇ女と抱き合ってたじゃねーか、ありゃ変態だぜ?」
「いろいろ言いたい事あるけど、覗いてたお前の方が変態だからな!」
「ッッ!!?……言われてみれば確かにそうかもしんねぇ……気を付けねぇとな……」
「いや素直過ぎんだろ。ヤンキーはもっと悪くあれよ」
「なんだそりゃ?──でもよぉ、流石にアレはやべぇんじゃねーか?側から観たら変態だったぜぇ?」
「君もしつこいねぇ……!アレは別に変態でも何でもねぇよ……つーかお前、本当の変態が何なのか知らないな?」
「おう?変態はさっきのてめぇだろ?」
「ちがわいっ!てか良い加減にしろよ?アレは嫌々なんだよ、俺の意思でああなって無いから、俺が責められる筋合いは無いんだよ!」
「そ、そうかよ……まぁ何でも良いがよ」
「良くねーよっ!──そこまで言うなら、変態が何なのか、お前に見せてやるよ!」
「……そこまで言うならって……そんなに言ってないだろうがよ……」
孝志はアッシュの言葉を聞かず、真の変態がどう言ったものなのか証明するため行動を開始した。
そしてその行動とは実に不可解なものであった。
「──テレサ、聴こえる?孝志だけど?」
魔王の名前を孝志が口にした瞬間、嫌な予感のしたアッシュはすかさず止めに入る。
「お、おい、孝志!魔王を巻き込むんじゃねぇーよッ!失礼だぞ!あと殺されんぞッ!?」
テレサの本質を知らないアッシュにとって魔王とは、強く恐ろしい存在だ。
二人が深い関係にあると知らないアッシュは、孝志が魔王を怒らせるんじゃないかと不安を抱く……
……が、当然、アッシュの心配は杞憂に終わる。
『──はぁ~い、孝志~……今日もカッコいいね!えへへ~、ずっと話し掛けて来ないから心配だったよぉ~、でへへ』
「……ん、え?だ、だれ?魔王?マジ?うそ?」
脳内音声をあえてオンにしたので、アッシュにもテレサの声が聴こえている。
アッシュには呪いへの耐性があるとはいえ、少しは影響を受けている筈だが、それが気にならないほど魔王テレサの孝志へ対する甘えた声に驚愕したようだ。
こんな魔王などアッシュは未だかつて見た事が無い。
──いったい、この二人はどんな会話を繰り広げるのだろうか……?
アッシュは興味深く二人の会話を聞いていた。
だが、この時の孝志は死ぬほどバカだった。
「──その……はぁはぁ……テレサ……いま何色のパンツ履いてるの……?」
どうだ、アッシュ!!
変態とはこういったのを言うんだよ!!
さっきまでの俺は全然変態じゃねーからな!!
──多分、弘子やアルマス達の所為で孝志はおかしくなってしまったのだろう。
さっきの自分が変態では無いと証明する手段として、自身が考えられる限り最大の変態発言を見本としてテレサに行ったのである。
最早ただのセクハラ。
テレサはこの男を訴えても充分勝てる案件。
孝志から『どんなもんだ?』とドヤ顔で観られているアッシュはもう、どうな顔をすれば良いのか分からなかった。
ただ、アレほど恐ろしい魔王に対して平然とセクハラ発言を言ってのける孝志の事は、親友だが天井知らずの阿保だと思う事にした。
だが、孝志が調子に乗って居られるのも此処まで……これより、テレサから思わぬ反撃を受ける事となる。
『──今のパンツの色?……白だけど?──可愛いピンクのリボンが付いてて凄く可愛いんだよ!』
「「……え?」」
何を隠そうテレサはパンツの色とか普通に言ってしまうタイプの子。
他の人になら言わないだろうが、孝志に嘘を吐きたく無いテレサは彼になら平気で言う……しかも恥じらいなんて微塵も抱かずに。
寧ろパンツの色を孝志に知って貰えて嬉しいとすら思っている。
そしてそんなテレサの大問題発言に孝志とアッシュは同時に声を上げていた。
孝志は『なんだコイツは?』といった感じで声を出し、アッシュの方は『魔王はこんな頭が緩かったのか?』という何とも言えない心象で声を上げていた。
「……あの……テレサ?俺が言うのもアレだけど、そういう事は言わない方が良いよ?」
『え?どうして?聞いて来たの孝志じゃないか』
「そ、そうだけど……」
マズイな……このパターンはいつものテレサの可愛さに負けるヤツだぞ……俺としては『そ、そんな事聴いてこないでぇ!』ってな感じに照れられるのを期待していたのに、テレサ幾らなんでもおかしいだろ……
孝志がテレサの処理に困り果てているが、ここぞとばかりにテレサは畳みかける。
『そんなに気になるんなら見に来なよ』
「…………どぅえ?それってパンツをですかぁ?」
『うんっ!えへへ……別に孝志だったら見られて良いからね!それに僕のパンツ気になるんでしょ?』
「………………いや…………う~ん……そんな急に、ねぇ?いきなりそんなこと言わても」
『……でも、僕のパンツが見たいんだろ?』
「…………………………………………………………………………………………………………………………見たいよそりゃ」
『でしょ?……じゃあ、こっちおいで』
テレサはそんなつもり無いが、実に蠱惑的な誘い方に孝志は思わず固唾を飲む。
「…………………………………………幾らなんでも淫乱過ぎるんじゃない?俺にパンツを見せてどうしたい?純粋な俺の心をこれ以上弄ばないでくれる?」
『?……淫乱って何?』
「え、そこ?ってか淫乱知らないの?……やっぱりテレサIQ低いでしょ?」
『た、確かに頭はそんなに良くないけど、でも僕すごく強いから戦闘では孝志を護れるよ!……IQ3でもドーンと任せなさい!』
──この子は俺を告らせたいのかな?
てかもういいわ……俺の敗色濃厚やんけ。
テレサは卑怯。もうあの三人とは訳が違うね。
……とりあえず、此処は撤退だな。
「……あの、俺から話振っといてこんな事言うのもアレだけど、これ以上は身体が保たないから通信切っていい?」
『ちょっと何言ってるのかわからないけど……もしかして僕あまり頼りにされてない?』
「いや、まぁ、頼りにしてるけど……じゃあ、もうこれ以上は本当に俺がもたないから通信切るね?」
『……え?でもパンツは?』
「もうええちゅーねん!じゃあ、後で会いに行くから!」
『は~い……じゃあ後でね……楽しみだな~えへへ────あっ、そうだ』
「どうしたの?」
『──大好きだからね』
「お、おぉう……」
ここでテレサとの通信は途絶えるのだった。
「………………………」
「………………………」
──二人は無言だった。
アッシュは自身の想い描いていた魔王像が滅茶苦茶にされ少し戸惑い、孝志に至ってはテレサに完全敗北して悔しい気持ちになっている。
「アッシュ、こてんぱんにやられたぜ」
「俺もだぜぇ……魔王ああいう性格だったんだな」
「ああ、俺にとっては初めて会った時からあんな感じだぞ」
「そうか…………なぁ孝志よぉ」
「どした?」
「……ありがとよ、魔王様を救ってくれて」
「……アッシュ、おまえ本当に良い奴だよな──それはそうと、お前んとこの魔王大丈夫か?いろいろとヤバくね?」
「俺に言わせればどっちもやべぇぞ」
「んなことねーよ、俺はヤバくねーし──あっ、でも良く良く考えたらやっぱりパンツは見に行くべきだったかな?その辺どう思う?」
「…………おめぇのそういうとこだぞ?」
「マジか?」
その後、アッシュと反省点を話し合いながら孝志は部屋へと戻って行った。
──────────
──陽は登っており就寝時間にはまだまだ早いが、孝志はベッドに身を投げ体を休ませていた。
そして先程のテレサの事を想い浮かべる。
「はぁ~……テレサには参った……実力でも勝てないし、言葉でも勝てないな……」
自分の事を心から信用しパンツの色を尋ねれば、頼んでもないのに自らパンツを見せようとするドスケベなテレサ。
──本当に俺の事を信じ切っている。
もちろん俺自身、テレサを裏切ったり傷付けたりするつもりは無いが、こちらの冗談も通用しないほど依存させてしった事を少し申し訳なく思ってしまう。
──だが実はテレサ程では無いが、過去に孝志を心底信用し、彼に依存していた人物は一人存在していた。
「【みっちゃん】……俺が引っ越してから結局一度も会う事は無かったけど……元気にしているかな?」
──まだ彼が小学生だった頃、ある事をキッカケに自分に懐き、何度も告白してくれた同い年の少女。
……テレサと話をしている内に、孝志はその時の少女の事を思い出していた。
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