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6章 勇者と、魔族と、王女様

初めまして、これから宜しく

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──ヤバいな。めっちゃ気不味いじゃん。

アルマスの粋な図らいで……俺的には傍迷惑な図らいだけど、アイツの所為でおばあちゃんと二人きりの状況となってしまった。

いや、もちろんおばあちゃんの事が嫌いだから迷惑に思っている訳ではない。
二人っきりで面と向かうと、気恥ずさや気まずさが込み上げてくるから嫌なのだ。
と言うより、行方不明だった筈のおばあちゃんと異世界で出会うなんて、これ以上に気不味い出来事がこの世にあるのだろうか?……いや無いってほんと。

なのでこの場は是非とも第三者に仲介して貰いたい。


だって肝心なおばあちゃんは、モジモジしながら俯き、時折顔を上げてコチラをちらちらと見て来るだけ。
なんっっにも行動を起こす事もなく、俺の様子や出方を伺っている。

つまり、俺が主導権を握らなければならないのだ。
普通は逆なのに。


俺はフッとアルマスの方を向く。
こっちに来いとジェスチャーするが、アルマスと隣に居たアリアンさんから『行け』と逆に指でジェスチャーされてしまった。

……アルマスはともかく、アリアンさんからの指示を無視する訳には行かない。
なので、仕方なくコチラからおばあちゃんに話掛ける事にした。


──俺は軽く深呼吸をして覚悟を決めると、恐る恐るおばあちゃんに話し掛ける。


「おばあちゃん……どうも」

「え!?あっ、ど、どうも……あはは」

「…………」

「…………」


くっ!話が終わってしまった……!!
コミュ症かよ!……いや、俺も人の事言えないけども。

と、取り敢えず、もう一度、今度は話が続きそうな言葉を掛けてみるか……


「会えて嬉しいよ」

「……え?嬉しいの?」

ずっと気まずそうだったおばあちゃんが、この一言で少し落ち着いた気がした。
まだ、たった一言の返しだが、声が明るかった様に思える。

……よしっ、年寄り受けしそうな雑談で話を拡げようと思って居たけど、この路線で話を進める事にしよう。


「……いや、当たり前だよ。おばあちゃんの話を聴いてさ、直ぐに会いたかったんだよ?」

「……本当に?……おばあちゃんと会えて嬉しいの?」

「それは勿論。それにしてもおばあちゃん、若いなぁ~」


……てかマジで若いな!女子大生くらいにしか見えないんだけど!?


「……ぁ……うぅ……」

「…………あっらぁ?」


突然、弘子が泣き出してしまった。
孝志は『年齢の話は泣く程ダメなのか!?』と、変な勘違いをして困り果てている。

だが、当然そんな事で泣いたりしない。
今、孝志が話題作りの為に放った何気ない一言が、孝志から拒絶されるんじゃ無いかと心配だった弘子の不安を解消したのである。

なのでこの涙は、そんな安心から生まれた安堵と嬉しさの入り混じった……そういう涙だ。
アルマスに引っ張られた驚きで完全に止まった筈の涙だったが、孫から……血の繋がった家族に受け入れて貰えた事で、再び目蓋から溢れ出していた。


──それから数分ほど経ってから、ようやく弘子は泣き止んだ。
今日だけで沢山泣いたが弘子は涙脆い人間では無い。
王国を追放された時も、魔王アレクセイと激戦を繰り広げた時にも決して涙を流さなかった。

この世界に来た所為で家族と引き離された時、元の世界へ帰れないと知った時、アルマスが居なくなった後、そして孫と出会ったこの瞬間。
弘子がこの世界に来て泣いたのはこの4回だけである。

いつだって弘子が涙を流すのは、家族を想った時や、大切な者を失った時なのだ。


空気が読めない様で、肝心な時はしっかり読む孝志は、弘子が泣き止むのを黙って待っていた。
そんな孝志の気遣いに、弘子は微笑みながら感謝の言葉を口にした。


「──ふふっ……ごめんなさいね?いきなり泣いたりして……でも大丈夫。ありがとう孝志ちゃん」

流石の孝志も、途中から年齢の話をされたから泣いてたんじゃないと気が付いたようだ。
微笑む祖母へ対し、優しい言葉を掛ける。


「いやいいよ、おばあちゃんにも思う所があったんでしょ?おばあちゃん、ずっと辛い思いをしたって聞いてたし気にしないで?」


──孝志は猫を被る。
取り敢えず初対面の人物が目上であるなら、良い子ぶる癖が孝志にはあった。
普段の孝志なら思っていても、こんな気恥ずかしい事は中々口にしない。

そして案の定、今の言葉で弘子からの好感度は尋常じゃない程に跳ね上がった。


「えっと……抱き締めちゃってもいいかしら?」

「え?急になんでなん?」

「い、良いでしょ?か、家族なんだから……ね?」

「んん~~…………いや……う~ん…………」

孝志は腕を組んで真剣に悩む。
これがアルマスなら問答無用で突っぱねるが、相手は孫との出会いで泣くほどの喜びを露にしている祖母なのだ。
しかもこの状況を作り出したのが、自身の放った何気ない労わりの言葉が発端なので断り難い。


なので、本当は家族に抱き付かれるのは凄く嫌だったが、祖母の熱意に負けた孝志は、今回に限り抱擁を受け入れる事にした。


「……まぁ……程々になら……」

それでも返事は敢えて曖昧にする。
今の返事のトーンで『何となく孫が嫌がってる事を察してくれ!』そんな想いを込めて、孝志は意図的に曖昧な返事を返した。


……だが、そんな孝志の智略を他所に、本人から許可を貰った弘子は孝志の胸に思いっきり飛び込んだ。


「──ゔぇ……!」

「ふふふ、夢みたい。まさか、血の繋がった家族と、こうして抱き合えるなんてね……京子は元気?」

弘子は孝志の胸板に頬っぺたをくっ付け、家族の事を尋ねた。


「……ゔぅ……いだい…………京子?ああ、お母さんの事か……元気にしてるよ。この前冗談でババアと言ったら、ボコボコにされちゃったよっ!ははは!」

「そ、そう?げ、元気そうで良かったわ──ふふ、それにしても、あんなに小さかった子が、今は母親だものね……大きくなって嬉しいけど、成長が観れなかったのは残念だわ……貴方のお爺ちゃんは元気?」

「お爺ちゃんも元気だよ。それとあの爺さん、再婚はしなかったみたい。今でもずっとおばあちゃんの事を愛しているみたいだよ」

「~~!!もう!何やってるのよ!あの人は!……けど凄く嬉しいわ。あの人を愛して良かった」

「けど夜のお店にはよく行ってましたよ」

「……ん?……そ、そう……あんまり聴きたく無かったけど、男の人なら当然よね」

「はい。僕にもそう言ってました、男だから仕方ないって!とんでもないでしょあの爺さん!ハハハ」

「………………」

(この子、さっきから一言多いわね…………




…………ま、超絶可愛いから何を言っても許しちゃうけど!!うふふ)


調子に乗った弘子は、腕を孝志の背中へと回し、より一層力強く抱き締めようとした……が──


──その光景を少し離れた位置で観ていたアルマスが、猛スピードで二人の方へ走り出した。


「──ちょっとお客さん、これ以上は困ります、今直ぐ離れて下さい」

その勢いのまま二人の間へ強引に割り込み、弘子から孝志を引き剥がした。


「──ちょっと……感動の出会いなんだけど……?なにしてくれてるの?」

「そっちこそ何してくれてんねん、若作りばばあ」


──おっ、毒舌アルマス、久しぶりに観たぜ!
最近コイツ甘々だったからな……でも何で怒ってんの?あと何で関西弁やねん。


「誰がばばあよ!私は年寄り扱いされるのが嫌いなのよ!ってかなんでそんなに怒ってんの!?」

「いやいや、人の男に何勝手に抱き着いてんの?出会いの御膳立てをしましたし、孫だから手で触れるまではセーフだけど、抱き付きはNGに決まってるでしょ?……しかも何気に腕を背中に回そうとしていたよね?──そもそも私以外が抱き付くのは、マスター嫌がるんだけど?何故なら孝志は私の事が心底大好きだから!!」

「クソアルマス、てめぇこら」


孝志はアルマスの戯言を聴いて、未だかつて抱いた事の無いような余りにもドス黒い殺意を抱いた。


「そうなの孝志ちゃん?いまアルマスが言った事は本当?」

「いいえ、そんな事実はございません。今の言動は何もかも全てアルマスの捏造です。今直ぐぶっ殺して下さい」

「さ、流石にぶっ殺すのはちょっと……」

「ぶっ殺してくれたら、おばあちゃん大好き」

「うん、私殺るね」

弘子は笑顔でぶんぶんと腕を振り回し始めた。
ヤル気になった弘子を観て、アルマスも身構える。


「弘子……本気?」

「流石に殺しはしないわよ。ちょっとお痛が過ぎるから、痛めつけるだけよ……そうよね?孝志ちゃん?」

「ううん。痛め付けるだけじゃなくて、殺して欲しい。俺に心底愛されてるとか嘘ついたアルマスは到底許せないの」

「そ、それは流石に……」

「おばあちゃん大好き!!」

「うん、殺る!」

「弘子……あなた、墜ちたわね……?」

「うるさい……孝志ちゃんに愛されたいから、コッチは必死なのよ。好感度を良くするには最初の出会いが肝心だからね!」

「…………」

「…………」


──弘子は即答で孝志の頼みに頷き、今もこんな事を言っているが、内情は非常に複雑だ。
抱き合っている所を邪魔され、アルマスに対してイラついているが、当然、アルマスも大好きなので殺るつもりは毛頭ない。

しかし、孫が余りにも可愛すぎたので了承してしまったのだ。
……なので今はどう誤魔化そうか悩んでる最中。


──そしてアルマスだが、彼女も孝志が本気で言っているとは考えて居ない。
だが、冗談とは言え、弘子に殺害を依頼する位に怒らせてしまった事に凄まじく動揺していた。
なんせ孝志も自分の事がどうしようもない位に好きだと信じていたからだ。



「良いぞねぇちゃん達ッ!!ひゅーひゅー!!」

「わははは!!喧嘩か!!良いな!!楽しみだ!!」


──なんかアッシュとアリアンさんがうるせぇな。

てかアッシュ居たのかよ!?アリアンさんが来てから急に居なくなったけど?
……さてはあの野郎、アリアンさんにビビって逃げてやがったな?今もアリアンさんからは離れた所に居るし……へたれヤンキーが……!早くジュース持って来い!


……でも気持ちは凄い解る。
アリアンさん、怖いもんね!俺もあの人怖いぜ!


──しかし、ぶっちゃけ孝志も内心かなり焦っている。
何故なら冗談で言ったことを弘子が二つ返事でOKしてしまったからである。

だから、どうやってこの場を納めようか悩んでいた。
一言『今のは冗談』と言えば、弘子の心情を察するに何もかも万事解決する案件なのだが、それは孝志のプライドが許さなかった。

孝志という男はこういう男だ。
本当によくわからない場面で、よくわからない意地を張る……そして、今がその意地の張り時らしい。


……そんな中、身構えた状態で弘子もアルマスも孝志の方を見る。
その瞳からは、いつになったら止めるのか?と眼言が孝志へ放たれていた。


「──おいおいおいッ!いつになったら始めるんだよッ!待ちきれないぞ!おい!」

「弘子殿もアルマスも!互いに隙だらけだぞ!何をやっているっ?!早く仕掛けるんだっ!!」



『『『外野がうるさいな』』』


……三人は全く同じ事を思った。



だが、アリアンとアッシュ……二人の反応を見て、孝志はアリアンがこれ以上ボルテージを上げると乱入して来るんじゃないかと恐れた。


なのでやむ終えず孝志は二人の仲裁へと動き出す。
そんな孝志を観て、喧嘩にならずに済んだと二人は安堵の溜息を吐くのであった。


「二人とも、冗談だよ。本当に喧嘩はしないでね」

「ふぅ~……孝志ちゃん……そうじゃないかと思ったけど、少しびっくりしたわ……アルマスもごめんね?でも出会いを邪魔されて怒っていたのは本当よ?」

「いえ、私の方こそ、言い過ぎました。でもマスター……冗談でも殺って良いなんて言わないで……少しショックでしたよ」

「ごめんごめん、超ごめん」

「反省の色がまるで無いですね──あと弘子、出会いの挨拶を邪魔したのは申し訳無いですけど、孝志に抱き付くのは、私の許可が無いとダメですからね?」

「アンタまだそんな冗談を言ってるの?」

「……え?冗談?」

「……え?本気?」

「勿論ですとも。ただでさえ、この世界に来てから橘穂花がベタベタして来てイラついてるのに、これ以上は耐えられません!!」

「た、橘穂花!?だ、誰よそれ!?」

「……………………」

孝志は熱を帯びて行く二人の会話を黙って聴いていた。


──テレサと普段抱き合ってる事や、アリアンさんがベッドに潜り込んで来た事をアルマスが知ったらどうなるだろうか?
……でも、テレサの場合はアルマスどうせ近づけないし、俺が余計な事を言わなければ大丈夫な筈だ。

でもバレない様に気を付けないとな。


…………


…………

…………あれ?


…………え?なに?この浮気男みたいな感じ?
なんもやましい事してないのに……いや、してない事も無いけど、それでも何で俺がアルマスなんかにビクビクしなきゃなんないんだよ。

孝志はアルマスを睨み付けた。


「……?…………あっ!……パチンッ」

そして見つめられてると勘違いしたアルマスは、笑顔でウインクを返す。
孝志はそれを思いっきり無視する。


「………………あっ!そう言えば!──おばあちゃんに会ったら、ちょっと聴きたい事が有ったんだった。アルマスなんか正直どうだって良いんだよ」

「え?自分から見てきたのに無視するなんて……酷い」

「わかったわかった、後で沢山見てやるから」

「絶対だからねッ!!??」

「うおっ!?う、うん」

相変わらず面倒くさい奴だな。
まぁ別に見つめるくらい良いけど。


「それで孝志ちゃん、聴きたい事って何かしら?何でも聞いて頂戴よね?」

「あ、そうだった。あの、もしかしたら怒られるかも知れないけど──」

「何を言ってるの!何を聴いたって怒らないわ!……どうしてかって?それはもう愛してるからよ!」

「なるほど」


この人、あれだな……アルマス系統のヤバい人だな。
だってアルマスと話をしている時と会話内容が同じだもん。

……いや、可愛がって貰えるのは本当に有り難いけど、限度があるじゃない?
まさかアルマスがもう一人増えるなんて…………まぁ今はいいか、後で慰謝料代わりに小遣い沢山貰うとしよう。


──孝志は意を決して、ある事を尋ねた。


「その……こんな時に聴くことでは無いと重々承知しているんだけど、本当にどうしても気になる事があって……あのですね──」











「──なんで水着姿でキメポーズをとってたの?」

「……………………ゔぇ!!?」

ずっと楽しそうだった弘子の表情が、一瞬にして凍り付いた。
そしてそれを観たアルマスは『ヤバい』と聞こえて来そうなほど苦い顔になる。


「いや、アレクセイさんが写真を見せてくれたんだけど、いい歳してああいう事するのは辞めといた方がいいよ?」

「みみみ、観たの!?それよりアレクセイも私のコスプレ趣味知ってたの!!?」


え?コスプレだったの?
予想を遥かに超えたヤバさなんだけど?

あっ、そう言えば弘子(妹)もコスプレしてたな。
魔法少女のコスプレを見せられて、尚且つ感想を聴かれた時は本当に辛かった。

……それにしてもおばあちゃんと同じ趣味だぞ!良かったな弘子(妹)!!


孝志はコスプレ好きな妹を想いながら、弘子(婆)との会話に集中する。


「はい。なんかアレクセイさん隠し撮りしてたみたいだよ……あんなの見せられて、孫として恥ずかしかったよ」

あ……つい本音が……


──孝志の言葉を聴いた弘子は、顔面蒼白でヒクヒクと口元をひきつらせている。
そして、頭を抱えてしゃがみ込んだかと思うと、急に唸り声を上げ始めた。


「……あぁぁ゛…………あ……あ……ああ、アレクセイッッ!!!!」



この後、弘子は訓練場を飛び出してアレクセイの部屋へ殴り込んだ。


──また、怪我人に対して一切の容赦は無かったという。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~魔王城~

「よく来たな、アイヌス」

魔王城の薄暗い一室。
ここは新設された魔王軍四天王──その中の一人、カルマの自室である。

同じ魔王軍四天王・アイヌスは、カルマからの呼び出しを受け、この部屋を訪れていた。


「よぉぉぉおおお!!来てやったぜぇぇぇ!!!」

「……ああ、ありがとう」

元十魔衆のトップとは言え、十魔衆は解体され上下関係は無くなった。
なのでカルマは偉ぶる事なく、対等な相手に対して感謝の言葉を述べた。


「んんででぇぇぇ!!?俺を呼んだってことはさぁあぁ??何か任務が有るってことだよねぇぇ!?」

「ああ、そうだが……良いのか?今の俺はリーダーでは無いが……?」

「はあぁはっはッ!!気にすんなぁぁ!!俺もナイフを舐めること以外特にやる事ないからよぉっ!!」

「……そうか、助かる」

何も突っ込まないのは慣れてるからだ。
因みに、このハイテンションっぷりも普段通りの彼で間違いない。


そして、了承を得た事でカルマはある作戦をアイヌスに持ち掛ける事にした。


「──現在、ユリウスが我ら魔王軍の新たな魔王に君臨した……それは大変喜ばしい事だが、彼は余り乗り気じゃ無いからね。目を離すと逃げ出してしまいそうだ」

「ははっははッ!!違いねぇ!!」

「そうだろ……?──何か飲むか?」

「血はあるかぁッッ!!?」

「……吸血鬼が保存してる血なら有るけど……どんな種族の血が御所望かな?」

「俺の血とかぁッッ!!?」

「……それはないよ」

「ハッハァッ!!じゃあ飲みものは要らないぜぇぇ……」

「……わかった」

カルマはコーヒーを飲んで一息着きたかったが、客としてもてなしているアイヌスが断ってしまったので、仕方なく自身も我慢する事にした。
また、自家製のコーヒーをアイヌスに提供出来なかったのを、カルマは少し残念に思った。


「でぇ?俺に頼みたい事ってぇのは、魔王ユリウス様に関する事なんだろぉ?」

カルマはその問いにコクンと頷く。


「──そうだよ。ユリウスは王国という帰る場所が有るから、魔王軍を抜けたがってるんだと思うんだ」

「まぁそうだろぉなぁ」

「なら、帰るところを失くして終えば、彼は諦めて魔王軍に残るんじゃないかな?」

「ほぉうっ?するってぇとつまり?」

「──今、王国にはユリウスだけでなく、三大戦力が姿を消しているそうだ。剣聖アリアンは居るそうだが、アレは宮廷魔法使いによる不完全なダミーだ。しかも六神剣も殆どゼクスが引き連れて【祠】へ向かっているし……今の王国はかなり手薄な筈だ──だから、今のうちに王国を滅ぼしてユリウスの帰る所を失くしてしまえば良いだろう」

「……そんな事して恨まれねぇか?」

「……フッ、バレなければ大丈夫だ。その為、今回の件は僕とアイヌス……そして僕の親衛隊のみで行うつもりだ」

「なるほどなぁあ~、けど、王国には勇者も居るんだろぉ?……それと、あんたぁ国王とは協力関係にあるんじゃないのかよぉ?」

アイヌスからの疑問に対し、カルマは苦虫を噛み潰した様に表情を歪めた。


「──王国に残った勇者は大した事ないよ……それと、国王の方は……………………僕たちを裏切ったよ……!」

「おおぉぉ?」

「合流を約束していた時間はとうに過ぎているのに、僕は愚か、ユリウスにすら一切連絡が無いんだ……信じた僕が愚かだったよ……恐らく、彼は自分だけで【願い】を叶えている筈だ……!」

「なるほどなぁ~【死んだ人間を生き返らせる】っていう例のあれかぁ~──あんたがユリウス様を魔王にした理由がいまわかったぜぇぇッ!ようは裏切られた八つ当たりだろぉ!?」

「…………半分はね」

「半分?」

「そう──そして半分は同情。裏切られた者同士のね」



─────────


──それから数分ほど話をして、カルマは作戦内容をアイヌスに説明し始めた。


「──君には外敵の侵入を妨げている【結界】を、王国内部へ潜入して壊してもらいたい」

「なるほどなるほどなぁ……そして、結界を破壊してから、お前が部下を連れて王国内へ流れ込むって言う訳かぁッ!」

「そういう事だ。本来、王国内への侵入は結界に妨げられ、我々魔族には不可能だ──だが、君なら……君のユニークスキルなら、それも可能となる」

「へへへぇぇ~…………【クリエイティブ・トランス】」


アイヌスは声を上げて自身のユニークスキルを発動した。

──すると、アイヌスの姿形は一瞬で変容し、自らの姿を【ユリウス・ギアード】に変えた。


「……これでいいか?魔王様に変身なんて、本当はあまりやりたく無いんだがな」

アイヌスはやれやれと首を振りながら面倒くさそうに喋り出す。先程とはまるで別人の様だ。
アイヌスは見た目だけでは無く、動きや細かい仕草までユリウスそのものとなった。


「──流石だアイヌス。姿形だけで無く、性格や種族まで完璧にユリウスだ。人間となった今の君なら、あの結界に引っ掛からず王国内部へ潜入出来るだろう」

「そうだな、人間達の検問にも引っ掛からないだろう」

「そう言う事だ──では、行動を開始してくれ。アイヌス、手強い敵が居ないとは言え抜かるなよ?」

「はは、それは普段のユリウス様に言ってくれ」



──アイヌスはすぐさま行動を開始した。
彼は地下から人間のエリアへと繋がるワープ装置に入り王国へと向かう。


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